第11話 「侯爵家アルコル家の誕生会」
アルコル家は建国以来より続く、由緒正しい侯爵家である。
なんでも星の神の直系子孫であるらしい。
つまり俺は侯爵家嫡男である。
てっきり病弱なせいで家督継承から外れるかと思ったが、そんなことはなかった。
今となっては、そこまで貧弱ではないしな。
それに魔法を使えることがバレたのも理由だろう。
母上が生きていた頃まで細心の注意を払ってまで隠していたが、父が大喜びで俺の魔法を見たいと言って来たので正直徒労感があった。
まぁ迫害される懸念が杞憂に終わってよかった。
そんなわけで俺は、家中では嫡男として扱われている。
つまり俺はエビフライ食べ放題の家に、生まれたという事だ。
今日は俺の誕生日会。
内々にパーティーをして、家中の者たちが祝ってくれている。
祖父母も来ていた。
お爺様は食事をして、家中の者たちに一回り声をかけると。
年齢を理由にそこそこの時間で退出した。
めっちゃ苦手だし助かった。
あからさまに皆もホッとしたような雰囲気だし。
フォーマルな空気が一気に砕けたものになった。
俺への祝いの挨拶も子どもであるからか早々に終わり、俺は家族で食事を楽しんでいる。
いつもより高級なエビフライを貪り食らっている。
毎日エビフライ食べ放題やぞ羨ましかろう?
「アルタイル。エビフライ美味しいかい?」
「おいしいです!」
「そうかそうか~~~!!!沢山お食べ!!!」
ご機嫌な父アルフェッカが、俺のエビフライを食べている姿を眺めている。
母上が亡くなってから父上はどうにも過保護だ。
魔法が発達し冷凍技術がそれなりに進んでいるといっても、領地が海に面していないアルコル領では海産物はそれなりに高級品である。
侯爵家の収入からいえば微々たるものだろうが、さすがに毎日食べられるだなんてどうかと思う。
平民は祭りの時くらいしか、食べられないと聞くし。
まぁいいか。
俺がエビフライ食えりゃ、どうでもええわ。
「いっぱい食べれたね~~~!!!!!」
「はい!」
父上は俺が食べ終わると俺の脇を抱えて高い高いする。
そして頬擦りしてきた。
もう中身合わせると20超えてるからきっつい。
幼児ロールしないといけないジレンマよ。トホホ……
「父上! 僕もやってください!」
「いいとも! それ~~~~~!!!」
弟のアルデバランが、父上に高い高いをせがむ。
父上は甘えられて嬉しいのか肩車をしている。
よくやったぞ弟よ。
俺の身代わりになってくれて礼をいう。
同腹の弟のアルデバランはとても素直な奴だ。
年齢不相応に礼儀正しいし、俺に魔法をせがんでくる可愛い奴。
父上もゲロ甘である。
そして……腹違いの妹が俺の家族にはいる。
俺の継母であるギーゼラの娘カレンデュラだ。
アルデバランよりも少し先に生まれたらしい。
側室いたんか父上と驚いたものだが、政略結婚らしい。
貴族では当然のことであるというが、そんな話聞いたことなかったからな。
まぁガキに話すことでもないが。
継母とは関わりが薄い。
継母というのも対外的にそうなっているだけで、父上が側室を増やしたがらないから苦肉の策でそう決まったとのことだ。
父上とお爺様がいつも大声で口論している者だから耳に入ってしまった。
継母であるギーゼラとも父上はあまり仲が良くないようだ。
子供もカレンデュラ一人だけだしな。
ギーゼラは俺ともビジネスライクな関係だ。
お互いに深入りはしない。
アルデバランは毎度のようにすげなく軽く躱されているのだが、それでもかまわず話しかけている。
アイツスゲーよ。
将来は大物になるわ。
骨の髄から陽キャだよ。
「どうされました? お兄様?」
「……あぁ何でもない。考え事をしてた」
茶髪青目のカレンデュラのお義母上譲りの整った顔立ちを見ながら、物思いに耽っていたからか。
彼女が俺に話しかけてきた。
いかんいかんぼーっとしてた。
「そうでしたか。ご気分が優れないのかと心配しました」
「大丈夫だ。心配させて悪かったな」
「いえお気になさらず。それなら安心しました」
この卒のない受け答えよ。
こいつマジで幼児か? 転生者なんか?
