第122話 「新魔法技術、起動。大破局到来」
詠唱と共に魔法陣が起動する。
周りの魔法兵から見ても一際巨大かつ、夥しい魔力を垂れ流している。
余剰魔力ですら、魔法兵たちの魔法に込まれた魔力を凌駕していた。
ついにその単語と同時に、破滅的な火力が一斉に放たれた。
視界を飲み込まんばかりの、魔法の数々。
その先駆けとなるのは、俺が降臨させた幻想による水の裁き。
魔法陣は光り輝き、発光と同時に一条の流星のごとき速度で水流が突き進む。
それを鞭のようにしならせながら、あらゆる全てを蹂躙しようと飲み込んでいく。
いや、それは途中で枝分かれする。
何本も、何十本も。
その拡散放射された激流は、誰の目でも追うことはできない。
「――――――――――Torrent cataracta』!!!!!!!!!!!」
――――――――――ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!
魔法はたった一撃で視界を飲み込み、暴虐的なまでの魔力が空間に飽和する。
信じられない速度で目標へと到達すると、流星群でも降り注いだような轟音が鳴り響いた。
極大のカタストロフィーが顕現した。
新種たちは死んだことにすら気づかなかったかもしれない。
まるで最初から存在しなかったかのように、消し飛んでいた。
俺一人の火力でも、過剰に過ぎた。
三方向から魔法兵が放った魔法の数々も、ささやかな色の彩を添えるものにしかならなかった。
強烈な大破局がこの地に舞い降り、大地は無残にも剥がれ落ちていた。
無数の砂塵が空を舞う。
甚大な被害をこの場所へもたらし、魔法は終息した。
「…………おぉ~~~すげぇな俺」
魔力操作の制御のレベルが上がったから、こんなこともできるようになった。
魔法技術の新境地。
神話の域に達した魔力操作レベルによる新技術で、この光景を実現させることができた。
魔法の拡散放出。
一つの魔法を意のままに操り、想像した任意の形状へと変形できる。
それならば、こんなこともできるのだ。
これが極まった魔力制御による絶技。
魔力操作の強化はスキルレベルが低いから、まだ威力の伸びしろがある。
今後どうなってしまうのか、楽しみでならない。
「「「「「…………………」」」」」
誰もがこの暴威に絶句し、何の行動もとれなかった。
何度も息を呑む音がする。
爆風が止むまで、誰も口を開くことができなかった。
砂煙を防ぐのに精一杯だったこともある。
しかし神話的な一撃に、それほどまでに圧倒されてしまったのだろう。
チューベローズですら目を見開き、面食らって固まっている。
ルッコラなど呆然とそれを眺め、口を半開きにしたまま魂を奪われたように立ち尽くしてしまっていた。
誰もが衝撃的といった、二の句が継げない有様であった。
「―――――――父上~~~!もう一度やった方がいいでしょうか?他のことした方がいいですかね?」
「…………ああ。砂魔法で残敵を目視できるようにしてくれ。お前たちもだ」
「「「「「「………………ハッッッッッ!!!!!」」」」」
俺は父上に指示を仰ぐ。
少しの間、一変した世界を難しい顔で見つめていた父上は、命令という行動で反応を返した。
彼の命令に数拍遅れて、てんでバラバラに慌てて返答する兵士たち。
俺の魔法により、些か愕然とするものがあったようだ。
「シュルーダー及びアルタイルは野戦陣地において部隊を統率し、火力支援を引き続き行え。私の指揮による本隊3部隊が陣地外へと繰り出し、新種を釘付けにする。その間にヤンの別動隊が、退却経路を辿りキララウス山脈方面へと抜け、幅広く展開している新種の最背面に回り込む。他陣地から部隊が集まり次第、アルビレオに率いらせて連携の上で挟撃する。部隊集結まではアルビレオは、足取りが掴めなくなりそうな新種を狙撃せよ」
「「「「「ハッッッッッ!!!!!」」」」」
兵士たちは口々に了解の意を示す。
一歩誤れば人死にという一大事となることを、新兵に至るまで理解しているからだ。
未だ予断を許さない戦場の趨勢。
危険と隣り合わせであることは、変わっていない。
「ここで、ほぼ完全な情報を得ることができた。作戦目標は十分以上に達成した。しかし一匹でも漏れたら、我らが故郷へ甚大なる惨禍を及ぼすだろう。そうなる前に、ここで叩き潰したい」
急転直下、苦しい局面を打開した後も、徹頭徹尾油断はしない。
一網打尽となった敵を、さらに戦場の女神たる火力で追い打ちをかけつつ、完全に粉砕するためのスキームを構築する。
「透明の敵。点や線の攻撃なら容易に回避し、逃走を図る。ならば面攻撃で、これに始末をつけるまで」
父上の巧みな用兵術が、戦地へと広げられる。
彼の考え込む際の癖である顎に手を添える仕草をしながら、風魔法で指示を送る。
その怜悧な頭脳による適確なタクティクスに基づいて、状況に即した対応を取る。
その結果、次のように宣言した。
『全軍に告ぐ。眼前に立ちふさがる敵、そのすべてを掃討せよ』
「「「「「ハッッッッッ!!!!!」」」」」
砂煙がだんだんと晴れてくると、新種が砂を被りその姿が丸裸となる。
先ほどの俺の魔法による余波で、敵を補足することができたのだ。
父上は嬉し気に微笑を添え、崩壊した世界を眺める。
目に見えていた部分の全てが剥がれ落ちた荒涼たる視界を見据え、攻勢を強めることを決定する。
「ふむ。思わぬ幸運だ。戦闘行動がとれない部隊は、後方で待機しアルビレオと共に後詰めに回れ。私の部隊は陣を敷き、約三分後に接敵する。交戦しながら後退せよ」
ロジスティクスに優れたアルビレオ叔父上やシュルーダーをはじめに、万事滞りなく軍の態勢を整える。
父上の育成したテクノクラートが、その優れた手腕を発揮していった。
新種たちを罠にかけようと誘引するために、程なくして臨戦する。
完全包囲を成し遂げるまでは、適当に付き合っていればよい。
相手に失策をしていないと思いこませれば、最高だ。
父アルフェッカの指揮で、部隊は一つの生き物のように有機的に動き、敵を仕留めようと展開された。
運命の妙から敗北へと天秤が傾いた新種たちは、もはや行き詰まりの様相を呈すこととなった。
しかし窮鼠猫を嚙むという言葉がある以上、最後まで力を緩めないように俺も気を引き締めてこれに臨む。
「……………」
その時は俺の角度からは見えなかったがルッコラの目は爛々と輝き、俺のことをじっと見つめていたのだった。
その唇は、半月状に歪んでいた。
獰猛に。
喜色を滲ませて――――――
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