第119話 「陣地へと」
同乗している騎士の操る騎馬も、徐々にスピードを増していく。
蹄鉄が大地を踏み鳴らす、けたたましい音が奏でられる。
視界が開けてきた。
それは俺が建設した塹壕陣地へと、辿り着いたことを意味する。
やっとのことでたどり着いた、待ち焦がれた地。
待望の安全地帯へと、ついに俺たちは帰還を果たした。
「――――――――――たどり着いたぞ!!!!!」
父上が腹の底に響くほどの大声で叫ぶと、兵士たちが歓声を上げる。
そしてさらに駆けるスピードを上昇させる。
ここまで開けた地となれば、騎兵の面目躍如だ。
俺たちを護衛しながら騎兵団が、陣地へと猛烈な速度で突っ切ってゆく。
「順次、兵士たちを収容せよ!塹壕内の部隊は火力支援に移れ!」
俺たちの姿を捉えたのか、聞き慣れた人物の声が陣地内から聞こえてきた。
それは父上より直々に、防御部隊の統括を任命された騎士。
俺の繰り出す特有の大威力の魔法に、誰が帰ったのか気が付いたのだろう。
「――――――アルタイル様!!!アルフェッカ様!!!ご帰投―――――!!!!!…………お前たち!火力支援を行いながら、収用態勢を整えろ!前線部隊の後退行動を組織的に支援する!」
塹壕に詰めていたアルコル軍騎士隊長シュルーダーの、朗々とした声が響き渡る。
塹壕は適宜連絡して伝えた敵の特性から、堀代わりとしているようだ。
新種は遠距離攻撃がない故にである。
彼の声が聞こえるや否や、ある変化が戦場に訪れた。
土壁の後ろから俺たちの側面へと、魔法が雨あられと降り注いだ。
ドォォォォォォォォォォォォンッッッッッッッッ!!!!!!!!!!
ゴォォォォォォォォォッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!
それにより俺たちは背面へと攻撃を集中させ、楽に撤退することが可能となる。
そうして敵への警戒などに煩わされることなく、塹壕へとなだれ込めるのだ。
後退行動における移動には、特に敵行動への用心が必須である。
被害の拡大を抑えるためには、部隊の背面と側面に戦力を集中させ、追撃や牽制などへの対応を行わなければならないからだ。
神経を尖らせながら走り抜けた先に、シュルーダーが待ち構えていた。
辿り着いた。
緊張がほぐれ、ほっと一安心する。
チューベローズは相変わらずマイペースだが、ルッコラは今までの過大な運動量から疲労困憊の様子だ。
荒く息をし、膝に手をついている。
今は回復させ、戦闘が終われば労わってやろう。
「よくぞ御無事で!」
「ああ。状況は定期連絡の通りだ。その後も不測の事態は続いた。だが新種の奇襲攻勢を撃墜し、追撃が弱まったところを強行突破して撤退することができた」
「ははっ!お見事にございます!」
「未だ外に取り残されている兵たちも、退却路へと誘導してほしい。前線に部隊を展開させ、主力部隊の後退行動を支援せよ」
陣地から兵士たちが出て行った。
ノコノコ殺されに出て行った訳ではない。
消耗していない部隊を比較的長く前線に留めることで、軍全体が敵の方向に対して最大の戦闘力を発揮できるように戦闘陣形を組むためだ。
陣地を背後に横陣を敷き、簡易的な土壁を創造してから、その後ろに次々と兵たちが詰める。
そのようにするのは、特に火力を発揮するのに適した陣形であるためである。
またこの簡易防壁を用いた陣地はお互いの射程を補完することで死角は消失し、なおかつ十字砲火を浴びせられるための設計が成されている。
その火網に侵入した敵は破壊され、次々と爆散していく。
この防御を突き破ることは、至難の業であろう。
「アルタイル。兵士を治療せよ。完了次第、砂魔法で敵を炙りだし、攻撃を行え」
「はい!!!『Curatio vulneris』!『Curatio vulneris』!『Redi ad originale』!」
俺が治療をしている間に、火力を投射することで敵の進路を変更している。
そうすることで撤退部隊の負担を減少させ、安全ルートへと案内することもできる。
そして新種が進むその先には、魔道具罠による危険地帯が待っている。
こいつらは未知の攻撃に、何も対応すらできなかった。
ドォォォォォォォォォォォォンッッッッッッッッ!!!!!!!!!!
ゴォォォォォォォォォッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!
雷鳴の轟くような爆音がしたかと思うと、新種たちが次々といつの間にか四散、あるいは身動きが取れなくなっている。
これが魔道具罠。
炸裂した時に一定の方向に、扇形に粘着物質や爆発物を発射する性質を持つ兵器。
敵が密集していた場合は、まとめて殺傷されうる威力を持つ。
様々な種類があるが、一様に指向性を持ち危害範囲が広い特徴をもつ。
張り巡らされたワイヤーに敵がかかることで作動したり、手動操作で任意のタイミングで炸裂させることもできる。
高額なものは遠隔起動も可能となる。
現在使用されている物は付属した三脚に載った形式で設置され、設定方向に内容物を射出している物だ。
余談ではあるが、地中に埋設する地雷のような型もある。
今回は撤退する兵士たちが万が一にも引っかからないように、地雷タイプは使用しなかったようだが。
ドォォォォォォォォォォォォンッッッッッッッッ!!!!!!!!!!
ゴォォォォォォォォォッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!
予め準備しておいたポイントへと魔法を放ち続けることで、安全地帯から撃破が続けられていた。
撤退してきた兵士たちを誘導しながらも、十分な余裕を保っている。
火力を集中して、火網に侵入した敵を次々と破壊する。
状況が許す限り、この一方的な殺戮はひたすら行われるだろう。
「兄上!アルビレオ並びに、ヤンの部隊も撤退完了いたしました!ご命令を!」
「ご苦労!陣地内で部隊を再編成する!アルビレオはその管理を頼む!」
「承りました!」
ようやく収用完了した。
ここまで苦戦を強いられていた。
そして今、命を失うかの瀬戸際だった強行軍が、完全に終結したのだ。
絶体絶命の危機が、いくつもあった。
地獄の撤退戦。それを嫌というほどに味わった。
だがここに来れば、もはや趨勢は俺たちに傾いた。
それはなぜか。言うまでもない。
王国最高と称される戦術家が考案し、敷設した陣地。
ここに俺の父、アルフェッカ・アルコル侯爵がいることが、何よりの証明であるのだから。
「――――――――――反撃だ」
面白い、または続きが読みたいと思った方は、
広告下↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓の☆☆☆☆☆から評価、またはレビューしていただけると、執筆の励みになります!!!!!!!!!!




