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第117話 「囮となる父子 煌めく智謀」




「な…………何をおっしゃいますか父上!?」




「アルタイル。お前も囮だ」




「えぇぇぇぇぇー――――っっっっっ!?!?!?!?!?想定外の要求で、まいっちんぐ―――っっっ!?!?!?」




 これガチ?今まで見せていた親子の情は、偽りだったの?

 それとも無理心中?

 雑にヤンデレ発動しないでよぉ……マジでなんやねん……


 兵士たちが泡を食ったように、父上を静止しようとする。

 いくら窮状だからといって、起死回生の打開策としては、不適当に過ぎるではないのか?




 気狂いとなった者を見るかのような、その場にいる人間の視線が父上へと集まる。

 しかし父上は平静を保ち俺たちをじっと見ながら、だんまりを決め込んでいる。


 ルッコラたんも目を見開いて瞳孔を収縮させ、何を言っているのかわからないといった様子だ。

 俺の隣にいるチューベローズでさえ、目を細めている。






 父上はしばらく黙っていたが、俺たちの喧々諤々とした訴えが鳴りやむと滔々と解説を始めた。

 その魂胆は、わざとこちらから敵の目論見に沿って進み、それを逆手にとって迎え撃とうとするものであった。




「自棄になったわけじゃないさ。現状から鑑みて攻めあぐねている敵がどこで、どのように攻撃をしかけたいか。これまでの戦闘で分析した敵の判断力から推測すれば、奇襲地点の予想は容易い。私はそれを逆手に取り、逆撃を行いたい」



「兄上……今そのようなリスクを冒す必要はあるのでしょうか?もう少しで陣地へとたどり着きます。少々の被害は承知で、このまま進んだ方がよろしいのでは……」



「それでは足りない。今まで対した敵の数に比して、やけに攻撃がまばらであることが気になる。我々が各個撃破を何度も遂げていたにも関わらずだ。これは波状攻撃を意図していたのではなく、今までは敵も散開していて、時間経過とともに私たちを捕捉次第に攻撃していたと考えれば妥当な展開だ。ここまで戦闘が続けば今までの戦闘経過から推測して、敵も我らを倒すための策を練るだろう。私たちの戦力に対抗するために、総力を挙げて大攻勢のために集結している頃合いだ。そうなれば勝率を上げるために、奇襲を計画しているに違いない」



 アルビレオ叔父上はみんなを代表して、慎重案を冷静に献策した。

 俺も同意だ。

 父上の提示した作戦の前提となる、敵の行動パターンから予測したリスクには、ある程度気を付けるべきかもしれないが……


 だが多少の怪我は俺が対応できる。

 魔力チートで、即死以外はすべて治療できるはずだ。

 俺さえ無事なら、問題はないと思うのだが……

 その俺を囮に使うって、本末転倒感が甚だしくねぇ?




 父上はこれ以上は無駄だとばかりに、矢継ぎ早に持論を述べると強引に議論を打ち切った。

 そして大将としての強権をもって、陣形を組むように下命する。






「アルコル家当主として命ずる。遠距離攻撃を行う兵、そして怪我人など足の遅いものは中央部へ。アルビレオは右翼に置く。ヤンたちは既に左翼に位置している。お前たちは両翼に広がれ。私が号令をかけた際に、指示した地点を包囲して攻撃せよ」



 叔父上は不承不承といって様子であったが、その表情をすぐに押し込めて了承した。

 兵士たちもそれを受け入れ、布陣していく。


 父上の言いつけから、俺たちも迅速に移動を始めた。

 ものの数分もかからず、アルコル軍は父上の指示通りの陣をしく。

 ヤンたちから連絡を受け、父上の策を了承するとのことだ。


 そうして大過なく、部隊は態勢を整える。

 度重なる訓練と実践を経た兵による、一糸乱れぬ戦列が動き始めた。




 そうして俺たちは、再度歩を進めた。

 警戒をするが、この地平には異常は見当たらない。

 舗装されていないので、騎乗していると少しばかり揺れが激しいが。

 木陰などを斥候が確認するも、敵影は皆無のようである。


 林というには、木々も大きく間隔がある。

 見上げるほどに背が高く、幹がうねりまわる樹木を横切りながら、退却行動を続ける。

 しばらくして配置された俺たち中央部隊は、ある地点へと差し掛かる。






「いつ何処で奇襲をされることが我々にとって最悪か。それを為すため、敵はわざと攻撃の手を現在緩めている………そこで虚をつくには最適な位置が存在する。移動困難な場所。例えば沼池や凹凸の激しい地点。捕捉されづらい隠れ場。一番油断しやすいタイミング。すなわちここだ。我らが求めていた帰るべき拠点。それがようやく見えてきた、『此処』で」




