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第139話 「宰相の息子との睨み合い」




 錆びついたように首を軋ませ向き直りながら、ノジシャが震える声で何とか一言漏らす。

 エーデルワイスはというと、まだ何が起きたのか理解できていない様子だ。

 珍しく眉間に皴を寄せながら、ローズマリーが出て行った扉へと目を疑うように凝視している。




「き……気を取り直しましょうか……」



 俺は首を何とか縦に振り、肯定する。

 本当に何だったんだ……? 度肝を抜かれすぎて状況を把握しきれない。

 幻覚か訝しむほどだった。


 今のって、実在する公爵令嬢だったんよね?

 さっきまでの品のあるご令嬢と、同一人物のはずなんだよね?

 世界には不思議がいっぱいあるなぁ。




「さっきはご様子がおかしかったけど、ローズマリー様は大変お優しいお方だわ。人望もある本当に素晴らしい女性な………の………」


「そうなの……? 本当にそうなの……?」


「……………持病というのは初めて聞いたけれど……あんなことをおっしゃるなんて、これからどんな噂を貴族社会に広められるか……あのお方は第二王子の…………それよりも今は挨拶回りね……次はシファー宰相閣下の嫡子。エルナト様よ。気持ちを改めて、本当に気を付けてね?」


 俺の念押しした確認に、ひどく微妙な面持ちで受け答えたノジシャ。

 その返事には、どうにも信用しきれない。

 初対面でアレだよ? 何よりお前も言い淀んでるやんけ。


 このドレスを纏った従姉の女の子は、少し考えこんでいる。

 彼女が言葉を選びながら、ゆっくり話したこと。

 次の予定についてである。




「本当に……本当に用心してね。宰相派閥は宮中でも、押しも押されない最大級の勢力。エルナト様もあのお年で、もう仕事を任されているらしいの。途轍もなく英才の誉れ高いお方よ。油断なんて、決してしてはならないお方…………迂闊な言動は、本当に慎んで。あなたと対立することになったら、将来的に王国中がとんでもないことになるわ」


「おいおいおー-ーい!!! そんなことあるわけないだろぉがよぉ~~~!!! 英才? 頭脳明晰完璧人間な俺がいるじゃ-ん!!! これまでも何回か挨拶したことあるんだし! できるに決まってんじゃー――ん!!!!!」


「本 当 に 頼 む わ ね ?」


「ハイ」


 顔を覗き込まれ座った目で念を押されると、脊髄反射で同意の言葉が漏れた。

 ノジシャは俺の顔を無表情でしばらく見つめ、ようやく眉尻を傾ける。


 今までできたんだから、今回もできるって考えても自然じゃん……

 そりゃ父上たち大人と離れて、子供だけで挨拶回りするのは初めてだけどぉ……






 その時だ。

 背後から声をかけられたのは。

 ノジシャとエーデルワイスの表情が、それを捉えた途端に引き締まる。


 氷のように冷涼な、されど自信に満ちた口調。

 落ち着きながらも、よく通る品位のある美声に俺は振り返る。






「アルコル男爵。お久しゅうございます」




「エルナト殿。お久しぶりです。ご挨拶頂きまして、恐れ入ります」




 シファー宰相の息子、エルナトから挨拶を受ける。

 洗練された振る舞いをもって、後ろにいる2人の少女へと続けて鮮やかに名乗りを告げる。


 あのガキがしばらく見ないうちに、でかくなったもんだ。

 もう数年もすれば、大人と称して差し支えない年頃だろう。

 最初にあった時から何回かまた挨拶はしたがイケメン抜きにしても、なんとなくいけ好かない野郎だ。


 年齢からしても細身の体型だが、上背は大きく骨格もしっかりしている。

 その深い青の髪が、そのクールなイメージを増長させる。

 彼の双眼も怜悧で深い知性を感じさせ、この年にして落ち着きと抜け目のなさを醸し出している。




「英雄殿はいつお目にかかってもお元気そうで何よりです。ご壮健そうで安心いたしました」


「人の縁に恵まれまして今もありがたいことに、このような催しを頂いております。お気遣い痛み入ります」


 ご挨拶だなクソガキ。

 この俺様を、騒がしい野郎だって言いたいらしいな?


