第131話 「従姉との別れの挨拶」
突如もたらされた衝撃的事実。
その悲報は、俺の精神的安定を揺るがした。
ここのところノジシャは心が浮ついて落ち着かなかったように見受けられたのは、そのせいか。
この俺がいるというのに、他の事に心が奪われていたのも頷ける。
こんなギャラクシーレベルイケメンヒーローと離れてしまうのだから、アンニュイになるのも当然ということか。
いや。そんなことを思っている場合ではない。
愛し合う二人を引き裂こうなんて、ダメだよ。
物語は終わりなく続くハッピーエンドでないと、いけないんだもん。
「ノジシャ……帰っちゃうの……?」
「ええ。今までありがとうね。私がいなくとも、ちゃんとお勉強しないと駄目よ?お兄さんなんだから、小さい子たちをかっこよく面倒見てあげてね」
「…………」
「あと…………いえ。なんでもないわ。最後までお説教なんかしてごめんなさいね」
ノジシャは首を躊躇いがちに横に振り、伏し目がちに視線を足元に向ける。
様々な感情の入り混じった形容しがたい面持ちで、苦悩を示していた。
世話焼きなこの女の子は、何かを憂虞しているようだ。
俺の多様な感情の籠った視線に気づいたのか、一瞬で表情を取り繕い穏やかな声色で話を再開した。
綺麗に別れるのだとの配慮からか、俺のことを褒め上げて会話を締めくくろうとした。
「あなたはとても優しい子。どうかそのまま誰かを思いやれる、綺麗な心を持っていてね」
だが俺は絶句する。
先の伯母上が呈した言葉のインパクトにより、返答を忘れてしまったからだ。
だからノジシャが一瞬向けた視線。その先にある整然と立ち並んだメイド。
楚々として控えるルッコラ、そしてサルビアへと向けた彼女の懸念を気付くことができなかった。
俺とアルデバランの義理の母である、ギーゼラに対しても。
寸刻の沈黙を切り裂いた俺は、余裕を失いノジシャへと号泣しながら縋りつく。
その胸に飛び込まれた途端に彼女は、困ったように柳眉を眉間へと寄せあげる。
「―――――――やだやだやだやだぁ~~~!?!?!?ノジシャいかないで~~~!!!寂しいよぉ~~~!!!」
「もう……二度と会えなくなるわけじゃないわ?わがまま言っちゃだめよ。領地はすぐ傍なんだから、また会いましょうね」
「ここでずっと暮らせばいいのにぃ~~~!?愛し合う二人を引き裂かないでぇ~~~!?」
「いきなりの展開に混乱するだろうけど、人生とは突然の連続。受け入れて」
「受け入れ難いことなのぉ~~!!!ずっと一緒にいる運命なのぉ~~~!!!俺とノジシャの人生は常に共にあるのぉ~~~!!!!!」
俺は号泣しながら、ノジシャにしがみつく。
嗚咽と共に固く彼女を逃がさないように抱き留め、俺は必死の拒絶をする。
惹かれ合う二人の別離。
こんなこと、あっちゃいけない……!
残酷な運命をここで食い止めてみせる。
揺るがぬ決意を胸に秘め、俺は彼女を説得しようと試みる。
「まだご褒美もらってないーーー!?!?!?頑張って新種の魔物を倒したご褒美もらってない!!!!!ご褒美、それは子育てにおける重要なファクターのはず!!!ちょうどいいところにもたらされた都合のいい結婚話に乗っかって、人生最大の決断をここでして~~~~~!!!!!」
「いやよ」
これが音に聞くマリッジブルーか?
こんな完璧極まりない男を前にして、女心とは難しいものだ。
それを広い心で許してやるのも、男の務めってやつか。
ったく全世界の女の子たち皆がメロメロな色男はつらいぜ。
「ひどいことゆわないで~~~!?人生捧げる婚前準備を今すぐして!!!ここですぐさま結婚して、俺のために永遠に人生消費して!!!!!ややこしい駆け引きなんてい~や♡もう待てないよ♡」
「うるっさいわね……いい加減にしないとシバくわよ?」
「愛が痛いのぉ~~~!?優しくしてぇ~~~!一生大事に大事にしてぇ~~~!それがふさわしい最も素敵な花婿に、俺……今、なります♡」
「はぁ……本当に人の話を聞かない子ね……」
ノジシャは深くため息を吐いて、片手を腰に手を添える。
ぐずりながらも史上最高にカッチョイイ英雄である従弟の頭を撫でながら、俺より少し高い目線から慈愛に満ちた目で見つめてくる。
彼女の手は俺の頭に添えられ、柔和に微笑んだ。
そして彼女との離別に嘆き悲しむのは、俺だけではない。
また二つ、新たな悲嘆が生じる。
「ノジシャお姉さん…………!?帰ってしまうんですか!?!?!?」
「帰らないでください~!!!」
衝撃のニュースから再起動したアルデバランとカレンデュラ。
意識が復帰して現実へと悲しさが溢れたのか、号泣しながら俺たちに駆け寄ってくる。
その後ろには、大騒ぎに苦笑いする大人たち。
ブロンザルト子爵だけだ。満足そうに頷いているのは。
「また会いに来るわ。だから泣き止んで、笑顔でお見送りしてね」
この従姉は指先を俺の頭から手離し、寄ってきた二人の頭をそれぞれ撫でた。
頭部にあった温もりがなくなった俺は寂しさから、さらに彼女の胸にしがみつく。
「やだやだやだやだ~~~!!!!!みんな嫌って言ってる!?!?!?だからノジシャ帰らないで~!!!この温もりは、ここから決して消えてはならない!?!?!?!?!?」
「駄々をこねないの……この子たちが真似するでしょう?少しずつでいいから大人になりましょうね」
「ま゛ だ 子 ど も゛ ぉ゛!!!!!!!?!!」
ひしと彼女の胸に顔を埋めてホールドする俺を仕方ないとばかりに、そのままにさせていた。
それでも成す術がないので、対応に困り果てたのか。
はたまた俺の絶叫に、うんざりとしたのか。
しばらく俺たちの気が済むまで、彼女はそのまま泣かせる。
途方に暮れながらも、騒々しく涙を流す俺たちをあやしていた。
瞼の端から流れ落ちる水滴も枯れ果てたころ、彼女が意思を翻すことを期待して、俺は恐る恐る見上げる。
仰ぎ見た先の彼女は、慈愛に満ちた表情と言葉で再会を約束した。
「いい子でいたら、また会えるからね」
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