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第112話 「翻弄されるアルコル軍」


 彼は譫言のように、そう呟いた。

 血を吐くように後悔を口にする。




「透明の敵が複数いることは予想していましたが、10体以上に襲われました。相手は生物なのですから、繁殖するのだから、当然でした……迂闊……」



「話をすぐに聞きたいところだが、まずは治療だ。アルタイル。頼む」



「はい叔父上!『Curatio vulneris』!『Curatio vulneris』!『Redi ad originale』!」



 ダーヴィトたちへと魔法陣が降りると、その傷口を塞いでいく。

 ものの数十秒もかからず、完治させることができた。

 ダーヴィトは俺へと素早く礼を言うと、よろめきながらも立ち上がり体の調子を確かめている。


 みんな一息ついたようだ。

 疲労もかなりのものがあったようだった。

 こんな寡兵で、綱渡りのような窮地の中をよくやってくれた。




 それでも事態は終わっていない。

 誰もが緊張を緩めず、情報交換といく。




「ヤン。どう見る?」



「想像以上の敵数だ……単独犯ではないかもしれない、とは想定していたけどよぉ……これほどの能力を持っている複数敵による犯行とは、誰も想像できんだろ。厄介な手合いだ……」



「敵はどこにいるかもわからない。乱戦も同然ということか……」



「ダーヴィトですら、多数の攻撃は捌けない。これじゃあ俺らも動きようがなかった」





 ここでの最大の脅威はなんといっても、どこからどれだけの攻撃が飛んでくるかわからないこと。

 ヤンが対応に困るのも無理はない。


 彼らは各個撃破を避けるため、密集陣形をとっていた。

 そのおかげか、想定していたよりも生き残りは多かった。

 嬉しい誤算ではある。


 しかし俺が来なければジリ貧だっただろう。

 やたらめったら魔法兵はあらぬ場所へと魔法を今も打ち続けて牽制しているが、巧妙に隠蔽された敵影を捉えられていない。




 そして魔力がなくなれば、それも終わりなのだ。

 もうすでに肩で息をして、顔が青ざめてふらついている魔法使いが散見される。

 魔力欠乏の典型的症状だ。既に枯渇が近いのだろう。


 もしこれ以上時間をかけていたら、決死の突撃でもかけて玉砕必至だったかもしれない。

 急いで来てよかった。咄嗟の判断が命取り。これが戦場であった。






「――――――――――がぁッッッッッ!?」






 そんな時に異常が発生する。

 突如、魔法使いを守っていた兵士の肩から血飛沫が舞い、地を赤で染めて倒れこんだ。


 これが……敵の攻撃…………!

