第148話 「英雄的コーディネート(皮肉)」
詳しいフリチラリアもいることだし、買い物ならここだ。
店の新規開拓するのも楽しいが、ギャンブル要素を多分に含む。
今回は滅多に会えないエーデルワイスとのデートだから、失敗はしたくない。
目の肥えたアルコル家の女性陣にも好評だったし、ディースターヴェーク商店なら間違いないだろう。
「本日はようこそいらっしゃいました。アルタイル様。また当店へご来店下さり、光栄の至りでございます」
「あぁ。突然の来訪だがよろしく頼む。店を見させてもらおう」
「承知いたしました。控えておりますので、何かあればお声掛けください」
アゲナはこの数少ない言葉で察したのか、如才なく俺たちの意図を汲み取り望む通りの判断を下す。
相変わらず鼻が利く、イケメン商売人だ。
そこに突発的な思い付きではあるが、ある疑問を投げかけた。
この大商店の若き店主は、顎に手を添えて考え込む。
「なぁ。試着とかはできるのか? 汚さないから」
「ふむ……本来ならありえないことですが……英雄様になら、喜んで承りましょう。英雄様が着た服というのなら、箔がつくというものです」
「えぇ…………? まぁお言葉に甘えるわ……」
この世界では衣料は貴重なもの。
服が飽和し、安易に試着できる前世とは違うのだ。
より楽しむため念のため尋ねると、思わぬ承諾が帰って来る。
流石にそれは気色悪いなぁ……自分から願った手前、今更拒否はしないが……
「本当ですかぁ!? やったぁ♪ ありがとうございますアルタイル様♪」
「喜んでくれたなら何よりだ。存分に楽しんでくれ」
「はいっ♪ 行きましょエーデル様!」
「ぅんっ!」
小走りで服が収められた陳列棚へと向かうフリチラリアとエーデルワイス。
俺はそれにゆっくりと歩いて後を追う。
「――――――――?」
「――――――――♪」
姦しくファッションについて語り合いながら服選びをする二人を、ぼんやりと眺める。
こうなると男としては肩身が狭い。
世の彼氏連中はどんな風に、これを乗り切ってるのかなぁ……?
誰も教えてくれないからわからん。
はっ……! こういうところで友達がいないデメリットが……!?
俺は一人考え込み、血の気が引いた。
「―――――――アルタイル様も私達と一緒にコーディネートして、後でお互いに見せ合いっこしませんか?」
「俺? まぁいいぞ。暇だしな」
「それじゃあ決定です♪ 楽しみにしてますから、楽しみにしてくださいね!」
思考の迷宮に惑うところに、かけられた声。
視線を向けると、悪戯っぽく笑ったフリチラリア。
朗らかな声での提案に、俺も明るくなる。
さて、俺も服選びでもするか。
生き生きと服選びをしている女性陣に背を向け、俺は服を手に取った―――――――
「―――――――俺ファンタジー衣装めっちゃ似合うな。やっぱイケメンは違う」
めちゃくちゃにカッチョイイ、頭の上に届くまで襟が立ったモード系の開襟シャツ。
その肩には素晴らしい出で立ちの、棘つきのマントが一体化している。
俺のスタイルの良さを引き立てる、ぴっちりとボディラインを強調する前衛的衣装だ。
お次は足元も見てほしい。こうしたところにも気を遣うのが、男のセンスが問われるところだ。
男は尖っていてナンボ。
靴先もトンガリと鋭利なフォルムである。
これで人殺せそう。違う意味で悩殺しちまうがな☆
他と隔絶した俺という存在を、この靴は表しているのだ。
「――――――――☆」
闇夜に溶けそうなモノトーンでまとめられた、大人かつ危険な魅力が醸し出されている。
俺という超絶的個性をも光らせる着こなしだ。
鏡の前で次々にイケメンポーズをとるが、どれも様になっている。
颯爽とマントを翻し、己が闇の秘密結社の一員であるようにイメージする。
最高にキマッてるぜ……!
最後に俺の稀なる知性を表した、ツルリと輝く質感の帽子。
それは完璧を表す、真円という形状。
少し自己主張の強い他のアイテムと調和を図るため、アクセントとして装着したのだ。
この溢れる知性!!! 世界が感涙に溺れちまうぜ!!!!!
しかし察しのいい者ならば、俺の美しい金の髪が隠れてしまうと危惧する者もいるだろう。
案ずることなかれ。
この帽子の頂で髪を束ね、リボンのような形状にするのだ。
そうすれば自慢のチャームポイントも、損なわれることはない。
みんなには隠された、この深遠なる意味が理解できるだろうか?
