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第135話 「欲深き貴族たちとの饗宴」




 王国全土を踏み荒らしかねなかった、魔将トロルを討滅した証。

 神聖薔薇・黄金聖剣・ダイヤモンド付英雄勲章を装着し、重くなった胸部を抱えて父上の元へと赴く。


 家族と合流してから、貴族社交の場へと向かうのだ。

 主役である俺は挨拶しに来る貴族たちを捌くために、それぞれで応対することとなる。

 これもまたしんどい。




「アルタイル!!! お疲れ様!!! すごかった!!! かわいかった!!! 立派だった!!! きっとナターリエも喜んでるよぉぉぉ!!!!!」



「えぇ。本当に立派だった。もう一人前の貴族だ」



「父上。叔父上。ありがとうございます!!!」



 父上と叔父上が俺の労苦を労わる。

 なんか猛烈に感動して表情筋がものすごいことになっている人が一人いるが、ひとまず置いておく。

 お爺様は俺に一度視線を向けただけで、無言で腕を組んで佇んでいる。


 俺の祖父であるアルコル家前当主アルファルド・アルコルもこの場にいる。

 往時の恐怖の象徴がいまだ健在であると、威嚇するためである。

 此度の陞爵という騒動も踏まえ、確実に王国中央で大きな政治的変化があると睨んだためだ。




 いつもよりもさらに、俺たちの周りから人が離れている。

 時折アルコル家傘下の貴族たちが挨拶するも、終わり次第直ちにすごすごと退散する。

 社交の場にて偶に思う事だが、大貴族であるのに周囲を派閥で固めるという意識もないのだろうか。


 でも俺たち側につく勢力の人たちは、引き回されなくて安心するだろうな。

 もしどんな人たちなのか知らなかったら、絶対一緒にいることを躊躇う。

 ここにいるアルコル家、俺以外みんなマフィアの人たちみたいにしか見えないんだもん…………






「疲れただろうけど、もう少しだけ頑張ってくれ。これから貴族たちが挨拶しに来るだろう」


「うん。ここからが大変だ。陛下のようにお優しい方ばかりじゃない。陛下とは何を話したんだい?」


「頑張ります!!! えっと――――――」


 歩きつつ俺が先ほどの顛末を説明する父上の顔は、固いものだ。

 元より父上はこの叙爵式に並々ならぬ怒気を燃やしていた。

 子供でありながら英雄と吹聴された俺が、政治の都合で生贄になりかねないと。

 だからこそ今も張り詰めた。いや、憤怒そのものの面差しで闊歩している。




 俺たちが進むにつれ、高貴な人垣が割れていく。

 おもむろに視線を向けた瞬間に、誰もが目を逸らし俯く。

 令嬢たちは俺たち一家から遠ざかり、家族に隠れている。

 ファンタジックエロ衣装を着用した年頃な貴婦人のお姉さま方も、俺から逃げるように離れてゆく。


 おかしいな? 俺は社交界に全然出てないのに?

 会ったことも話したこともないのに、もう既に嫌われているよ?






「「「「「――――――――――!」」」」」






 アルコル家の周囲で囁かれた小声が集合し、どよめきという協奏が巻き起こる。

 あれあれ? 英雄として大活躍したはずなのにね?

 転生してチートで俺TUEEEしたはずなんだよね?


 もしかして俺のベリーキュートなお顔は、まさか前世の不細工面のままなのかな?

 それとも邯鄲の夢みたいな感じなのかな?

 今の俺はトラック転生した時の下敷きになったガキが見る、最期の救いという名の自慰行為が齎した夢幻なのかな?




 …………いいもん。俺には女の子たちがいるもん。

 別に気にしてないもん。


 対して武官は、特に若い騎士連中だが、生ける伝説である俺を一目見て感銘を受けたのか。

 感極まっているように、熱と情景を込めて見つめてきているようだ。

 部屋済みの次男三男坊以降は、戦争で身を立てないと栄達は厳しいからな。


 何か特殊技能があるならともかく、この世界で出世するには武力がいる。

 世知辛いものだ。このご時世なら仕方ないことではあるが。






「―――――――そんなことを話しました!!! もしかしたら俺……王族の方々を笑顔にするのも得意なのかも!? えへ!!!!!!!!!」



「……………ハラハラしたぁ~~~~~」



「どうしたんですか父上? まだこれからって言ったばかりじゃないですか」



「いや……………お前はもしかしたら、貴族に向いているのかもしれない」



「……………?」



 まだ何もしていないのに、げっそりとやつれた様子の父。

 俺の先ほど話したことを報告すると、肩を落としてなんだか度肝を抜かれたような感じだ。


 大過なく一大行事を終えることができた俺へと、何かを訴えかけるように目線を合わせていたが、諦めたように力なく首を横に振った。

 叔父上は眼鏡の位置を何度も調節し、なんだかそわそわしている。




 なんか二人とも疲れてるみたいだな?

