第149話 「コスプレ会デート」
「―――――――私が選んだのはこれです!」
店の奥から着替えて出てきたフリチラリア。
緑と茶色を基調とした、清楚ながらも上品な雰囲気のクラシカルベストワンピース。
ハイウェストのスカートは、彼女の美しいスタイルを強調している。
膝上の丈であることから、その美脚がスラリと伸ばされていて彼女の魅力を余すことなく引き立てていた。
ゆっくりクルリと一回転すると、細やかな意匠が施されている高級感があるデザインであることが見て取れた。
最後に優雅に一礼すると、女の子らしい可愛らしさがとても映える。
「皆様、ご鑑賞ありがとうございました…………なんちゃって♪ ぇへへ……」
小さく舌を出しながら照れ顔を見せた、年頃の少女。
快活な少女の見せる隙が、彼女の素朴で純真な内面を思わせた。
「わぁ……かわいぃ! とっても似合ってるよぉ……!」
「ぎゃ゛わ゛い゛ずぎる゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛」
顔の横で手を合わせ、目を輝かせるエーデルワイス。
俺は限界オタクとなった。
「あはは……これは照れますね……! じゃ、じゃあ次はエーデル様がお披露目ですね!!!」
「ぅん……あまり自信ないけど……頑張るから見ててね……?」
「見りゅ見りゅ見りゅ~~~♡♡♡」
照れからか矢継ぎ早に、次の発表を勧めるフリチラリア。
その言葉は慌てたからか、しどろもどろだ。
急かされたエーデルワイスは、俺に消極的に念押しした。
そんなのもちろんだよ♡
そして婚約者は店の奥へと消えていった―――――――
「―――――――ぉ兄ちゃん………どうかなぁ…………」
店の奥から緩慢とした足取りで出てきたエーデルワイスは、もじもじと自信なさげにしている。
しかし期待の籠った視線を、ちらちらとこちらへと向けてくる。
身に纏うのは大きな白いリボンのついた、赤と黒の色合いであるクラシカルロリータ。
彼女のイメージカラーと色合わせをしているのだろう。
良家のお嬢様にピッタリの、可愛らしくも品のある着こなしである。
弱気にしている割には、色使いのポイントを押さえているな。
ロリータファッションの中でも、フリルやリボンなどの装飾は少ない。
だからこそ彼女自身の存在感が、損なわれることはないのだ。
足元には重厚な黒いブーツがあり、ふんわりと大きく膨らんだフレアスカートと相反しているようだが、見事なる調和をもたらしている。
このコントラストは彼女の美貌を、鮮烈に印象づける。
引っ込み思案なこの少女も、耳目を集めること必至の洒落たデザインだ。
「ぎゃ゛わ゛い゛ずぎる゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛」
「よかったぁ……ぇへへ♪」
「本当によくお似合いです! かわいい服がこんなに似合うなんて、憧れちゃいます♪」
安心したように微笑むエーデルワイス。天使だ。
フリチラリアは喜色満面の笑みで、その愛らしさを称えた。
俺は限界オタクとなった。
「嬉しぃなぁ……♪ 見せてょかったぁ……! フリチラリアちゃん……それじゃ……」
「はい! お次はアルタイル様! 私たちで頑張って選びましたから、楽しみにしてくださいね♪」
「俺は全然楽しめない」
「そんなこと言わずにどうぞどうぞー♪」
フリチラリアに背中を押され、俺は死んだ目で試着室へと向かう。
そして彼女たちセレクトという布切れを見て、露骨に苦い顔をした。
死ぬほど面倒くさいが、ほぼ無理やり着せられる。
「これめっちゃ着にくいんだけど…………足元スースーするし……」
「まぁまぁ! そこは女の子はオシャレのために我慢ですよ! ほら! お姿を見てください♪」
「女の子じゃない」
フリチラリアは鏡を見るように促す。
その前にのっそりと移動し、別に見たくもない己の無様を確認する。
そこにあるのは数多のレースとフリルをあしらった、品のある黒をベースに白や金色の装飾が施されたゴスロリ。
