第116話 「追い詰められていく同胞」
迫りくる攻撃。
それが直撃しようとした途端に。俺は目を瞑り――――――――
『――――――――雑魚がっっっ!!!!!』
『チューベローズ!?』
最近になって聞きなれた声。
おずおずと目を開ければ、冷涼な美声と共に荒れ狂う暴風の塊が、俺の目の前へと現る。
たちまち新種は数体それに巻き込まれ、無残な躯を晒した。
驚愕と共に俺はその後姿を見る。
そしてエルフ語をもって彼女へと、おずおずと話しかけた。
『お前……!……今までどこに………?』
『貴様らナメクジのすっとろい歩調に、合わせてなどいられるか。感謝しろよアルタイル。この私がいたから、今も息を繋げられていることを』
俺の奴隷であるチューベローズは事も無げに討伐報告をする。
無造作に投げられた言葉とは裏腹に、その数は驚嘆すべきものであるが。
『奥にいる下等生物共だが、100は軽く片付けてやった。深く感謝し、崇めることだ』
このショタコンサディストも役に立つときがあるのか…………
いつもは身の毛もよだつ、きっしょいメスエルフもどきのくせに……
相変わらずの高飛車な口上と共に、若草色の髪を靡かせてかっこつけている。
話している間にも、無詠唱で風魔法を次々と放っている。
神速の風魔法が兵士たちの横を吹き抜けるたびに、彼らの攻撃も困惑したように止まる。
いきなり敵が沈黙したからであろう。
なんという超絶的魔法技巧、卓越した戦闘スキルであろう。
俺は内心色々な意味で驚愕しつつも、不承不承ながら礼を述べる。
『助かった……』
『本来ならば地べたに跪いて頭を擦り付けることを命ずるところだが……寛大にも免除してやろう。雑魚人間にとっては、荷が重い魔物のようだからな』
イカレた妄言をいつもの調子でたたく、耳長謎生物。
さすがの俺も、気味の悪さにげんなりとする。
下手に礼など言って、調子に乗らせるべきではなかったのかもしれない。
慙愧に堪えない。
しかしこいつ……やはり何かわかっていたのか……?魔物だと……?
こいつは先ほどまでは、父上の周りにはいなかったはずだ。
新種の魔物だというのは、自分で知ったという事になる。
知ったかぶりの見栄ではないだろう。
邪推かもしれないが、あまりにも平然とし過ぎているように思える。
少しは驚くものではないのか?
もちろんこいつが強いことは承知の上だ。
エルフなので、俺たちとは常識もかけ離れていることも承知だ。
いつも無詠唱で高位魔法を使っているところを見るに、相当な実力を有している。
しかし……違和感が残る……
『お前……この状況を予測していたのか………?父上ぐらいしか予測なんてできていなかったのに……』
『貴様の親猿の考えつくことなんぞ、偉大なる私が予測してないとでも?その愚考こそが不遜なんだよバカガキ』
父上を侮辱されて、ちょっとどころではなく苛立つ。
しかしこいつの機嫌を損ねることは、現状において避けるべきこと。
俺は一つ大人になってやり、黙ってこいつの話を聞いてやる。
『エルフ様の優等性を思い知ったなら、糞雑魚生物ヒト猿は、地面に這いつくばり生を繋ぐことが相応しいことも思い知るがいい』
『……………そう』
怒りを胸中に押し止め、何とかスルーする。
俺が地獄の時間を過ごしていると、俺たちの周りに数の足音が木霊する。
ルッコラや兵士たちが続々と集結してきたのだ。
彼らは心配してか、切羽詰まった声で主君の嫡子である俺の安否を確かめた。
その多くが痛々しい怪我だらけだ。
激戦の連続で、彼らも疲労が色濃く見える。
「アルタイル様!御身に怪我はありませぬか!?」
「大丈夫だ。特に問題はない。『Curatio vulneris』」
「アルタイル様……!お手を煩わせ、大変申し訳ございません!!!」
「不覚を取られ、弁解の言葉もありません!!!」
「謝罪はいい。すぐに叔父上たちと合流するぞ」
回復魔法をかけながら、謝罪の嵐を無理やり終わらせる。
というのも遠目でアルビレオ叔父上たちを見ると、彼らもまだ襲撃を受けているからだ。
騎士たちもそれを見ると、焦燥に駆られたからか身じろぎして鎧を鳴らす。
俺は彼らが動ける健康状態にあることを確認して号令をかける。
「全員動けるな!直ちに叔父上たちへの救援に向かう!!!」
「はっ!動きながら隊列を組め!!!」
満足に軍事教育を受けていない俺は、とても指揮などできない。
騎士たちが今までの経験をもとにして、俺の意を酌んで各々が出来るだけ最適に動いてくれる。
訓練され尽くしたアルコル軍でないと、こうはいかないだろう。
そんな思いを抱え、俺は騎士の馬に乗せてもらい、叔父上たちのもとへと急行する。
ルッコラとチューベローズも、馬と同等以上のスピードで駆けていく。
ようやく声が届く位置についた。
危機の間から木漏れ日が差し込む開けた場所で、彼らは応戦していた。
戦況は芳しくないようだ。
彼らの流血量と、地面に横たわる不可視の躯。
それらを比べるにダメージレースでは勝っているのだろうが、物量が違い過ぎる。
このままではじり貧だっただろう。
「――――――クソっ……!敵が多すぎる!!!足が止まりつつある……このままでは…………」
「――――――『arena』!!!『arena』!!!『Curatio vulneris』!『Curatio vulneris』!『Redi ad originale』!叔父上―――!!!!!」
「アルタイル!?助かった!そのまま敵を押し込めてほしい!その間に部隊を再編成する!!!」
「はい!『arena』!」
図らずも挟撃の形となり、着実に敵を減らしていった。
とどめとなったのが、異常を感知した父上の援軍だ。
それにより完全包囲を遂げると、相手は溶けるように殲滅されていった。
叔父上は一息つきながら、父上へと感謝と報告をする。
被害もとてもバカにならない。
着実に俺達の反撃能力は失われている。
もはや魔法使い達の魔力は枯渇寸前だ。
魔道具はそれ以上に少ない。
これ以上の魔法を用いた組織的戦闘は、あと一回ほどが限界だろう。
肉弾戦が中心となれば、被害は数倍以上に増えることは間違いない。
兵士たちの間に、良くない空気が張り詰めかけている。
これで士気崩壊していないのは、父上や俺、ルッコラ、チューベローズ、ヤンなどの特記戦力がいるからだろう。
武官長ダーヴィトは指揮をするのに精一杯で、体が動かないようだ。
しかし俺らがいたとしても、兵士たちすべてをカバーできるわけではない。
俺たちの手が届かなければ、死。
それが彼らの精神をじりじりと削っている。
「――――――被害報告は以上です。兄上。どうなされますか」
「戦術方針を変える。一旦ある程度、敵を殲滅する。一網打尽にする作戦がある。私の言うとおりに行動してくれ」
父上は突如、有無を言わさない口調でそう宣言した。
手早く後方の魔法使いなどの後衛部隊を、移動させるように指令する。
両翼において、それぞれに遠距離攻撃させていた兵たちを、何故か全て中央に集結させる。
そしてわけのわからないことを口にした。
俺を含め、すべての者たちが唖然とする。
「囮をつくる。それは私が行く」
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