 まだ若いんだから、しっかりしてくれよ。

 ここから先が大変なんだから。

 ったく世話が焼けるぜ。

 困ったさん達がよっ!


 でも大事な家族の父上と叔父上が疲れている分、俺が頑張らなくちゃな!

 王族の方々と話せたんだから、貴族ぐらい行けんだろ! ワハハ!!!

 しゃあっ!!! 気合入れていくぜ!!!!!






「さて……頼むよアルタイル。大物は私たちで請け負う。いい機会だと思うから、お前はそれ以外の方々を引き受けてくれ」


「承知いたしました!」


 父上たちが明らかに大物な人たちの居る方向を見据えて立ち止まり、視線にて俺が応対する方々を指し示した。

 任を心得た俺は、元気よく返答する。




「――――――無様を晒すな。いいな?」



「承知……いたしました……」



 突如として無言を貫いていたお爺様に低い声で恐ろしい釘を刺された俺は、そそくさと戒めから逃げるようにその場を離れていく。

 豪勢な料理が所狭しと並べられたテーブルを囲み、いよいよ貴族たちと応対する。


 この饗宴はもちろん俺の顔つなぎ。

 ぞろぞろと俺の方に集まってきたな。


 うまい話の一つでも聞きたいものだ。

 どうせ相手もそう思っているのだろうから、お互い様だな。




 王国最大級に資金力のあるアルコル家でも、普段ではとても食べられない御馳走の数々。

 そんなものに背を向けて、帰りたい衝動に駆られながらも社交に望む。

 食い意地など、すでに尽きている。


 豪勢な料理の数々に背を向けて、貴族たちへと笑顔を張り付けて話しかける。

 マナー勉強してなかったら、こんなことはできなかった。

 早速役に立ったと内心自嘲する。






「アルコル男爵。この度は陞爵おめでとうございます! ぜひお見知りおきください!」



「凄まじい武勲です! 真の勇士ですな!」



「不熟な身に、望外の誉れにございます。しかし時運が味方しただけの事です。貴き義務を果たせるように、今後も務めます」



 近づいてきた貴族たちも同じように、にこやかに外面を彩っている。

 こいつらは舵を切った。

 俺に媚を売り、隙を見せた時に蹴落とすという方向にだ。

 