 父上の言葉通り、ようやく塹壕が見えてきた。

 俺たちは喜色満面の笑みだ。

 ようやくたどり着いたという安堵が、気の緩みをもたらす。


 だがそれが罠だという事。

 父上は看破していた。

 その切れ味鋭い頭脳は、敵味方全て。何者も置き去りにする。






「先のアルタイルへの、そして魔法兵を狙った奇襲攻撃で理解した。私たちを狙うとわかれば、その方が対処は容易いのさ。かえってその方が危険性は少なくなる………………ここだ。全軍停止。上空60度。太陽を背にした、あそこの密集した木々を狙え」






 父上は遠く指さす。

 俺は彼の手の向く方を辿り、照準を合わせた。

 先ほど俺がやられたばかりの構図。

 それをさらに洗練させた、隠れ蓑に陽光を後ろにした天からの不意打ち。

 父、アルフェッカ・アルコルはそれを読み切っていた。

 

 神算鬼謀とすら評される、父上の知略。

 ここに至っても俺は、まだそれを理解していなかった。

 俺如きでは、到底たどり着けない境地。

 そこに父上はただ一人、立っていた。




 魔法兵は風魔法通信を起動し、叔父上とヤンへと言葉を送り届ける。

 その時点で俺はすでに、最大火力を練りこんでいた。

 そしてそれを、待ち望んでいた言葉と共に解き放つ。






『―――――――――終わりだ。撃て』






 ――――――――ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッッ!!!!!!!!!!




 ドォォォォォォォォォォォォンッッッッッッッッ!!!!!!!!!!




 ゴォォォォォォォォォッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!






 父上の淡々とした命令により、俺たちは最大火力で天を撃ち抜いた。

 太陽を丸ごと覆い隠すほどの、極太の水の奔流。続いて花火のように咲き誇る色とりどりの魔法が添えられる。


 数十mはある木々は、上半分がまとめて消し飛んだ。

 彼は無機質な視線で、絶命した夥しい敵のいるであろう地面を見据えた。




 俺は気配察知スキルにより、膨大な敵の躯を捉えた。

 数えることすらできないほどの、夥しいほどの数。

 これだけの敵に一方的に攻撃されていたら、俺の命はなかったかもしれない。


 彼は。俺の父であるアルコル家現当主アルフェッカ・アルコルは自分の命をベットし、賭けに勝った。

 彼にとっては規定事項だったのかもしれないが。




「………………っ!」




 思わず肩が震えた。

 なんて胆力だろう。

 自らを。大将である己を囮に使うなど、正気の沙汰とは思えない。


 だがこの男は、王国最高の軍略家はやってのけた。

 見破ったのだ。初見の敵の習性を。


 稀代の智謀ではないか。

 チューベローズは腕を組んで、片眉を上げている。

 種族蔑視の酷過ぎるこいつですら、この行いに感心しているのだろうか。




 味方の兵士でさえ、信じられない様子だ。

 この瞬間、完全に敵の攻撃は沈黙した。


 彼の頭脳の煌めきは、いったい誰が追い付けるのであろうか。

 誰かが生唾を呑む音が、静寂の中で響いた。






『動きを止めるな。この隙に撤退を完了させる。先ほどまでの隊列に戻れ』








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― 新着の感想 ―
[良い点] え? まさかのアルさまも囮? みんなびっくりでしたがさすが父上様。 敵の狙いを完璧に読んでいましたね! 確かにここまでの流れからして塹壕に戻ったらホッとしますよね。そこをこんな大軍勢で…
[良い点]  ウォォォ! 父上──ッ!  軍師は好きだ───!
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