第146話 「少女たちの出会い」
王都の往来を闊歩する、小さな影が二つ。
俺たちは歓談に花を咲かせながら、足を進める。
陞爵式から数日が明け、様々な貴族やら聖職者やら商人やらへの対応にとりあえず片が付いた。
それでも父上たちは、根回しなどで忙しそうにしている。
その間にこうして俺はエーデルワイスと、久しぶりにゆっくりと話すことができた。
お互いに近況を報告し合うが、どうしても近日の印象的な話が主となる。
となると当然の帰結として、かの祝宴で起きた事件が中心になっているのであった。
心浮き立つはずの逢瀬で、気が滅入る。
「散々な目に遭った……心は今も、悲鳴を上げ続けているよ……」
「可哀そうぉ兄ちゃん……おつかれさま……」
鈴の鳴るような甘ったるい声で、俺を労わる婚約者。
つかの間の癒しのひと時。
安らぎに満ちた時間を、2人で共有する。
「でもでも! 今日はこうしてエーデルと会えて、元気出たよ♡」
「ぅ……うん! …………ぁのね……? わたしも……!」
エーデルワイスの肩を抱き寄せ、頬ずりする。
ルビーのような深い紅の瞳が、俺を困ったように映す。
ぷにゅんっ♡と布越しに触れる、柔らかい温もりが腕に伝わる。
腕を谷間の内側に挟め、小さな鼓動を楽しむ。
ムヒョヒョ♡ たまらんのぉ♡
すぐ寝室にでも連れ込みたい衝動に駆られるが、今はデート中。
でもやっぱり最後の最後は……グフフフフ♪
「―――――――アルタイル様? お久しぶりです!」
足を止めていたその時。
背後から、懐かしい声。
それを記憶から掘り起こした俺は、心を弾ませ振り返る。
「フリチラリア! 奇遇だな!」
「はい♪ お久しぶりでございます!」
エプロンドレスを着た女の子。
以前王都で出会ってできた、初めての友達。
フリチラリアが路肩より現れ、こちらへとやってきた。
エーデルは怪訝な顔をしている。
デート中に、話に置いてけぼりにさせるわけにはいかない。
現れた少女の説明をする。
「エーデル。こいつはフリチラリアってんだ。えーと……そうだな……」
「初めまして! 私はフリチラリアと申します! アルタイル様のご友人をさせてもらってます!」
何と関係性を表現するべきか迷っているうちに、挟まれた声。
屈託なく笑いながら、臆することなく元気に挨拶するフリチラリア。
そうだ……!友達だった……!
使ったことのない言語だったから、咄嗟に出なかった……!
やっぱ陽キャすげぇ……
俺とは生まれ持ったテンションに差があるよ。
やっぱ人は生まれ出た瞬間から、友達の人数が決まっているのかなぁ?
その思考に至った瞬間、俺は運命を呪った。
「おにいちゃん…………」
その言葉を向けられたエーデルは声と唇を震わせ、目を見開いている。
俺とフリチラリアを交互に見つめ、信じられないといった面持ちであった。
……やべっ!? デート中に他の女と会っちゃった!?
さすがに気に食わなかったのかも!?
エーデルワイス怒ってるかな……?
俺は気後れしながら、彼女の言葉を待った。
「…………お友達いたんだねぇ!!! ゎたし心配したんだよぉ……? お兄ちゃんぉ友達のお話、全然しないから……」
「…………あぁそっちかー! ……ってなんだその生意気な口はー―――!?!?!?」
「ぃふぁいよぉ……ぉにぃひゃん……」
思わぬ切り口に、思わず面食らう。
しかしその意図を掴むと、安堵と驚愕は怒りへと変貌する。
お仕置きでエーデルワイスの両頬を引っ張ると、涙目で俺を見つめ返してくる。
蚊の鳴くような声で痛みを訴え、懇願するように弱音を吐いている。
なんか……嗜虐心がムクムク湧いてきちゃったあ……♡
それを窘めるように、フリチラリアが腰に手を当てて言及する。
非難の目を俺に向け、困ったように制止を訴えた。
大人げなかった部分もあるのでここは一つ我慢してやり、エーデルワイスのもちもちの頬から手を放す。
「アルタイル様! めっ!ですよ! 女の子をいじめちゃ!」
「チッ! 悪かったよ!!! ありがたく思えエーデル!」
「……………はぁ」
ジト目で俺を見るエーデルワイス。
非難するように、視線を送り続けている。
文句言いたいのはこっちだ。まったくこっちの気持ちも考えろってんだ。
そして彼女はフリチラリアの方向をちらちらと見ながら、口をもごもごさせている。
俺はいつものように、この黒髪の少女の言葉を待った。
フリチラリアもワクワクしたような表情で、それに下腹部のあたりで手を組んで待っていた。
ようやくエーデルは、おずおずと感謝を口にする。
もじもじするその姿はフリチラリアにとっても可愛らしく映ったのか、柔らかな笑みを浮かべていた。
「ぇと……その……………ありがとぉ」
「いえいえ♪ かわいい女の子を助けるのは、当然のことです!」
気配り上手さんだ♡
ってなんだよ助けるって?