それを気品溢れた清楚すぎる金髪美少女が着ていたのだった。
バッチリとした大きな目は憂鬱を湛えて潤んでおり、幼くも危険な色香を放っていた。
どんな宝石よりも光輝を充満させたような黄金の髪は、軽く身じろぎするだけで一本一本が美しく空に舞う。
あまりにも完成された美が、この場に顕現していた。
「んぎゅほぉっっっっっ!?!?!? ゴスロリたん萌えー―――っっっ♡♡♡♡♡ 痛っっっっった!?!?!? 顔打った…………………ってこれ俺だったぁー――――!?!?!?!?!?」
極上の金髪ロリが目視される。
神秘的かつ退廃的に、表情を物憂げに染めていた。
しかしすぐさま光り輝くような満面の笑みに一変し、俺はそれを我が物にしようと反射的に飛びつこうとした。
彼女も愛くるしい動作で飛びついてきたが、鏡に阻まれ激突して俺は痛みに悶える。
しかしその可憐に涙ぐんだ表情が、自分と同じ動きをしていることに気づく。
俺は絶望的に萎え、ガックリと膝をついた。
もう感情の振れ幅が揺れ大きすぎて、頭おかしくなるわ。
「…………何やってるの……おにいちゃん……」
「だってよぉ……男の性なんだよ……」
「……あは……は…………でも本当に可愛らしいですよ♪」
心底どうでもいい。
楽しみにしていたはずなのに、早く帰りたいよ。
「これはアルタイル様にピッタリの、品がありながらもガーリーな雰囲気を演出しました! 素晴らしい出来栄えでしょう♪」
「ガーリーじゃないから」
「どうなることかと思ったけど、すっごく楽しいねぇ! また来たいなぁ」
「もちろん一緒に遊びましょう! 王都にはたくさん遊べるところがあるんですから♪」
この俺を差し置いて、二人で勝手に盛り上がる少女たち。
不満が募り、文句を言いたくなる。
いくらデートだからと言って、女のやりたい事ばかり押し付けられる筋合いはない。
「うるさいうるさいうるさい!?!?!? つまんないつまんない!!! もう来ない!!!」
「私はまた来たいなぁ」
「そんな寂しいこと……言わないでください……」
ジタバタと拒否を表明すると、二人にそっと俺の手を握り締められた。
寂しげな4つの瞳が、俺の目と合う。
女の子の柔らかく温かい感触が接して囁かれたら、もう逆らえないのだ。
「でへへへへへ!!! そんなに言うなら仕方ないなぁ♪ 次もデートしようね♡」
「はい! また今度もファッションショー決定ですね♪ さて、次はどんな服にしましょうか?」
「お兄ちゃんは、どんなお洋服も似合うから困っちゃうねぇ……」
「………………」
これだよ。
女って豹変するよな。
自分の都合をすぐ押し付けてきやがる。
だめだ。俺が主導権を握らなけば。
アルコル家に嫁に来るなら、亭主関白だからな。
こういう小さなところから、女房を躾けてやる。
「化粧替えタイムー――――!!!!! お前たちばっかり楽しんでズルいズルいズルい!!! 俺のいうことも聞いて!?!?!?」
「はぁ……なんでしょうか?」
「次は俺の着てほしい服も着て!!! 交換条件!!!」
「…………いぃけど……ぉ兄ちゃん女の子の服なんてゎかるの?」
「わかるわ!!! むしろ女に着てほしい服の方が多いから、詳しいまであるわ!!! それはすべての男に共通する、普遍的法則かもねぇ!?!?!?」
俺の悲鳴染みた言葉に、二人は耳をうるさいとばかりに塞ぐ。
そしてうんざりしたような口調で、やっと俺に下手にでてきた。
「ゎかったから大人しくしよぉね……? 他のお客さんに迷惑だよぉ……?」
「ハイ決定! じゃあ持ってくるから待ってろよな!」
「いいですけど……不安ですねぇ……約束もしたし、それくらいなら私はいいんですが……」
既に見繕っていたコスプレ服を、ダッシュで取りに行く。
俺の見立ては絶対正しい。
大体の場合、選りすぐりの良品が人気となるのだ。
ならばそれを用意すればいいだけ。不満足に終わるはずなし。
俺はそれらを見つけ、にんまりと笑みを深めた―――――――
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