 それを初めて見たアルビレオ叔父上と俺の部隊所属の兵士たちが、恐慌状態に陥り右往左往する。




「何処だっ!奴はいったいどこから襲撃を!?」


「なんだ!?何の襲撃か!?まるで何も見えないぞ!?!?!?」


「やっぱり……死神なんだぁ……!」


 奇襲的に攻撃を受けたことで、動揺がほぼ全員に広まった。

 戦闘の初動を完全に機先を制されてしまった。

 迷信深いこの世界の住人だからこそ、超自然的な事象からの混乱は激しい。


 敵はどのように行動を秘匿していたのだろうか。

 そんなことが、ぐるぐると脳内を巡る。

 俺もひどく混乱しているのかもしれない。


 意図せぬ事態とはいえ、心臓が止まりそうになる。

 間近に迫る見えない脅威が、恐怖を殊更に募らせる。

 何か行動しなければと、即座に回復魔法で傷を負った兵士を治療する。






「こんな時……リヒターが生きていれば……」




 その時、俺の背の後ろから誰かが呟く。

 弱音を吐くのも無理はないが、今はやめてほしかった。


 ヤンが小さく舌打ちをする。

 叔父上も今初めて苦み走った表情を、顔に一瞬出した。


 確かに俺もリヒターがいれば、ダーヴィトの代わりに、いやそれ以上にうまく部隊をまとめられたのにと思う。

 だがもう終わったことだ。

 死人が生きていたらと仮定しても、まるで戦場では無意味である。




 こんな時の頼みのダーヴィトも、血を流し過ぎたからか消耗が激しいようだ。

 まだ戦闘に至れる様子ではない。


 声をあげることも辛そうである。

 二人がかりで兵士たちが、彼に肩を貸している。

 ほかにもそんな状態の兵士たちが一部見える。


 戦闘不能者を多数引き連れての撤退か。

 なかなかハードな任務だと自嘲する。






「――――――――――狼狽えるなっ!!!!!」






 そんな折、アルビレオ叔父上の雷でも落ちたかのような一喝が、兵士たちを震わせ正気を取り戻させる。

 自然体に構える俺の叔父は、毅然として切れ味鋭い叱咤をした。


 視線はまっすぐ敵がいる方向へと見据え、眉ひとつ動かさない。

 敵の情報を少しでも看破できればと、撤退の糸口を見つけようとしようとしているのかもしれない。

 こんな時も冷静に、逆境から脱するための方策を練っているのだろう。






「予想していた範疇の最悪だ!!!これより陣地へと撤退し、地形利用による防御から、火力による逆襲を実施して敵の攻撃を破砕する!退却行動においては主導権を奪われないように、常に先手を取り続けて敵を振り回せ!!!」



「っは……ハッッッ!」



「了解しました!!!」



「そうだな。アルビレオの言う通り、すぐに行動すっぞ」



 そう。叔父上は父上の弟。似ている兄弟だ。

 父上は血縁だからと、親族を部隊長にするような人じゃない。

 この人は優秀な前線指揮官であるからこそ、その地位に就いているのだ。


 ヤンもそれに乗じて兵たちの意識を、行動にのみ集中させようと同意する。

 俺も頑張って首をコクコクと縦に振った。




 みんなもそれに同意したようだ。

 職業軍人としての気概を取り戻し、即時即応できる空気を纏う。


 その時、風と共に異音が聞こえてきた。

 まずいことではない。吉報だ。






『――――――――――聞こえるか?ダーヴィト?ヤン?アルビレオ?いずれか応答せよ。こちらアルフェッカ。応答せよ』



『兄上!!!アルビレオです!ダーヴィトたちと合流し、敵と交戦中です!ただ今は硬直状態ですが、予断を許しません!』



『了解した。簡潔に指示を出す。各員よく聞いてくれ』



 アルコル家当主アルフェッカの声だ。

 俺の父の声に、誰もが歓喜している。

 それほどに彼を頼りにしているのだろう。


 誰もが敵に警戒しながら、無言で父上の言葉に聞き入る。

 叔父上たちも安堵した様子だ。

 気持ちは俺も一緒なので、よくわかる。






『アルタイル。おまえには魔法騎兵の護衛の下で、あらゆる地点へと、あらゆる角度から機動魔法攻撃してほしい。私が予測した仮想敵の来襲方向と、私が目標設定した地点へと魔法を放つんだ。簡単な地理は報告により把握している。私の指示に従いなさい』



『はいっ!!!!!』



 まずは俺への指示。

 これなら俺でも理解できる。


 それにしても地理条件から、敵の出方をある程度絞れるのか。

 意味不明なほどに頭のキレる人だと感心する。




『あくまで推測、確証はないが…………木々を遮蔽物として敵は隠れることで、的を絞らせてくれないだろう。いかにアルタイルの魔法といえど、ここで殲滅できるほどの火力を連続して放てるとは思えない。飽和攻撃を受ければ、致命的な隙を晒すことになるだろう。よってまずはできる限り多角的に敵を浮かび上がらせ、効率的に戦闘できるように仕向けないとならない。先ほど教えてあげた例の魔法を駆使して、それを行ってくれ』