 一見すれば、健康であることを祝うような言葉。

 だがこいつの言い草だと、騒々しい人物だと嫌味を言っているのだろう。

 さっきの騒動は確かに衆目を集めたが、俺のせいじゃねーよクソが。




「さようでございますか。流石英雄殿は堂々としておられる。自信がおありで、実によろしいことかと」


「いえ。若輩の身にて、そのような驕りは慎んでおりますゆえ」


 続いてエルナトは祝意を表す。

 だがその裏には、嘲りが見え隠れしている。

 この俺が身の程知らずなまでに威張りくさっている、傲慢な男とでも言いたいのか?


 コイツ……俺を見下してやがるな?

 無機質な瞳の奥に潜む、己への自負と俺への侮りを俺は感知した。


 前世では蔑視され慣れてたからな。

 俺はこういった悪感情には敏感なんだ。

 度重なる貴族教育における修辞学の学習も、この悪意ある皮肉に気づく功をなした。




 気に食わないガキだ。

 大人の前では、性悪を隠していやがったな?

 いるんだよな。こういう小賢しい小僧。

 前世でも教師なんかの前だけでいい子ちゃんな、裏ではムカつくことばかりやってる奴いたわ。


 どことなく慇懃無礼な態度で、内心は驕り高ぶる者。

 余裕綽々とした物腰が、尚の事に苛立ちを募らせた。






「不躾で恐縮ですが、是非アルコル侯爵へとお目通り願いたく。此度の戦傷の立役者とも言える、彼の英雄の戦話を拝聴したいものです」



「ええ。エルナト殿も大変勉強になるかと。わが父ほどの戦上手は、この世界にいるかどうか。将来戦に出るならば、教訓となるかと存じます。そうして私も戦地に赴き、糧としましたので」



「……是非ともそのお知恵を賜りたく」

 


 コイツ暗に、俺の話は聞きたくないって言いたいらしいな?

 挨拶もほどほどに、いきなり図々しいにも程がある要求をしてきやがった。


 生意気が舐めた口ききやがる。

 ここまで上等くれやがって、対立を避けるもクソもあるか。


 貴族家業は舐められたらオシマイなんだよ。

 俺は意趣返しとばかりにマウントをとり、そこはかとなく自分の戦功も遠回しにアピールする。




 バカにされていること自体か、戦で功をあげていないことへのコンプレックスか。

 そのどちらが癇に障ったのかは知らないが、宰相の息子は冷たい笑みを濃くする。

 不快だったのか、態度が一変したな? ザマぁ見やがれお坊ちゃん(笑)


 お前みたいなひょうろくだまに、戦争の厳しさはわかんないよな(笑)

 確かに俺はお前よりガキだけど、魔将を倒したし、オーフェルヴェーク侯爵も倒したし、新種の魔物も唸るほど倒したけど。

 まだオコチャマだから、お前ごときには無理だよな(笑)まぁ……それでもいいと思うよ(笑)




 胸元の勲章を煌めかせるように、俺は僅かに胸を張る。

 俺たちの視線が交錯して、少しの間が場を満たす。






「――――――」




「――――――」




 あぁ気持ちいいね♪ 自慢というのは何より甘美な美酒だね♪

 よく見とけよクソガキ。お前が一生かかっても手に入れられない代物だ。

 存分に拝んで、死の間際に手元にないことを悔しがれよカスが。


 エルナトの目は瞬時に、俺の胸元へと若干向けられ細められる。

 しかし表情に変化はなく、張り付けたような好青年ぶりを見せつけてくる。




 これでやり込めたと思ったが、高慢なそぶりを見せていたエルナトは落ち着き払っている。

 この年くらいのガキはもっと短絡的で攻撃的でもおかしくないが、嫌に冷静な野郎だ。

 改めて……こいつ気に食わねえ……!

 



「……えぇ。厚かましくはありますが、是非に訓示を賜りたく。それではよろしくお願いいたします」


「承りました。戦訓を共有することは臣民、ひいては人類の義務です。先達に学ぶと致しましょうか」


 その怜悧な頭脳で形勢を見極めたのか、間髪入れず俺へと追従する。

 少しは無様な姿を見せやがれ?