まるで俺が悪いみたいな言い草だ。
失礼な奴だ。
まぁ所詮は子どもの言う事だと、俺は流してやった。
二人の女の子の話は進んでいく。
「あぅ………そんなこと……ないよぉ…………ぁなたの方が……可愛いもん……」
「嬉しいです! ありがとうございます♪ アルタイル様の、世界で一番可愛らしい彼女さん!」
「ぅう…………」
「ぶひょひょひょ! エーデルたんは俺の嫁だもんね☆」
「あら! ラブラブですね! 色々お話を聞かせてくださいな♪」
そしていつぞやに訪れた公園に移動し、木陰で話し続けた。
フリチラリアの人を寄せ付ける天性の魅力が、エーデルも虜にしてしまったようだ。
話が達者なこの茶髪緑目の少女は、エーデルワイスからも巧みに言葉を引き出している。
相性が良くてよかったな。
エーデルワイスも庶民の女の子と話せて、いい刺激になるかも。
フリチラリアなら誰とでも仲良くなれるであろうが、それを加味してもいい関係になれると思う。
昔からの親しい友のように打ち解け、彼女たちはすぐ仲良くなった。
「――――――お兄ちゃんはね………プレゼントくれたの……その……前のお出かけで……」
「前のデートにですか!? わぁー――! 羨ましい! 大事にされてますね♪」
「でへへへへへへへ♡」
美少女たちの恋バナ…………あ、甘ずっぺぇ――――!!!!!
きゃわいいぃぃぃぃぃぃ♡ 美少女たちの恋愛トーク萌え萌え♡
笑みを浮かべた口に手を添えて、気持ちが昂り弾んだ声のフリチラリア。
恥ずかしそうに俯くも、にっこりと顔を赤らめてたどたどしく話すエーデルワイス。
耳元にある俺が送ったルビーのイヤリングを、忙しなく手で触っている。
ぢゅひひひひひ♡ かわいいね♡ 俺のお姫様♡
運命の相手である彼女に、溢れんばかりの愛の念を送る。
あいらびゅー♡ あいらびゅー♡ めっちゃあいらびゅー♡♡♡
愛が極まった結果、俺の脳はエーデルワイスの形にちぎれて戻らなくなった。本望だ。
「ところで今日はどうされたので?」
「ふふん♪ 今日はぁ~~~♪ 俺のお姫様とデートなの☆ ギュヒヒ♡」
「――――――っ!」
話の流れでフリチラリアは疑問に思ったのか、俺たちがこの場にいる理由を聞いた。
それに胸を反らしながら答える。
今日はキャワイイ恋人との、愛の時間なのだ☆
隣にいるエーデルワイスは体育座りをして、膝に顔を半分埋める。
照れてる~♪ も゛う゛ぎゃ゛わ゛い゛ずぎる゛!!!!!
「まぁ! 素敵です♪ 私も憧れちゃいます! って私ったらお邪魔でしたね! 申し訳ございませんでした。お二人でどうぞ楽しんできて――――――」
そう言ってフリチラリアは朗らかに笑う。
俺は鼻を高くして、機嫌よく語りだそうとした。
その時だ。
俺は気が付いてしまった。
驚天動地の衝撃的事実に、脳内緊急事態発令。
心臓が激しく動悸する。
なんという事だ……俺はとんでもない思い違いをしていたのか……!?
きっと狼狽を顔に漂わせていることだろう。
それを隠す余裕もなく、急ぎフリチラリアへと密談を持ち掛けた。
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