第136話 「麗しき赤髪の小さな淑女」
「お疲れ様アルタイル。骨休めも兼ねて、同年代の子たちと顔を繋いできなさい」
「わかりました。しかし……同年代の方がいるんですか?」
ようやく闇の世界から退散することができたと思ったら、次のミッション。
忙しないことだ。社交の場ではいつものことだがよ。
つってもガキが社交の場にいるところなんざ、ノジシャくらいしか見たことねぇぞ?
俺ほとんど出てないから、そんな詳しくないけれど。
このくらいの年のガキが、礼儀正しくご挨拶なんかできんのかよ。
それだけでも上等だと思うがな?
「ああ。この日を絶好の機会として、社交界デビューを果たした貴族子女は多くいる。こんな滅多にないほどのめでたい催しを、逃す理由もないからね。大体の貴族が根回しをして、日程を合わせたはずさ。だから友達を作ってくるといい!」
「ええ……? 無理な感じがもうしますよ……?」
「大丈夫! できるさ! ノジシャもいるはずだから、彼女と一緒に話しかければいい」
「な、なるほど~~~!? 流石父上!!!」
「うん! あとで迎えに行くから、顔つなぎをしていてくれ。何かあれば戻ってきていいけど、絶対に何人かとは話すんだよ? マナーを弁えてね。ノジシャに教えてもらいなさい」
「はいぃ……」
「……流石にそこまで心配することもないか。あの子もいるんだし」
父上は不安げであったが、念押しすることはやめた。
獣同然のガキどもが、暴れないか心配してるんだろうな。
最高最強の英雄の俺に、寄って集ってクソガキあるある迷惑行為をしてくると気になっているのだろう。
心配無用さ……
この俺が小粋にクールにスタイリッシュに、この溢れでるヒロイックハートで全員まとめあげてやるよ。
圧倒的英雄の前では、森羅万象一切合切が烏合の衆。
ノジシャを頼るまでもない。
決めてやるさ。ど派手にな☆
「そういえばアルデバランたちは、なぜ連れてこなかったので?」
「お前の陞爵式だ。あの子たちまで面倒を見切れない。断腸の想いではあったがね」
それは一長一短あるというか、なんというか……
あいつらの社交デビューが、同年代のガキより遅れるという事か。
俺の陞爵がなければ、この社交会もなかっただろうが。
考え込んだからか、話が途切れる。
父上はそれを契機に話を切り上げて、出立を勧める。
「さて、この機会に友達を作れることを願っているよ。友人とはいいものだ。お前にも知ってもらいたい……それでは行ってきなさい」
「はいぃ……行って参ります……」
父上に背中を押されて俺は、歩き出す。
程なくして不安と寂しさが押し寄せて振り返ると、父上が心配そうな面持ちで俺の背中をじっと見つめていた。
しかしすぐに普段通りの明るい表情に変じ、頷いて俺に進むように促した。
同じく首肯をもって返答し、再びゆっくりと歩を進める。
父上と別れた俺は、途端に心細くなる。
所在なく辺りを見回せば、みんなが俺に注目しているようだ。
何だ? 見世物じゃねぇぞ。ブルジョワ共が。誰に向かって不躾な視線を送ってやがる。
人目から逃れるように俺は早歩きとなり、貴族の子供たちが集う一区画へと赴く。
俺より少し年長の子どもが中心に、ここに集っているようだ。
小柄な俺が言うのもなんだが、小さな子供たちがぎこちなく挨拶しているのを見ると、お遊戯会を見ているようで微笑ましい。
「―――――――ごきげんよう」
聞きなれた声。
振り返ると、腰より長い眩き赤髪をもった美少女。
親族衆であるノジシャが現れたのだ。
彼女は優美な所作で、ドレスの裾をつまんでカーテシーをしていた。
落ち着いた深い色合いである紅のドレスが、ゴージャスかつ華やかさ抜群に彼女を演出している。
スッキリとしたシルエットにドレスアップされ、この女の子の快活かつ上品な魅力を引き立てていた。
俺は嬉しさや安堵がこみ上げて、感情を爆発させた。
このところストレスばかり溜まっていたから、張り詰めていた神経の糸が切れた。
少し前まで家でしていたように、彼女の懐に飛び込んで甘える。
「ノジシャ―――――!?!?!?」
「わっっっ!?!?!? どうしたのよもう! 危ないじゃない!!!」
「あのねあのね!!! 聞いて聞いて!? ひどいんだよ!? 俺はこんなに頑張ってるのにみんな酷い!!! 俺のこと嫌な目で見る!!! なんで!?!?!? 俺なんにも悪いことしてないのに!? ねぇノジシャちゃんと聞いて!?!?!? ね゛ぇ゛!!!!!」
「……………あ~~~そうね…………同情するわ」
「やっぱりノジシャはわかってくれるぅ~~~!!!」
「わかったらさっさと離れなさい!!! ここは公共の場なの!!! シャキッとする!!!!」
「ひどいよ!?!?!? こんなに傷ついているのにぃ~~~!?!?!? …………あっ! ノジシャ! そのドレス似合ってるよ♡」
「おい。黙れ」
「ッハイ」
ドスの効いた声に気圧され、俺は直立不動で大人しくなる。
ノジシャの怒った時特有の気迫から恐怖し、息が止まり声が出なくなる。
怖い。
……何で怒ってるのだろう?
