第115話 「獣人の性能」
「敵襲―――――!!!!!」
「――――――――――アルタイル!!!対応してくれ!!!」
「…………はい!『arena』!!!」
敵の襲来を告げる、その言葉で現実に戻る。
まだ戦闘は終わっていない。
その場で新手がまたやってきたのだ。
余裕を見てから周囲を見渡すが、撤退状況もあまり芳しくないようだ。
火力支援を続けなければ。
先ほどからやけに重く感じられる体を引きずり、鉄火場へと戻る。
騎馬が絶望的に足りない。多くの死骸が散見される。
騎士がやむを得ず、奇襲攻撃の楯にしたのだろう。
ネコミミ褐色肌ロリ奴隷メイドのルッコラが、俺の周りで応戦している。
地面にある何かへ追い打ちを2回すると、慎重に残敵を処理するために、兵士たちのフォローにそれとなく入っている。
そして耳と尻尾をぴんと逆立てながら、周囲へとその大きな瞳をあちこちに向けている。
精神を研ぎ澄まして、迫りくる攻撃へと反応しようと警戒体勢をとっている。
なかなか柔軟に対応している。
少し彼女が戦闘できるかは心配していたが、まるで歴戦の猛者同然の戦果だ。
彼女の戦闘行動に気を遣うのは、もはや杞憂だろう。
「…………スゥ~…………ハァ~………」
俺はというと、まだ心が落ち着かない。
神経が張り詰め、それを無理やり押し込めようと深呼吸を繰り返す。
それだって気休めに過ぎない。
根本的に戦場から逃れねば、解決しようがない問題だろう。
精神的負担が重すぎる。
頭がおかしくなりそうだ。
一方で何故か、かなり高揚している。
神経伝達物質が、とめどなく分泌されていることが自覚できる。
生命の危機に瀕しまくっているからか、神経が研ぎ澄まされ過ぎて集中力がかつてないほど高まり、感覚が鋭敏となっている。
泣き叫びたくもあるし、叫び続けたくもある。
しかしどこか冷静な自分がいる。
変な感覚だ。
しかし無理やりにでも陽気にテンションをあげないと、心が参ってしまう。
深く沈む感情を追い出すために、声を張り上げて空元気をはろうとする。
「―――――――!?ルッコラ!!!あっちだ!!!『arena』!!!!! 」
「…………!」
ゴォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!
その時、俺の気配察知スキルは、ある気配を捉えた。
次々と来襲する見えざる敵。
それらを兵士たちへと見えるように、砂魔法で表面をコーティングし、なおかつ砂の圧力で足止めする。
しかし何気にチートじゃね。この気配察知スキル。
ほとんどルッコラと同時位に気づいたぞ。
ルッコラはそのネコミミを大きく動かし、音で敵を捕捉している様子だ。
考えを巡らせていると人の死に触れて荒んだ心が、落ち着きを取り戻していく。
思考に没頭していると、ルッコラな怪訝な声で俺に問いかけてきた。
一拍遅れてそれに返答する。
こいつにはもちろんのこと、誰にもスキルのことなど告げていない。
気狂いだと思われるし、俺にメリットが見当たらないからだ。
「人間…………敵の居場所がわかるの…………?」
「……?あ……俺のこと……?まぁ……それなりに……?…………おい!!!次は向こうからすぐ来る!!!『arena』!!!」
「…………!」
ズガガガガガッッッッッ!!!!!
俺は迫りくる敵を察知し、ルッコラの追求をうやむやにして、敵対者が来たことを喧伝した。
彼女は俺の言葉を聞くとすぐに戦闘態勢に入り、敵を迎え撃つ。
ルッコラは大活躍だ。
すごい。俺もいち早く魔法で敵を炙り出すことに努めている。
それでも敵を視認することが遅れるのだ。
つまりそれは相手より確実に、一歩出遅れることになるということ。
出足のスタートラインが違うのだ。
であるのに彼女は毎度先手をもぎ取り、攻撃をさせることなく相手を沈めている。
その運動性能は圧巻の一言であり、終始敵を圧倒している。
「――――――――――ハァッ!」
「――――――――――『arena』!!!『arena』!!!『aqua』!!!」
ドォォォォォォォッッッッッッ!!!!!!
バキバキバキバキバキッッッッッッ!!!!!!
グチャグチャグチャグチャッッッッッ!!!!!!
