第130話 「まさかノジシャと!?っしゃあっっっ!!!!!」
詠唱と共に、巨大な魔法陣が起動する。
同時に柔らかな燐光が、空間へと出現した。
窓から差し込む陽光に慣れた目でも眩しく感じる輝きが、その患部を照らし収束していった。
これを身じろぎもせず受け入れた叔父の体を包む煌めく靄が晴れると、彼の左腕が再度形を成していた。
続いて到着したブロンザルト子爵家の従者たちが、感嘆の声を漏らす。
「……………すごい」
「これが英雄の……」
「大した術師だ!!!感謝するぞアルタイル!!!!!」
「いえ。治ったようで何よりです。何か問題などはありますか?」
嬉しそうに原型を取り戻した拳を握り締め、巨大な力こぶをつくる。
それに伴い先ほどまでは存在しなかった腕の影が、床面に浮かび上がった。
彼の身動きにつれて、それも自在に変化する。
しばし感触を確かめると、指先の神経の隅々までしっかりと知覚できたようだ。
腕の至る先まで良好な状態を認識できたからか、ニカッと笑い歓喜の声をあげた。
彼の妻、俺の父の妹であるエルメントラウト伯母上も、目に涙を浮かべて俺に礼を口にした。
ここで得意になるほど、空気が読めないわけではない。
落ち着いて返答を告げる。
「左目に続いて、腕まで再生してくれるとは世話になったな!!!なにか礼をくれてやりたいところだが……」
「アルタイルさん。妻である私からも御礼申し上げますわ……!本当にありがとうね……」
「お気になさらず。私こそ治ったなら嬉しい限りですので」
「何を言う!!!俺の体は安くないぞ!!!何百と魔物どもを殺したことの引き換えの代償だ!!!幾千の金貨を積んでも、とても足りぬわ!!!」
俺の謙遜に、異議を唱えるブロンザルト子爵。
彼の叔父は自らの腕の価値を、それほどまでに高く見積もっているようだ。
これを否定するのも違うと、俺は素直に押し黙る。
彼の戦歴を思い返すに、妥当な評価といっても過言ではないからだ。
このおっさんは昔には戦傷により隻眼であったことから、眼帯をしていてマジでおっかない見た目だった。
そこはかとなく任侠映画にいそうな感じ。
その容貌に違わず、魔物どもを幾千も殲滅してきたと聞く。
俺が再生魔法を取得してから治してあげたら、リハビリがてらダーヴィトと嬉々として殺し合ってるようなオヤジだ。
筋金入りのバトルマニアの、王国を代表する猛者である。
「アルタイル……ありがとう」
「おう。どういたしまして」
ノジシャも瞳を潤ませ、俺を見つめる。
家族を想った彼女の心の底からの礼に、俺は気を遣わせないようにわざと軽く返事をする。
それを見ていたブロンザルト子爵が、名案とばかりに持論を展開した。
その場にいる誰もが、その声と言葉の内容から彼に注目する。
「――――――礼を思いついたぞ!!!!!ノジシャをアルタイルに嫁がせるか!!!こんな益荒男はそうはいない!!!まったく、どれほど武勲を重ねるというのだ!!!俺の娘の婿にふさわしい男が、こいつ以外にいるものか!!!ガハハ!!!!!」
表明したことは俺とノジシャの結婚話。
この世界は社会構造上、一夫多妻制であるのでおかしな話ではない。
その婚姻には引き続き俺と縁を深めるためという、貴族としての思惑も存在しているのだろう。
もちろん彼なりに娘を想っての話でも、あるとは思うのだが。
この筋肉おっさんは、そんなことを言うとバンバン背中を叩いてくる。
かわいい俺の背中が、焼けるように痛い。
言っていることは、全くその通りだが???
「えぇーーー!?!?!?まいったなーーー!!!ノジシャも俺の嫁になるのかーーー!!!よっしゃぁぁぁぁぁ!!!!!不束者ですが、よろしくお願いいたします♡大事に養ってね♡」
「アルタイルも乗り気か!!!そうかそうか!!!ならばくれてやる!!!めでたいことが続くな!!!今日は宴だ!!!!!」
「あなた毎日宴会してるじゃないの……病み上がりなんだからお酒も程々にしてくださいね……」
エルメントラウト伯母上が、呆れたとばかりに窘める。
しかし彼女の旦那はすこぶる上機嫌に高笑いをして、聞こえてもいない様子だ。
「はぁ……最悪の口説き文句よ」
ノジシャがため息をついたと思いきや、理解できないことを口走ったように聞こえた。
最悪……?妙だな……解せないぞ。
…………あぁ!!!最高って言ったのか!!!
無意識に殺し文句を出しちまうなんて、俺ってば稀代のモテモテ野郎だぜ☆
ったく空耳とは、俺もついに難聴系主人公になっちまったってことか!
うんざりとしたような表情を、照れ隠しで取り繕っているノジシャたん♪
そんな姿も可愛いよ♡
それも今から俺のモノだね♡
「何を言うか!!!このような慶事に酒を飲まんでどうする!!!おい!!!アルフェッカ!!!お前もそう思うだろう!!!なぁ!!!そうと言え!!!!!」
「相変わらずうるっさいなぁ……酒は出す。後はお前の好きにすればいいさ」
「ガハハ!!!そうしよう!!!お前も実は飲みたかったんだろう!!!今夜は飲み明かすぞ!!!アルタイルは…….まだ子供か!!!酒を飲み交わす日を楽しみにしているからな!!!!!」
「ハハ……そっすね……」
自分の溺愛する息子である俺がベタ褒めされていたからか、ご機嫌に満面の邪笑を浮かべていた父上。
一転、俺を賛美していた口の矛先が向けられると、たちまち気だるげな表情に変じた。
ブロンザルト子爵はそんなことを意にも介さず、自身の意見を強制する。
口が回る父上を丸め込むとか、マジで出鱈目に押しが強いわ。
つーか……こういうノリ苦手~~~
飲みニケーションとかいうんだろ?
文化浄化しようぜ直ちに。共に人類文明最大の汚点に革命をもたらそう。
俺が貴族社会を掌握したら、こんな因習は即刻絶滅させてやるからな。
マニフェストに載せるわ。
園遊会だの舞踏会だの後世にまで残さないべき負の遺産は、この国から速やかに排除します。
みんなが楽しんでいる裏でも、疎外感に苦しんでいる子はいるんだよ?
ナイーブな心の悲鳴をわかってね?気遣ってね?カスがよ。
「お兄様はいらっしゃらないの?」
「あの子のことだから、領地は開けられないと言っているのでしょう。真面目な子ですから」
「久しぶりに逢いに来ればよかったのに。本当に堅物なんだから」
「仕方ないわよ。それがあの子のいいところでもあるもの」
美しく非常に長い赤髪を靡かせて、振り向いた可憐な少女の質問。
このノジシャの兄である、揶揄された自らの息子について答えつつも、朗らかに笑う伯母上。
そんな彼女の娘でもあるノジシャは、辟易としているようだ。
確かに俺も会いたかったな。
無口だし最初はおっかなかったけど、不器用ながらも優しい人だってわかったし。
「すぐに帰って寂しい想いをさせないようにしてあげましょう。ノジシャ。みんなにお別れのご挨拶をしましょうね」
「はい。お母さま」
「――――――え?」
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