 その通りだ。木を吹き飛ばすことなど造作もないが、高位魔法を連射するには、クールタイムが必要だ。

 その間に一発でも俺が攻撃を食らえば、その時点で作戦は破綻する。


 見えない敵からの攻撃に翻弄され、攻撃できなくなっては本末転倒だ。

 常にイニシアチブをとるために、小回りの利く魔法で敵を翻弄しなければならない。

 そう。先ほど父上と使った、砂魔法を使用してだ。






『アルタイルには負担を特に強いることになるが、敵からの攻撃が激しくなることが予想される部隊側面から背面に、順を追って進出してほしい。魔法兵部隊は警戒網を突破し、追撃に来たりくる敵へと、適宜火力支援を迅速に頼む。ほかの兵はその護衛、あるいは魔道具罠の使用に全力をあげろ』



 魔力が無限で火力も高い俺が主力となり、臨機応変に対応するのが当然だろう。

 敵の勢いをくじくための魔法兵の支援もある。

 護衛もつくので滅多なことにはならないだろうが……


 だが、この作戦に不満はない。

 こうすることで部隊の損害が減り、俺が死ぬリスクも結果的に減るのでこれ以上は望むべくもないだろう。


 俺としては文句なしだ。後は実行するだけだろう。

 後はできることを、しっかりこなすことだけを考えていればよい。




『アルタイルは誰かの騎馬に同乗させてくれ。私の息子を頼む』


『承知しました。それではお前に任せる』


「はっ! 謹んでお受けいたします!」


 アルビレオ叔父上に指名された騎士は、うっすらと冷や汗まで搔きながら返答した。

 すごい剣幕だ。


 アルコル家嫡男。英雄である俺を預かる重圧に、慄いているのだろう。

 緊張するだろうが、大事な任なので頑張ってほしい。






『遺憾ながら、敵は極めて狡猾で、我らの消耗を虎視眈々と狙っている。奴らは遮蔽物を利用して、その姿を隠している。また何らかの方法での輪郭や陰影の抹消、あるいは光沢の除去という二重の隠蔽という姑息な手段を用いて我々を欺き、損害を強いている。この卑劣なるカモフラージュを暴き立てねば、我らに勝利はない』


 我が父親は名門アルコル家当主の貫禄をもって、この戦場の采配を振るう。

 彼の言葉で気づいたが、思えば敵は影すら浮かんでいない。

 いったいどのような論理で、物体に必ず付随する影まで隠しているのだろうか?


 疑問は尽きない。

 だが父上にわからなければ、俺にもわからないだろう。

 ひとまずそれは思考の隅に置いておく。




 この演説を聞いて、みんなの目に強い力が宿る。

 覚悟が決まったようだ。


 父上は最後に自信に満ちた言葉で、演説を締める。

 その結びの一言で、その場にいる誰もの心を掴んだ。

 成功への確信に気づき、気合が漲る。






「しかし、我々は決して……敗北することはない。この作戦を遂行すればその正体を見破ることができ、戦場の趨勢は我らに完全に傾く。諸君、心して任務に当たれ」











 先日に引き続き、2022.06.25 日間異世界転生/転移ランキング ファンタジー部門で279位を獲得しました。


 以前と同様に、活動報告に画像載せてあります。


 温かく応援してくださった皆様に、深く御礼申し上げます。




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 『間が悪いオッサン、追放されまくる。外れ職業自宅警備員とバカにされたが、魔法で自宅を建てて最強に。僕を信じて着いてきてくれた彼女たちのおかげで成功者へ。僕を追放したやつらは皆ヒドイ目に遭いました。』

追放物の弱点を完全補完した、連続主人公追放テンプレ成り上がり系です。
 完結保証&毎日投稿の200話30万字。 2023年10月24日、第2章終了40話まで連続投稿します。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに現れる敵!大変な状況になりましたが、アルフェッカお父上はやはり頼もしいですね。彼は本当に優秀な戦略家です。 敵の動きを予測できるのは並大抵ではないですし、作戦も最善とおもわれます…
[良い点] 今章は良い緊張感が続いていて、読んでる私も手に汗握る思いです。 兵士たちの恐怖と、毅然としたアルフェッカ(特に声だけというのが緊張感を煽ってますね。)、自分は切り札ではあるが経験値の低さも…
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