足の関節部を下段からの蹴りで破壊し、崩れ落ちたところへ裏拳にて頭を破砕する。
そしてその死骸を弾き飛ばし、次の標的の視界を遮って死角を生み出している。
円運動の足捌きからの流れるような攻防一体の技術により、着実な敵戦力の減衰に努めている。
新種の魔物を足場に飛び上がり、囲まれそうになってもたちまち抜け出す。
そうして敵の包囲から抜け出すと、脆弱な孤立した敵から戦力を削り取っていく。
新種の体を破壊しても勢い余って、細い木の幹を鯖折りするほどの剛撃だ。
その身体能力も凄まじいものがある。
素人目からしても対多数戦闘に、やけに慣れているように感じる。
しなやかな褐色の太腿を可動域いっぱいに広げ、無駄のない立ち回りで複数敵へと絶え間なく連撃を繰り出している。
俺たちはこのような共同作業で、敵を倒しているという事だ。
彼女に被害が集中しないように敵の気を引くために、俺は牽制に努める。
もちろん余裕があれば攻撃魔法を用いて、己の手で倒していく。
ついにルッコラが半分近くの敵を、独力同然で殲滅する。
彼女は新種の死骸の間で、ふわりと地面に降り立った。
兵士たちも感嘆の息を漏らしている。
しかし彼女の他者を寄せ付けない雰囲気と、兵たちの獣人への隔意から話しかけようとはしない様子だ。
「…………すごい!!!!!すごいねルッコラたん♡偉い子だね♡でも一つイケないことがあるよ……?俺のことはご主人様って呼ばないとダメじゃないか!?ほかの人間と区別がつかないでしょ?…………あっ!そうか!!!呼び方が嫌ならダーリン♡とかでもいいんだよ♡♡♡」
「何をやっている。さっさと次の敵を教えろ。ここで死にたいの?」
「……………向かうから来るよぉ……」
「…………」
俺は興奮しながら彼女の成果を褒める。
煽てているわけではない。
本当に期待以上の戦果をあげてくれた。
ここで褒めれば兵士たちも彼女を受け入れてくれるかもしれないことを期待し、大声で大げさな程に褒めたのだ。
しかしルッコラたんは冷たく俺をあしらい、俺の魔法を放った方向へと駆けていく。
少し時間をかけたが、先ほどと同じように殲滅する。
もうある程度は要領を得たから、倒すのにも手慣れてきたな。
遠くで叔父上が檄を飛ばし、部隊をまとめ上げて退却行動を進めようとしている。
彼らと合流しに行こう。
戦闘の影響で、俺たちは散り散りになってしまっている。
ルッコラを伴い向かおうとすると、彼女は事務的に一言声をかけてきた。
「…………もう終わり?」
「はぁ……そうだよ……はぁ…………」
「なら早く移動しろ。遊んでいる暇はない」
「…………わかったって。あっちに行くぞ……」
俺は肩を落とし、とぼとぼと歩みだす。
ルッコラはそれに着いてくる。
しかし俺の歩みが遅いからか、この獣人の女の子は俺の横に並び少し前へと進み出ながら、小声で不機嫌そうだが礼を言う。
尻尾を揺らめかせながら、顔を俺から背けている。
俺はそれに振り子のように首を向け、視線を囚われる。
「…………………お前の……アルタイルの力がなければやられていた…………そこだけは感謝する……」
る…………ルッコラたん……?
今、ルッコラたんが俺の名前を…………?
グフ……グフフフフ……グフフフフフフフフフ…………
ルッコラ……たぁん……♡
戦いで荒んだ心に、ルッコラたんの温もりが滲み渡るよぉ……♡
俺はラブリー♡にゃんこ♡ルッコラたん♡♡♡の傍に駆け寄り、甘い声で囁いた。
聞いてぇ……僕の愛の言葉ぁ……感じてぇ……僕の好きって気持ちぃ……
「ルッコラたん……♡初めて俺の名前を呼んでくれた……♡ほかの男の名前なんて呼ばないのに♡それはぁ……俺が特別だって証だよねぇ…………♡」
「…………っ」
その瞬間ルッコラたんのお顔は苦虫を100匹くらい嚙み潰したような、凄まじい表情に歪んだ。
そしてより早足となって俺から離れていく。
ま~たやってるよ。
でも仕方ないか。怖い人間への甘え方を知らないんだろう。
出会った時からこれで2回も助けてあげたんだから、俺に惚れてるに決まってるけど。
だって『なれば?小説』でも見たもん。
獣人奴隷は助けてくれたご主人様と、絶対確定ラブラブランデブーになるんだって♡
だからこれは運命なんだもん♪
今のこの状態も、ツンデレの凍てついた心を攻略する醍醐味でもあるよな。
それにきっと今は戦闘中だから、俺に気を使ってくれてるんだね♡
旦那の無事を気にしてくれているんだね♡
帰ったら思いっきりラブラブしようね♡
…………だからぁ……ルッコラたんはぁ……ずっと僕のもの……なんだからねぇ…………?
「――――――――――キモいっ!速く行くっ……!」
「は~~~い♡」
いつにもなく高い声でぴしゃりと告げると、ルッコラたんは歩調をさらに速める。
ついに俺も小走りになった。
恋人たちの追いかけっこみたい♡
わるい猫ちゃん捕まえた♡
「――――――ルッコラ!?敵だ!!!『arena』!!!」
「――――――!?」
最早慣れつつある異常な気配を感知すると、俺は反射的に叫んだ。
これで一体、第何波になる?
敵が見えないのもあって、無尽蔵とも思える物量だ。
せっかくのルッコラとのイイ感じの雰囲気を邪魔しやがって……
しかしこれは……だめだ。
周りの兵士たちでは対応しきれない数だ。
叔父上の集合がかかって、そちらへ既に兵たちが向かっていることが仇となった。
先ほども思ったように、兵士たちもまばらになっている。
出遅れたのもあって、防戦一方だ。
ここで確信した。
やはりこいつらは脅威となる俺を付け狙っている……!
ここまで状況証拠がそろえば、こう判断するしかない。
先ほどの敵たちは、まさか囮……?
俺たちは敵を倒して油断していたところを、突かれたのか……!?
隠しておきたかったが、やむなくアイテムボックスから土嚢代わりに、土石を次々と繰り出す。
だが全方位にそれをやってもキリがない。
すぐさま多勢に無勢のルッコラも敵に拘束され、出現させた土石も敵は躱して俺は回り込まれる。
とにかく数が多すぎる。
ついに敵の攻撃が俺に届かんとする。
走馬灯のように、これまでのことが脳裏を駆け巡る。
ここまでの能力と知能を持った新種。
その脅威をようやく理解した。
だが、もう遅いのかもしれない。
まずい…………間に合わない――――――――――
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