カリスマファッションリーダーくらいにしか、わからないかもしれない。
またもや恐ろしい才能を発揮してしまった。美的センスまで光ってるね☆
「さて、最後にシルバーつけて、おっ! このチェーンもいいな。ベルトもたくさんつけれるのか……大は小を兼ねると言うしな。全部つけちゃうかぁ!!!!!」
マジ迸ってるわぁ……! これが俺流!!!
どんなに自画自賛してもまだ足りない。これはみんなにも見て貰わなくちゃ!
これは女の子たちの黄色い悲鳴も請け合いだな。
みんなの視線を刈り取ってやるぜ☆
いざ出陣である。
俺は自信と共にカーテンを開け、彼女たちにはち切れんばかりのスマイルを向けた。
「………………!!!!!?!!?!!!?」
「………………あ……ぁ…………」
「偉大なるカリスマコーディネーター、此処に参上!!! 世界中の美女が俺に釘付けとなる前に、お前たちだけに独占公開だ♪」
素晴らしすぎるファッションに、言葉を失う二人の少女。
フリチラリアは喉を振り絞るように、声とも呼吸ともつかない音を出した。
子どもにはこの美を表現する言葉を見つけるのは、荷が重いだろう。
だが二人の記憶に鮮烈なる痕跡を残すために、俺はトキメキ☆ポーズをとる。
キレてるキレてるよぉ~~~! 仕上がってるよぉ~~~!
セクシーに腰をへこへこと前後に揺らし、他の男を見えなくさせる。
はいっ! ズドーン!
腰を突き上げ、決めポーズだ。
そこにようやく声がかけられた。
メスの顔をしていることだろう。
俺はウィンクしながら、キメ顔で振り返る。
視線の先には震えまくるビブラートでエーデルワイスが呻く。
「――――――お兄ちゃん…………その絶望的センスはヤバいよぉ……身の毛もよだつ程に壊滅的だよぉ……この世のものとは思えない戦慄を覚えたよぉ……最悪過ぎて誰もが背筋どころか魂を凍らせ、感情の終焉を迎えるよぉ…………」
「嘘じゃん……? それはお茶目のはずだよね? 本当なら俺、相当イタいやつってことだぞ?」
想像を絶する誹謗中傷。
衝撃的現実は俺を押しつぶし、耳を疑わせた。
今日の俺のプライドボンバーに、拍車をかけることとなった。
俺は疑念と共に、再度問いかける。
エーデルワイスは哀れなものを見るような視線を俺に送り、口を噤んだ。
なんだろう……?
この視線は前世でも注がれたような……?
実害はないから気にしたことはなかったが、何か閃きそうだが……
「フリチラリア……?」
縋るように、もう一人の女の子に目を向ける。
いや今のはエーデルワイス独自のセンスだ。
他の人の意見も聞くべきだろう。
標本調査ということだ。
彼女はしばらく歯切れが悪く無言でいたが、空気に耐えかねたのかおずおずと言葉を絞り出した。
「不都合な事実を、英雄様に突きつけるわけには……」
「もう抉り抜いとるやんけ」
日頃の饒舌をもってして、俺を褒め称えないのか?
声を疲れ果てながら無理に出すように、求めてもいない御託を並べるこのなんもわかってないガキ。
全然期待してた気持ち籠ってないじゃん。
そして更なる追撃が俺を襲う。
「お兄ちゃんのお洋服は、わたしが選んであげないと……」
「はぁ!? 生意気いうなっ!?」
「ダメだよぉ……無茶だよぉ……世の残酷さに深く傷つく前にやめといた方が、無難だよぉ……」
「エーデル。生意気出してきたね♡ 悪い子だね。悪い子はお仕置きだよ……?」
「おにいちゃん……お顔怖いよぉ……」
「そんなこと言うとか、お仕置いっぱいして欲しいってことだもんね♡ 手加減なしの全力でひんひん言わせてあげるからね~♡ 媚び媚びの切ない声出して誘惑しやがって♡ 小さく息を弾ませながらイヤらしく雌だして、欲しがり視線送ってきやがって♡」
挑発的な煽り文句と艶姿をさらし、オス煽りをするロリ巨乳。
少し後ずさりするが、俺から全力で逃げようともしない。
知ってるんだからな♡ 俺の性的欲求に疼いている姿見て、興奮してる淫乱な本性を♡
旦那様のご機嫌取りしろ♡ 誘い受けマゾが♡
男心を弄びやがって♡ 軽率にムラつかせやがって♡
思い知らせてやるっ♡
「さっきから全然素直じゃないなぁ~~~だったら素直になるまで、直接おっぱいに聞いちゃうよ♡ そうすればそんな余裕、一瞬で吹き飛ぶからね♡ ゴクッて喉動いてるのバレバレ♡」
旨そうな肉を前に、涎を垂らしながら近づく。
豊かな二つの山を食い入るように見つめ、今日はどんな風に弄繰り回してやるか想像する。
そしてついに、俺の手がそれを捕食しようとする。
エーデルワイスは上気した顔でごくりと喉を鳴らして、期待と歓喜に揺れる瞳で俺の手を見つめ――――――
「―――――――アルタイル様? このお洋服アルタイル様も着てみませんか?」
「わぁ! かわぃぃ!」
「邪魔をするなぁぁぁぁぁしかもそれ女物だろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ったくいいタイミングに、思わせぶりな態度で出てきやがって。
わかって話の腰を折ってんのか?
