第140話 「シファー宰相の目論見」
俎上に載せられているのは、俺が拝領したキララウス山脈に関しての懸案。
ものものしい雰囲気が、その場を支配していた。
……また、一悶着あるようだ。
対立が顕著になる、シファーとアルコルという王国最大級の2つの政治派閥。
隣へ視線をくれると、エルナト殿は表情を消してそれを観察している。
外面を取り繕える事態ではないことから、こいつも平静ではいられないのだろう。
そこでは長年外交に揉まれてきた貫禄があるお爺様と、王国政治を差配する宰相が舌戦を繰り広げていた。
現当主として十分以上の任を果たしている父上ですら荷が重いと、前当主であるお爺様は判断したのであろう。
刺々しいやり取りの応酬が、幾度となく交わされる。
ここにおいて利害関係の対立から、猛烈に意見を軋ませていた。
ぎすぎすした関係性がこの場において表面化し、外交戦の威圧感を感じる。
「――――――猛威を振るったと聞く新種の魔物。危険であるという認識は一致しているかと存じますぞ。であるからこそ、キララウス山脈近辺の調査を必要とすることはご理解いただけるかと」
「もちろんですとも。しかし時期尚早かと。我らも兵の損耗が著しく、再編成に時間がかかっております。一朝一夕にとはいかないと、ご理解いただけるかと」
「兵力が回復しなければ、戦争は出来ないと。理に適っておりますな。逆説的に兵力が充足していれば、戦いに赴くことが可能と」
勿体ぶりながらシファー宰相が、ゆっくりと牽制するような言葉を口にする。
お爺様がその意図を把捉しようと、違った切り口から探りを入れた。
「かねてより奏上していた王国騎士団への各貴族家割り当て率の増加は、受け入れてくださったのですかな? 充足率も年々、度重なる戦乱により下がっている一方。反比例的に負担が増加している東部軍管区からは、悲鳴のような嘆願があるかと察しますが。中央はどのようにお考えで?」
「いかにも。対策を日夜講じております。結果として王国騎士団の損耗率は、激的に改善いたしました。快進撃を続ける、アルコル侯爵家のおかげとも言えます」
損耗率は回復した。しかし勘違いしてはいけないのが、練度は上がっているわけではないということ。
こればかりは時間をかけないと、どうにもにならない。
突然ベテランがどこからか生えてくるなんて都合のいい話は、この世界に存在しない。
宰相の侵攻を推奨するという論調は、未だ画餅に過ぎない。
それでも因果を含めて軍事行動を渋るアルコル家に、抵抗を諦めさせようと説得するため。
シファー宰相は、にこやかに持論を押し付けようとしてくる。
「左様で。それならば訓練が完了次第、合同作戦でも計画すればよろしいでしょう。まともに軍事行動もできない部隊ばかりでは、性急に過ぎるかと存じます」
「案ずることはありませぬ。王国騎士団に入団する以前より、魔法に長けているオーフェルヴェークの残党を、アルコル侯爵家の元で使って頂いて構いませぬ」
「……………」
「奪爵したオーフェルヴェーク侯爵家の郎党たちのうち、取り調べから嫌疑の晴れた者。王国魔道院の職員でオーフェルヴェークと縁が濃かった者。みな王国騎士団へと禄を食むため、入団いたしました。王国最高レベルで魔法に優れる彼らすべてを、あなた方の意のままに。如何様にも扱っていただいて構いませぬよ。我らはそれに関しての行いを一切感知しませぬことを、この場にて約束いたしましょう」
お爺様の眉間の皴が、一瞬濃くなる。
俺も思わず舌打ちをしたくなる。
あんななよなよした研究者どもが、戦場で役に立つわけがないだろうが。
オーフェルヴェーク侯爵家という魔法の大家であるイザル殿たちですら、戦場では右往左往してほとんど役に立たなかったぞ。
アルコル家の精兵たちと比べること自体が、悪条件ではあるが。
このシファー公爵はどこまで考えているのだろうか。
いけしゃあしゃあと彼自身でも信じていないようなことをのたまう、ナイスミドルな面をした性悪小僧の親父は。
これは貴族籍を剥奪されたオーフェルヴェークへの報復措置であり、戦争に対する有効活用でもある。
オーフェルヴェークを粛正するに及ばず、王国の懐を痛めることなく俺たちに戦力として押し付けられる。
そうしてオーフェルヴェークの憎悪は、彼らを実務上で直接に使う事になる俺たちアルコル家へと向く。
いやな手を使う。ヘイト管理うますぎだろ。
絶対性格悪いぞ。この怖いおっさんは。
「それで我らにどうせよと?」
「先ほど申し上げました通り、キララウス山脈へと調査に行ってもらいたいのです。王国騎士団の大部分は、ユーバシャール公爵領への救援で手が塞がっております。」
「…………………」
「ユーバシャール公爵家にも、此度の遠征案には賛意を表明して頂いております。我ら一丸となり、この難境を乗り切って参りましょうぞ!!! これは人類の反撃の第一歩!!! 偉大なる反攻作戦なのであります!!!!!」
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