第134話 「第2王子ミモザ」
そんな折、清涼感溢れる可憐な声が響き渡る。
まだ変声期も迎えていないのか幼さの抜けない、透き通るようなソプラノである。
そこにあるのは、また目を疑うほどの美々しい麗人。
涼やかな清水の流れるが如き美貌。
清らかなイメージを体現したような、落ち着いた佇まいだ。
そのお優しい人柄は陛下に似たのだろう。
父親に似ず男性としては小柄な部類の体躯だが、どこか陛下を思わせる雰囲気だ。
女性的に見えるまでに華やかかつ柔らかな微笑みは俺へと向けられ、またもや男心を擽られる。
流麗な水色の長髪は上品に後頭部で結われ、温かな人格の中にも凛々しさを醸し出している。
彼は穏やかにレグルス殿下に同調する。
涙目の俺を気遣うように、物腰柔らかに此度の陞爵について寿ぐ。
「アルコル男爵のおかげで、私たちはこのような祝宴を設けることができたのです。心から、その勲功を慶します」
「ミモザ殿下……身に余る評価を賜り、引き締まる思いに御座います」
「志が高く大変ご立派で、その在り様を是非に見習いたく思います。心からあなたを尊敬しますよ」
飾り気のない褒め殺しに、ついもじもじしてしまう俺。
しゅき。俺の性欲を裏切った男の娘だけど、しゅき。
イケメンは嫌いだが、俺に優しくしてくれるイケメンだけは許してやる。
この陛下を挟んで立ち並んだお方たちは、この国に2人だけの王子。
レグルス殿下の腹違いの弟。
お互いに次の王位を争う関係だ。
複雑な関係性であると聞くが、この場にてそれを表すほどの愚者とは対極にあるお方たちだ。
本人同士の仲もそれほど悪いものとは聞かないし、何事もなければいいというのが臣下として思うことだが…………
「アルコル男爵の武勇伝は、私たちを魅了してやみません。喜ばしいニュースは、あなたがほとんどもたらしてくれます。是非その武勇伝を拝聴したいものです」
「えへへへ…………ありがたきお言葉でございます! これからも邁進いたします!」
父上やサルビアなどから、体に染みつくほどに教えられた定型句を返す。
レグルス殿下ほどの人を率いるカリスマはないが、ミモザ殿下の素朴で純粋な言葉は心に染み入る。
これもまた彼の人柄あってのことだろう。
宮中にも彼を慕う人は多いと耳にする。
何より男とは信じられないほどの、癒し系カワイ子ちゃんの誉め言葉に、気をよくする俺。
男へと評するには失礼かもしれないが、なよやかと言うか、しとやかと言うか……
絶対イイ匂いしそう♡ グヒヒ♡
「あなたは私たちの憧れでもあります! おとぎ話の勇者にすら引けを取らない英雄より直々にお話しして頂けるなど、これ以上の栄誉はそうないでしょう。あなたは本当に素敵なお方です!」
「ニヒヒヒヒヒヒィッッッッッ!!!!! 過分なるお褒めのお言葉、厚く御礼申し上げます! 私こそミモザ殿下のようなご立派な方にそのように評して頂き、光栄の至りにございます!!!」
こんなにべた褒めするなんて、もしかして俺のこと好きなんじゃね♡
ったく王子様を禁断の恋を誘ってしまうなんて、罪な男だぜアルタイルってやつは……
しかしこの体は世界中の女性たちに、既に捧げてしまったんだ……
残念だが、君の気持には答えられない……
許してくれよな☆
「祝賀の席でも、皆さんに斯様な英雄譚を披露して頂ければ、皆さんもお喜びになるかと」
「うむ。いい提案だ」
「私も聞きたいね。時間があれば、是非お願いしたいところだ」
「もちろんでございます!!! そのご期待にそぐう私でありたいと思っております! 謹んで承りましてございます!!!」
どれほど語っても尽きないほどの俺の英雄譚を、期待だなんて照れちまうぜ!
どかウケ請け合いだぜ! 世界中で大絶賛に値すること間違いなし!
このアルタイル様は社交界においても、果て無き栄光ロードが始まる!!!!!
俺の返答へ一様に納得顔を見せ、にこやかに談笑に興じる王族の方々。
此度の会話によって、ロイヤルファミリーに心証爆上がりである。
ところでこうしてみると、レグルス殿下が次の継承者だと自然に考えるだろう。
数々の有能伝説を打ち立てるほどに、滅茶苦茶に一際目立った実績残してるらしいし。
てか王様って誰よって何も知らない人に聞いたら、全員この人に投票しそう。
いや陛下も威厳に満ち満ちたお姿であらせられるけど、マジでレグルス様超絶的王者の風格なんだもん。
だがそうはならない。
詳細はわからないがレグルス殿下は母親の身分が、あまりにも低すぎる。
さすがに獣人奴隷とまではいかないが、しかし言うに憚られるとのこと。
そしてミモザ殿下は由緒正しすぎる家柄だ。
隣国のお姫様が、母親だという事だし。
レグルス殿下に年齢や実績で劣っていても、外戚という強大なバックがいる。
外交関係も考慮しなければならないだろうし。
とはいっても陛下の鶴の一声があれば、どうにでもなりそうなものだが……
家庭問題でもあるから色々あるのだろうし、性格上それは見込めないだろう。
何よりもミモザ殿下は、婚約者として―――――
「さて、此度はご苦労であった。度重なる精勤と忠義、大儀である」
「陛下。格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。失礼仕りましてございます」
思考を巡らせているうちに、改まった口調で陛下が慰労の意を宣言した。
このねぎらいをもって、宣誓の挨拶はここまでで終わりという事だ。
以上で俺はこの場を退散することとなる。
王族の方々は威風堂々と、頂点に位置する家系独特の威を立ち昇らさせて、会話は締めくくられた。
それにしても、やんごとなき一族の方々、魅力的すぎるだろ。
俺はちょっとどころではなく、情にほだされてしまったぞ。
「今日はめでたい席だ。主賓として楽しんでいってくれたまえ。今度とも息災にね」
「アルコル男爵。卿の武運長久を祈る。この機会に、歓談に花を咲かせていかれるとよい」
「またお会いしましょう。今度はゆっくりとお話を聞かせてください」
喜ばしいことに、2022.09.21 日間異世界転生/転移ランキング ファンタジー部門で281位を獲得しました。
活動報告に画像載せました。
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