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第126話 「戦闘詳報」




「油断は禁物だ。敵はまだ残っているかもしれない。索敵魔法持ちを中心に部隊を編成し、捜索に当たれ」



 アルコル軍麾下の兵たちは未だ、気持ち穏やかでない。

 この動乱が終末を迎えたとはいえ、凶変が起こっても何らおかしくはないのだ。

 シュルーダーとヤン、そして叔父上が、遠くに忙しなく指示を繰り出しているのが見えた。


 ダーヴィトは休みつつも、周囲の警戒に当たっている。

 それらに指令する父上は涼しい顔だ。

 焦りや疲労など一つも見受けられない。

 こんなに近くにいるのに、彼がとても遠くにいるように感じられた。




 こうして我らが軍に軍配があがったとはいえ、油断はできない。

 大局的には勝利したが、いざという事態のため。こうして事後対応かつ事前防御に努めている。






「『Curatio vulneris』!『Curatio vulneris』!『Curatio vulneris』!『Curatio vulneris』!」






 その中で俺は、兵士たちの治療に追われていた。

 チートによる無尽蔵の魔力はともかく、削られっぱなしの集中力が途切れそうだ。


 かれこれ何時間戦闘で神経が摩耗していたのだろう。

 戦闘が終わってから、どっと疲れを自覚した。

 生物として当然の疲労であるが、この状況ではそうも言ってられない。




 父上が気づかわし気にまめに俺のところに来てくれるが、俺しか魔力がまともに残存している者などいない。

 数少ない回復魔法使いはみんな、新種の魔物の生物学的分析に駆り出され、ワンオペブラックの様相である。




「『Curatio vulneris』!『Curatio vulneris』!『Redi ad originale』!」




 ブラックすぎる児童労働に内心は悲鳴をあげつつも、死んだ目で魔法を何百回も唱え続ける。

 それも尋常ではなく気を張る回復魔法をだ。

 しくじったら大変まずいことになる再生魔法をだ。

 こいつらの方が疲れているんだと、自分はまだマシなのだと思い込みながら、なけなしの精神安定を図る。


 非常の際は彼らが戦えないと、俺もろとも死ぬだろう。

 やらなければならないことは自分でもわかっているから、反論せずに黙々と続ける。

 今がきっと一番辛いから……すぐに楽になるはずだから……




「『Curatio vulneris』『Curatio vulneris』『Curatio vulneris』『Curatio vulneris』…………」




 俺が神域の魔法を放ち、以前の面影など痕跡も残っていない大地。

 自らが変容させたその地で、一つも泣き言を漏らさず健気に人々に尽くす金髪碧眼の超美少年英雄。


 その力をもってしても一向に終わりそうにないが、やるしかない。

 辺りは夕暮れ時。

 暗くなる前にと、誰もが大忙しで行き交っている。






「かえったら……おっきな……えびふりゃい……………エビ………フ……ラ……」




「「「「「……………」」」」」




 譫言のようにエビフライを希求する亡者のような俺に、気の毒そうな視線を兵たちは向けるが何も声をかけられないようだ。

 もう一生分頑張ったよ。

 人一人の命を助けるなんて、そう機会はないぞ?