まぁこの子は俺に惚れているからな。
広い心で許してやるとするか。
好きな男が他の女と話しているのを見たら、つい魔がさしてしまうのもやむなし。
女の子たちにモテモテな伊達男には。わかっちゃうんだなぁ……
ったく困ったおませさんだぜっっっ!!!
そんな折、意味ありげに2度も同じことを言うフリチラリア。
その意図がつかめず、俺は耳を疑う。
「ですからアルタイル様も着てくださいね! 約束なんですし」
「は? だからなんで? 意味わかんねーぞ?」
「無理言ってアゲナさんにお願いしたんです。アルタイル様が着ないと、無料とはいかないじゃないですか」
「あぁー――――!?!?!? そうだったー――――!?!?!?」
アゲナが言っていたのは、俺が試着するのは無料だという事。
つまり女の子二人が試着するのは、有料つまり購入だという事。
あれ……? 何でアイツなんも言わなかったの?
まさかわざと黙ってて、俺に全部買い取らせるつもりだったのかな?
きっと英雄である俺に、強く言えなかったんだよね? そうだよね?
軋む首を何とか後ろに向けると、アゲナは薄く微笑んで黙礼を続けている。
てかフリチラリアもそれわかってたはずだろ。
俺は彼女に非難の抗議をしようと、視線を向けた。
彼女は俺を見ながら、まるで捕食者のように嗤っていた。
これ勝てないやつ。
恐ろしくなり、俺は瞬時に目を逸らした。
人を陥れることが巧すぎる狡猾な人間、それが二人も相手なのだ。
穢れを知らないピュアな心の持ち主の俺が、優位に立てるはずないよぉ……
「……………うむむむ……」
これはもう買って持って帰るか?
いやそんなことしたら、女装に目覚めたとか思われても困る。
だが俺のサイズじゃ、もうカレンデュラは着れないだろうし…….
ルッコラはあのムチムチ下半身じゃ、どう考えても無理だし……
ステラなら……?
寸法が正確に合わないと、意味ないか。
男と女じゃやっぱ違うし……
アイツも最近成長してるからな……
「それでも俺が着るのはおかしいだろうがー――――!?!?!? 英雄が着た女物の服って、もうドン引きだよ!? 絶対言い訳つかねーよ!?」
「ぉ兄ちゃん………ゎたしお兄ちゃんが約束破るところ、見たくなぃな……………」
「嘘つきの英雄様ですか……それは失望してしまいます……」
「ぐぅっっっ!?」
エーデルワイスがウルウルとした瞳で、俺が弱いところを的確に突いてくる。
フリチラリアもそれに便乗して、悲しそうな表情を一瞬で取り繕った。
こいつら……!? 女だからって安全地帯で調子に乗りやがる……!?
「わかったわかったよ!? 一瞬だけだからな!?」
「…………うんっ! ふふっ…………♪」
「お前やっぱ面白がってんじゃねーかぁぁぁぁぁ!?」
小悪魔出してきやがって!?
後でお仕置きだからな!?
周り全てが強敵だらけで、なす術がない。
この戦場における弱者である俺には、手の施しようがなかったのだ。
「ならお前たちも、俺が選んだ服を絶対来てもらうからな!?!?!?」
「ふふふっ……♪ いいよぉ……!」
「どうぞどうぞ♪」
ころころとおかしそうに笑う、小さな婚約者。
覚えておけよクソガキども……人様の尊厳で遊びやがったことを後悔することだぞ……
深謀遠慮を潜ませ、俺はそのきっかけとなった以前見つけた、ある棚にある衣装の数々を思い起こしていた。
意趣返しのための悪魔的報復計画は、すでに用意しているのだ。
いい気になっていられるのも、今のうちだけだ。
俺は屈辱に震えながら、試着のための衣類を手に取った。
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