 そんな次第で共に父上の方へと向かおうとしたとき、どこか慎重な声がかけられた。

 忘れていたが、ずっと共にいた少女の声だ。




 俺たちの周りの空間を見ると、子供たちが戦々恐々とした面持ちでこちらを見つめていた。

 周囲にぽっかりと穴が飽きたように、誰も彼も距離をとっていた。

 その中で二人の女の子は、非常に居心地悪そうにしている。






「私たちはここで失礼いたします……アルタイル様。ヴォーヴェライト公爵家のご令嬢リアトリスさんに、エーデルワイスと共にご挨拶してまいりますので」



「しっ……しつれぃぃたしますぅ……」



「ええ。ありがとうございましたノジシャさん。エーデルワイスさん。エルナト殿、参りましょう――――――」



 ノジシャが蒼白な表情で矢継ぎ早に告げると、この場を去ろうと告げた。

 それを感知したエーデルワイスも怯えた表情をしながら、消え入りそうなか細い声で同調する。


 二人とも……どうしたのかな?

 怯えさせてしまったか。

 つい周りを見る余裕を失い、失敗してしまったな。




 去り際にノジシャは、俺へと目配せしてくる。

 意図が読み取れなかったが、とりあえず微笑んでおく。

 それを見た彼女は、安心したように微笑んだ。

 よくわからんが……ヨシ!


 エルナトは冷たい笑みを浮かべ、二人の去り際に華麗に一礼する。

 俺の角度からは、その冷酷な本性が垣間見えた。

 やっぱコイツ性格悪いぞ。


 この性根ワルワル少年は頭をあげると、爽やかにほほ笑む。

 俺たちは共に、父上たちの元へと向かった。






「………………」




「………………」






 向かった先、そこにはちょうど王国宰相であるシファー公爵と、アルコル侯爵家当主アルフェッカ・アルコルが対していた。

 空気……重っっっ……!?

 物物しい空気が立ち込め、両者一歩もお互いの目から目を逸らさない。


 父上の隣には、厳めしく佇んでいるお爺様もいる。

 また鬼畜眼鏡という言葉がぴったりな叔父上も。

 筋骨隆々とし過ぎている、貴族とは思えない程にいかつい強面のブロンザルト子爵も。

 こんなん完全に抗争間際の、あっち系の集会やん……




「(なんだこれおっかねぇ……!?)」




 シファー公爵もプレッシャーヤバいし、恐ろしげな目をギラつかせている。

 重苦しい荒涼とした雰囲気が、満ちている。


 周りの人たちも、生唾を呑んで固く見守っている。

 戦々恐々としながら、この国全ての貴族たちの注目がここに集まっていた。

 誰もが王国政治の大きな転換を目撃しようと欲し、此処に集っていた。




 ここも戦場なのだ。

 俺は口出すこともできず、少し離れた場所で歩を止める。

 なんで仲良くできないのぉ……? もう俺こんな世界で生きるのやだよぉ……


 宰相の重職にあるシファー公爵が、ようやくその口を開いた。

 その内容とは――――――――






「さて。王国騎士団と共に、魔王領域へとつながるキララウス山脈の調査へ、アルコル侯爵家にご協力いただきたい――――――」









 喜ばしいことに、2022.09.26 日間異世界転生/転移ランキング ファンタジー部門で223位を獲得しました。


 活動報告に画像載せました。


 応援してくださった読者の皆様、誠にありがとうございます。



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 『間が悪いオッサン、追放されまくる。外れ職業自宅警備員とバカにされたが、魔法で自宅を建てて最強に。僕を信じて着いてきてくれた彼女たちのおかげで成功者へ。僕を追放したやつらは皆ヒドイ目に遭いました。』

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 完結保証&毎日投稿の200話30万字。 2023年10月24日、第2章終了40話まで連続投稿します。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 小さい子供がエルナトを守ったんですね(>_<) この少年は誰なのか。ここまでして守る理由はなんだったのか、とても気になります。 少年の時間稼ぎのおかげでヤンさんも襲撃者を倒せたようで。襲…
[良い点] ちょっ、あの方は第二王子の!? えー∑(゜Д゜) だ、第二王子のヽ(´o`; なに。 あ、後の話がなかなか頭に入ってきませんが、アル様皮肉に敏感ですね!私は気づかないレベルです。後…
[良い点] ランクインおめでとうございます! 大盛りあがりの展開ですから当たり前かもですけど(๑•̀ㅂ•́)و✧
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