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第123話 「風弓」




 陣地から整列した軍隊が、整然と出ていく姿を見送った。

 父上たちが陣地を立ち出兵すると、俺は彼の指示に基づき次なる行動をする。


 俺は高くそびえる土壁より、新種に向けて詠唱する。

 唱えられた呪文と共に、砂飛沫を散弾のように四方八方に弾けさせた。






「『arena』!!!!!」






 砂が巻きあがり新種へと襲来した凶器的な砂の弾丸は、その体へと弾孔が悲惨な口を開かせた。

 塹壕を作った際に生じた数多くの土は土嚢変わりとなるが、その一方で魔法に利用できる矢玉にもなりうる。

 俺たちはそれを利用して攻撃と防御を一体化させ、敵を絡めとる。






「お前らみたいな敵は、もう飽きるほど見たんだよなぁっっっ!!!」




 冴えわたる父上の智謀で対処法を確立させた新種など、もはや恐れるに足りなかった。

 遠距離から砂塵を一方的に、新種の体へ次々とめりこませる。

 その余波で他の新種たちも、その姿を浮かび上がらせた。




「ハハハハハ!!!!!姿を現しやがった!!!『arena』!!!!!」




 詠唱と共にたちまち砂で覆われたモンスターは風穴があき、赤黒い血を噴出させて倒れ伏した。

 被弾すれば死。

 一方的に降り注いだそれが新種たちの冷静な思考を奪っているのか、奴らは連携など全く取れていない。


 陣地から出てきた父上たちをこれ幸いにと攻撃を仕掛ける新種も多いが、魔法攻撃に翻弄されて何もできない個体はもっと多い。

 我が父の目論みは、ここに果たされた。

 刻一刻と、奴らの終わりに近づいている。






『………………』




 チューベローズはすでにやる気を失っているのか、寝転んで頬杖を突きながらぼんやりとしている。

 この気が抜けない重要な場面において、なんとも間の抜けた態度だ。

 しかし逆に緊張感を抜いてくれているかもしれないと、無理やり好意的に捉える。




 いや無理か。近くにいる兵士たちは既に隠蔽魔法すら解いたこのクソエルフに向けてか、額に青筋を立てながら決して視線を向けないようにしている。


 こいつは当然それを知っているのだろうが、まるで気にも留めていない。

 マジでこの図太さだけは尊敬する。

 エルフの心臓は何で出来ているんだろうか。






「お前たちっ!アルタイル様に続けっ!!!!!」




「「「「「おぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」」




 シュルーダーの鼓舞に奮起した兵士たちは、ますます激しく攻め立てる。

 弾雨をそそぎ込むと、新種たちは風穴を開けられる。


 着弾することを恐れたのか、目ざとい新種は逃走を図ろうとする個体もいた。

 しかし死をもたらす果敢な攻め立てが、その背を襲う。






『ventus procellosus』






 アルビレオ叔父上は弓を引き絞り、間を開けつつだが大威力の矢を次々に射ち放っている。

 その弓矢には彼の魔法による風が纏わりつき、射出速度が尋常ではない。

 それをコントロールできているのは、ひとえに叔父上の魔法及び弓術スキル、そして魔道具弓の賜物だろう。


 消息が途絶えそうになる新種の背中をとんでもない距離から、撃ち抜いている。

 荒れ狂う風と共に突き抜け、見事な軌道を描いて強弓が命中した。

 狙い違わずヘッドショットを決め、新種の頭を消し飛ばしたようだ。




 簡素だが頑丈なつくりの望遠鏡を目に当てた観測者が、報告している。

 この世界では貴重なレンズを活用した軍事物資であるので、このような壊れる心配のない安全地帯でないと使えない。

 製造を熟練工の腕に頼った、贅沢の極みとしか言えない物品であるからだ。

 そのうえ魔道具、その価値は計り知れない。


 加えて叔父上のメガネは魔道具だ。

 以前、遠方まで精緻に目視する機能があると教えられた。


 それには常に魔力光が煌めいている。

 レンズを通して猛禽類のような鋭い眼光が、射殺すような迫力をもって新種のいる方向へと見据えている。




「着弾確認!!!目標沈黙しました!!!」




「次の攻撃に移る。攻撃目標を定めよ」




 その攻撃は、風魔法と魔道具の合わせ技だ。

 それも超遠距離精密射撃。

 このような貴重な魔道具を多数身に着ける叔父上は、実力者であると父上に認められているという証。


 連射された矢は寸分狂わず姿を現した魔物へと突き刺さり、流れ出た血でその姿をより鮮明にする。

 負傷によって動きが鈍くなった個体は格好の的で、地上攻撃部隊などに間もなくして殺された。


 それを実現した彼は絶え間なく集中しており、魔法を唱えてから、すさまじい勢いで矢が射出される。

 調子のいいときなど、貫通した矢が次の標的を撃ち抜くことすらある。






「お見事です叔父上!」



「……………スゥ~……お前ほどではないさ。攻撃している間は、何もできない。指揮などもってのほかだ」



「ご謙遜を!芸術的すらある技術に、俺は感服してしまいました!」



「英雄アルタイルに言われれば、少しは自信が出るというものかな」



 一心不乱に専心していたからか、緊張が解けると深く息を吐く。

 俺の言葉が聞こえなかったかと一瞬思うが、彼はおどけて俺へと返答した。




 トロル戦でもこれを使えていれば、とも一瞬思ったがすぐさま無理だろうと悟る。

 ここまで弓術に没入してしまうと、乱戦では使えないのだろうなと一人納得する。


 自問自答を終えるや否や、埋没しつつあった思考を戦争という現実へと引き戻す。

 これまで通りに砂魔法を、何十回もしばらく放ち続けた。






 ――――――――――スゥゥゥゥゥ






 僅かな時が流れると、微風が全身を撫でる。

 魔力が籠ったそれは、ある魔法の予兆だ。


 風魔法通信でヤンの声が鳴り響いてきた。

 それは最終作戦決行の合図である。




『―――――――おうアルビレオ。敵の後背に回り込んだぞ。いつでもいけっから』




『ヤン。敵を追い込め。残存火力はすべて投入していい。ここで出来ればすべて掃討したい』




『いいんじゃね。分かりやすくいこうや』











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― 新着の感想 ―
[良い点] あれだけ恐ろしかった新種もこうなっては恐るるに足らずですね! 『arena』!!!!! アル様の魔法とお父上恐るべし。だけどチューべローブは相変わらずすごい図太さです。 アルビレオさ…
[良い点]  叔父上ツエーよ! そして、そんな叔父上の言葉からもアルタイルの強さがアピールされますね!
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