 正面対決ではとても勝てないと悟ったのだろう。

 俺が齎す利益を伴食しながらも、俺がぼろを出して地位が揺らげば背後から刺して、ハイエナのように食い荒らすつもりだろう。


 そのような内心を悟られないようにする単に、平然を装う。

 なんとか微笑む事が出来たが、心の中は尖る一方さ。




「なんと! 今代の英雄は謙虚でいらっしゃる!」


「頼もしくありますなあ。戦争もアルコル男爵がいらっしゃれば、心配などいりません」


「いえ。皆さまのご助力の下、微力ながらも対応できれば。若輩の身ゆえ、皆様を見習い頼らせて頂ければ幸いです」


 良い面の皮をしている。道徳的とは対極にある連中だ。

 能力も人格も非の打ちどころのない俺には、こんな恥知らずな行いは理解不能だ。

 この貴族を称する業突張り共は負けじ遅れじと我先に、俺へと媚びを売る。


 露ほどにも喜ばしく思っていないだろうにグラスを掲げ、白々しく俺を祝福する貴族たち。

 嫌悪感を押し込め、続いて俺も手にもったグラスを少し掲げる。



 本当に酔いが回っているのか疑問に思うほど、抜け目なく利益を享受し、負担を俺へと押し付けようとハゲタカのごとく集ろうとする。

 欲望にまみれた赤ら顔を向け、記念すべき席で言うには野暮な単語ばかりを垂れ流す。


 言質を取られるわけにはいかない。

 責任ある男爵位の地位にある俺は、必死に社交応対する。

 前世において一身に浴びていた悪意に引けを取らない醜悪な感情が、今もまたこの身にもたらされていた。






「無論、王国を守るための労を惜しみませんぞ。この王国のため、私なりに尽力させていただきたく」


「然り。それが貴族各々で果たすべき義務というもの」


「心強い限りです。皆さまと共に、この難局を乗り切りたく存じます」


 こんなものはジャブだ。おもむろに言葉という悪意の刃で、突き刺しに来る。

 貴族対応に追われ、俺は配慮することに段々と疲弊してゆく。

 人生の長きにわたり宮廷に伴食する、そんな強欲で足を引っ張ることに関しては右に出る者がいないだろう、貴き身分の輩。


 外側は美しく内側は汚い、己の欲望のためなら共食いを辞さない最も業深き生物。

 誰も彼もが胡乱な笑みを浮かべ、俺に取り入ろうと下衆な策謀を用いていた。




 甘い汁だけを啜ろうと近付いてくる、貪欲な者。

 顔だけでも繋ごうと、まずは距離をとって様子を伺う者。

 全力で媚び諂って這い上がろうと、自らを売り込んで働きかける野心的な者。

 嫉妬から陰口を叩き、酒の肴にする者。

 政敵として蹴落とそうと、虎視眈々と付け狙う者。

 謁見における無様な有様を見るや、興味を無くすか見下す者。




 このような者たちばかりと接し続ける貴族というのは、なんとも窮屈な社会で生きているのか……

 おどろおどろしいにも程がある。

 負担に辟易としつつ、次々に応対していく。






「――――――素晴らしいご縁をいただき、この上なき幸いでございました。どうぞよしなに」




 ようやく一通りはこなしたか。

 ったく背中が痒くなる。殺し合いのほうがまだマシってもんだ。

 欲の皮つっぱりやがって、少しは醜悪な権力欲を隠そうとしやがれっての。


 心労ばかり溜まる一方な義務的な人付き合いの数々に、忍耐力の限界を試されている。

 猜疑と嫌悪を心の底に沈殿させ、愛想笑いの仮面で外界へ露出した表面を覆い隠す。

 外殻を固めたまま、挨拶回りから席を辞した。






「(この中に俺の潜在的な敵もいるんだろうな)」






 王国魔道院長オーフェルヴェーク侯爵と相対した時、彼に言われたことを思い出す。

 教会の闇とやらもそうだが、王国にも手引する内通者がいたはずだ。

 今となっては、神々の連絡すら音沙汰ない。

 それが不気味な平穏をもたらしている。


 その水面下で、彼を。そして俺を嵌めようとしていた奴らが、この場にもいるのかもしれない。

 俺はこの伏魔殿と称すべき社交の場において、油断することなど断じてできない。


 魔窟における遊泳術を父上から、いやというほどに聞かされた俺。

 流石に簡単な受け答えは出来るようになったが、まだまだ経験不足は否めない。






 気疲れしつつ父上の元へと向かうと、ブロンザルト子爵と談笑に興じていたようだ。

 俺の叔父との語らいは、父上にとってもこの場の清涼剤となっているだろう。

 良くも悪くも明快な人物だからな。


 アルコル家と行動を共にできる肝の持ち主は、豪胆な硬骨漢であるこの人ぐらいだ。

 幾千の戦場を潜り抜けてきた、剛の者だからこそだろう。




 そうしていると少し離れていた父上が俺を発見して、話を切り上げる。

 俺へと近づいてくると、ある勧めをしてきた。










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 『間が悪いオッサン、追放されまくる。外れ職業自宅警備員とバカにされたが、魔法で自宅を建てて最強に。僕を信じて着いてきてくれた彼女たちのおかげで成功者へ。僕を追放したやつらは皆ヒドイ目に遭いました。』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 貴族社会は本当に大変そうですね。ある様の苦労が伝わってきました。社交界はスリリングですね。 英雄のある様と、マフィア風なアルコル家の面々が揃えば怖いもの無しな気もしますが、実際に対応する…
[良い点]  一見華やかでも高貴な魂を持つアルタイルには耐え難い場面ですね……  父上の提案、気になります!
[良い点] 新章は宮廷がメインの舞台でしょうか。貴族の戦いですね。読者は内面がグダグダなアルタイルを知ってますが(前回は表にでてしまってましたが。)貴族達には主人公はどう見えているのでしょうね。 [一…
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