最初逢った時に、女の子の服装を褒めなかったからか?
これは失敗したな。マナー違反だったのだろう。
女心は複雑で、男が計り知るには難しいもんだ。
アルタイル反省☆
愛くるしい俺のつぶらな瞳がウルウルと潤み、ついに悲しさから涙腺が決壊しようとするとき、ノジシャは溜息を吐いて改めて挨拶をした。
俺は嬉しくなり、途端に得意な気持ちになる。
「まずは……アルコル男爵。拝謁の栄誉を賜り、恐悦至極に存じますわ。この度は爵位を賜ったこと、謹んでご祝福いたします」
「えっと……はい! ありがとう! えへへ…………まぁね!!!!!」
「…………」
かしこまった口調で俺のことを褒めたノジシャ。
彼女の誉め言葉に鼻を高くして、俺は返答した。
ノジシャは曖昧な笑みを浮かべて、天井へと少し首を傾けた。
おや? どうしたのかな?
「考えていたことが色々吹き飛んだわ……なんかこう……無力感を……」
「……?」
「あのね。ここでは私たちは違う家の代表で……もういいわ。めでたい席でお説教なんてね」
くどくどとお得意のお説教をし始めたが途中で打ち切り、気を取り直して雑談に入った。
だがその内容は、俺の意にそぐわないものだったのであった。
「ところでアルタイル。最近はどうしているの? ……あなた最近大きくなってるのかしら? お菓子ばかり食べてない? 勉強はどこまで進んだの? アルデバランたちとは仲良くしてる? もうキリがないわね。心配だわ」
「うるさい!!!!! 自分でさっき言ったことを即刻思い出せ!?!?!? めでたい席で説教を垂れるな!?!?!?」
世話焼き気取りがよ? 舐めてんのか?
十分デカくなっとるわ!? もっとお前がデカくなっただけなんだよ!
何だこいつ!? いきなりマウントとってきやがって!?
あ~~~!!! ムカつくムカつくムカつくムカつく!?!?!?
腹立つわぁ~~~!?
マジでコイツ舌の根も乾かぬうちに説教かますとかガチでふざけんな俺の怒りは大噴火一歩手前俺でなかったら他聞も憚らずキレ散らかしていたぞ俺の慈悲に感謝することだ深く猛省しろガキが。
「……チッ……チィッ!……クソが……チッ……」
「………………」
呆れたことに、白けた目で俺を見つめるノジシャ。
誰のせいだと思ってやがるんだ?
テンション下がるわぁ~~~~~空気読んでくれよ?
ったくちょっと早く生まれたからって、調子に乗りやがる。
お姉さんぶりたい年頃なんだろうが、図に乗るな。
つい先程、王様の前でとんだ赤っ恥をかいた、俺の気も知らないで……!?
「この後の舞踏会が楽しみだねノジシャ♡ 一緒に踊り狂って、二人仲良く綺麗に破滅しようね♡」
「……………………ッッッッッ!?!?!?」
笑顔で放った自爆戦術を聞かされ、一瞬で顔が青ざめるノジシャ。
いつか殺人ダンスとかほざいたその威力、身をもって味合わせてやるよ。
愛し合う二人♡
病める時も健やかなる時も、そして散り際までも一緒だね♡
仕返ししてやったが、ま~だイライラする~
でも俺が一つ大人になり、マウントとってくるのが大好きな小生意気なメスガキの姉願望を宥めてやらないとな。
ったく子供をあやすのも、簡単じゃないぜ。
まぁ俺は今まできっちりと、こなしてきたわけだが(笑)
「あら…………!」
トラウマからか少し過呼吸気味になっていたノジシャが、何かに気を取られたのか平静を取り戻し、急に弾んだ声を出した。
後方に何かを捉えたようだ。
その背後から、以前は家の中でも聞きなれた声。
俺も一転、喜色が滲む表情で振り返った。
「―――――――――ぉ兄ちゃん……!」
喜ばしいことに、2022.09.23 日間異世界転生/転移ランキング ファンタジー部門で286位を獲得しました。
活動報告に画像載せました。
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