 つまり俺は多くの人助けを行った聖人。

 休んでも許されていいでしょ。

 もうこの活躍から大分、片がついたし。






「戦果判定を行う。兵器及び軍需品の消耗あるいは残存状況を確認せよ。戦死者リストの作成も並行して行え」




「「「はっっっ!!!」」」




 戦訓所見。

 それは史料として残されるべきもの。

 従軍していた現場指揮官が、その戦闘経過・戦況予測に関して抱いていた認識を再確認するために用いる、重要な文献だ。


 それをまとめるために父上は、多くの負担が大きい要請をしていた。

 その重大性を把握しているので、指揮官たる騎士たちも異論を挟まず許諾する。




「戦闘詳報を提出せよ。齟齬過失のないように部隊ごとにまとめよ。新種の各行動の戦術的分析が、今後を鑑みると必要不可欠となる。心して励め」



「「「はっっっ!!!」」」



 彼らが急いでいるのも、日没までに速やかに作成しなければならないからだ。

 刻限は着々と迫り、一刻一秒を争う事を余儀なくされる。

 よって、ものものしい雰囲気が漂っている。




「この魔物の特徴を洗い出せ。なぜ透明化しているのかを重点的に分析せよ。これより各自、所見を述べよ」



「―――――――!」



「―――――――?」



 戦闘が終わってからも、指揮官たちは激論を交わしている。

 父上の指摘にも臆さない、鋭い切り返しも枚挙に暇がない。

 彼ら全員が必死の形相で、新たに舞い出た役目に勤しむ。


 それもそのはず。

 生々しい血痕や死体袋の数々は、その戦いの激しさを物語っていた。

 死に物狂いで戦後に対策を練り続けるのも妥当である。




 こんなにも多くの兵たちが死んだのだ。

 意に適う結末とはとても言えない。


 犠牲は大きかった。

 興奮が冷めた兵たちが、歯を食いしばり涙を堪えきれないほどに。

 その間に治療が片付いてやっとの余裕ができた俺は、物思いに耽りながら固く拳を握る。






「…………………」






 そんなしんみりした心を台無しにする美声が、背後から響いてきた。

 救いようもなくイカれた醜悪な存在の気配に、身を固くして身構える。






『――――――あ゛~~~ダリィ~~~~~おい。私は寝る。帰ったら虐待だからな。覚悟しておけよ』



『うわなんかすごいキモいこと言ってるこの人ヤバ』



『ハァ?しばくぞクソガキが。屠殺衝動疼かせやがって自殺願望でもあるのか?望み通りに手足磨り潰して、達磨便器にするぞ』



『ほぇ~~~マジキチ」



 そう言うと癪に障ったのか俺のことを足蹴にして、女を捨てた態度でひっくり返って横になった。

 正気の沙汰ではない。


 腹を蹴られて倒れこんだ俺は、怒気に頬をヒクつかせながら起き上がる。

 菩薩のように慈悲深い俺も、堪忍袋の緒が切れる。

 なんやねんコイツ腹立つわ……!




 してやったりとばかりに、ほくそ笑んだカスは無言で指を一振りして、その体の周囲に風を纏わせた。

 そのエチエチ薄々の紐服に覆われた胸部が風魔法の影響からプルンプルンに揺れ動き、それにつられて俺の視線も首ごと揺れ動く。


 卑劣な罠から暫くそれに気をとられてしまい、気を取り直すも既に魔法は完成しており俺は何も手出しできない。

 不遜極まりないぞ。この俺を惑わせやがって……!?

 その罰をご主人様として与えるため、せめて精神面で追い詰めようとする。




『おいおいおいおいおマジなめてるわ?ご主人様に向かってこの厚顔無恥な所業、マジ許せませんよね?見苦しきまでに理解不能なその愚行。摂理に反すると知れ。まずは手始めに目の前のパイパイを調教……じゃなくてその胸の内に潜む野蛮な精神の矯正をす……』



『…………………」



 チューベローズは先程にはエルフとは信じられない愚劣な発言と態度をしたと思いきや、この俺を無礼にも程がある完全無視をして、荷車の上でこちらに背を向けて寝転がる。

 女への、エルフへの幻想が粉微塵に粉砕されるが、大して驚きは少ない。


 自ら尊厳を貶める、キモ界を牛耳る愚かな変態生物と称しても過言ではないからだ。

 常識通用しない不気味の塊だから、仕方ない。

 俺は大人物なので、その広く深い器に悪感情を全て収めてやった。






「癒しが欲しい……ささくれだった心を埋める隙間、今すぐ欲しい……」






 それでも繊細な俺の心には、傷が残る。

 いつもならサルビアや最悪はステラが隣にいるが、此処は戦地。

 女の子の気配など存在するはずもなく。


 下心の我慢は体(主にチンコ)に毒なのに……

 青少年にあるまじきレベルの、とんでもないスケベしてぇ~~~




 しかしそういえば……はて?

 ルッコラの姿が見えないが、どこに行ったのだろうか?

 先ほどまでは俺に引っ付いていたが……


 俺は陣地から平野を見渡す。

 さほど遠くへは行っていないだろうと思った頃に、彼女が装備の点検に向かったことを思い出した。






「――――――――――ごじゅじんさまぁ~~~♡♡♡♡♡」






 そんなことを想起した瞬間のことである。

 聞いたことのないような甲高い甘ったるい少女の声が、どこかからか聞こえてきた。

 俺は疑問しか浮かばず何事かと驚愕に顔を染めて、声のする方角へと振り返った。




 そこには――――――――――









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― 新着の感想 ―
[良い点] 勝利が確定したとはいえまだまだ油断できない状況の中、ブラック児童労働に勤しむアル様。 本当にお疲れ様です。帰ったらエビフライいっぱい食べて元気出して欲しいです。最後の一踏ん張りですが、兵士…
[良い点]  アルタイルに癒やしを与える存在……まさかデレたの、ルッコラたん!?
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