こんなガキ見たことないわ。
芸能界の子役みたいな隙のなさを感じる。
なんかこいつといると、いつも観察されているような気がするんだよ。
心の底を覗かれているみたいな気持ちになる。
父上やお爺様の氷みたいな薄い目の色にそっくりで。
俺も同じ色の目だけど母上そっくりの顔だから、印象がまるで違うと思うんだよ。
嫌な奴じゃないし、むしろ気遣いできてアルデバランと一緒に俺を慕ってくれるんだけど。
こういうところがちょっと苦手なんだよな~
「やぁアルタイル。改めて誕生日おめでとう」
「叔父上! ありがとうございます」
この眼鏡をかけた父上に似た怜悧な顔立ちの優男は、父上の年の離れた弟。
俺の叔父であるアルビレオだ。
国境地帯にいつもは詰めており、軍人兼外交官みたいな仕事をしていて、多忙なため屋敷にはあまりいない。
母上が亡くなった頃は父上や俺たち兄弟の面倒を見るために、忙しいにもかかわらず面倒を見てくれたんだよな。
頭が上がらんわ。
「叔父上! 久しぶりに魔物との戦いのお話を聞かせてください!」
「ははは。アルタイルは戦いの話が好きだね。構わないよ」
「ありがとうございます!」
魔物の話を聞ける貴重な機会だ。
会える時にいろんな情報を仕入れておかなければ。
家の中でもすることがあんまないんだよ。
話を聞くのは貴重な娯楽でもあるのだ。
「アルビレオ様。戦の話なら俺にもお話させてくださいや」
色褪せて白髪に近い銀髪に、大きな髭を蓄えたアルコル家武官長のダーヴィト。
この類稀なる大男はなんとサルビアの父親である。
髪の色以外、全然似てない。
この屈強な大男は歴戦の猛者であり、お爺様の代から華々しい戦歴を誇っている。
まだ初老といった年であり、本人も全く衰えを見せない。
俺の代でも世話になるだろう。
「ダーヴィトの話も聞きたい!」
「これはこれは!嬉しいですな! どれ酒やツマミになるものを取ってきましょうか……坊ちゃんは何か食べたいものは?」
「エビフライ!」
「わかりやした……おい! マックス! ツマミと酒を頼む!」
「はい! 了解っす!」
ダーヴィトは執事見習いのマックスを呼びつけると、酒やツマミを持ってこさせる。
俺はエビフライを食らいながら、叔父上とダーヴィトの話を横で聞く。
だが話をするといっても、主賓である俺に気を使ったのか。
俺への称賛に話はすぐ移ってしまった。
「――――ってなわけでアルビレオ様の指揮と魔法あって勝利した訳です! 坊ちゃんも魔法の大天才でらっしゃるようで! 将来が楽しみですな! ガハハ!!!」
「うん。アルタイルの回復魔法があれば、戦術もさらに広がるだろう。助かる兵もどっと増える。君の才能にはアルコル家全体が期待しているよ」
「へへっ!!! そんなこともないこともないですがねっ!!! これからも叔父上みたいになれるよう精進しますよっ!!!」
いやーーー!!! 照れるね―――――!!!!!
過剰によいしょされるのは少し申し訳ないねーーーーー!
まぁ俺ってば天才児だし?
特に何をしたという自覚がなくても、周りに称賛されちゃうところあるし?
かーーーーーっっっ!!! すまんの!
天才過ぎてっっっごめんねーーーーーー☆
「そうらぁーーーーー!!! アルタイルはぁ……すごいんらぞぉ~~~!」
父上がべろんべろんに酔っぱらって、こちらによって来る。
うわっ! 酒くさっ!!!
「いや~楽しいパーティーだね~~~いつもパーティーがこんなに楽しければいいんだけどなぁ~~~……………そうだ!!! もうパーティーは全部アルビレオに任せて、子どもたちだけとパーティーする~~~」
いや無理だろ。
この酔っぱらいは世迷言を吐きながら俺に頬ずりする。
それを聞いていた叔父上は、心外だとばかりに反論した。
「ふざけないでいただきたい兄上!!! お忘れですか!? 私が兄上が外に行きたがらない分、名代として外交業務を行っていたことを!!!」
「うん。おかげ様で子供たちといっぱい遊べたよ~感謝してるよ~~~」
「ふざけるな兄上!!!」
いつも穏やかな叔父上は、珍しく声を荒げて怒りを露わにする。
父上はヘラヘラと笑いながら、浴びるように酒を飲んでいる。
叔父上はそれが癪に障ったのか、くどくどと父上に不満をぶちまけた。
「兄上がいつもいつもそんな調子だから!!! 私がめんどくさい貴族の相手を、一手に引き受ける羽目になってるんですよ!!!!!」
「ア~ルビ~レオ~~~本当はやりたくないみたいなツンデレは~~~NG! 」
「ふざけるな兄上!!! ほんまこいつつっかえ……酒おいてとっとと消えな!」
叔父上が額に青筋立ててからの空き瓶を、父上に投げつけるが、
父上はひらりと躱し、更に叔父上の怒りのボルテージは上がっていく。
「儂もうこのくだり聞くの100回は超えてるんだけど……」
ダーヴィトが呆れたように呟く。
昔からあるのか~~~この茶番。
「ア~ルビ~レオ~~~我慢は体に毒な~んだ!」
「うるせーーーよ!!!!!!!!!!」
ついに叔父上は堪忍袋の緒が切れ、暴言を吐く。
父上は笑いながら叔父上に酒を注いでやり、グラスを手渡す。
叔父上はそれを奪い取るように手に取り、飲み干すと殻になったグラスを父上に突き出す。
彼はそれを再び満たした。
「この世の終わりみたいな宴」
「もはやどう着地するのかわからんですなぁ……」
ダーヴィトは俺の言葉に同意するように疲れ切った様子で頷く。
なぜかその背中は小さく見えた。
苦労してそう。
「大体兄上は――――――!」
「あ、もうこんな時間か~子どもたちはもう寝なさい」
叔父上が酔っているせいか赤らんだ顔で、くどくどと父上に説教じみた口調で不満を述べようとしたが。
父上は窓の外の暗くなった空を見上げて、俺に就寝を命じる。
叔父上めっちゃ舌打ちしてるんですけど……怖っ!!!
アルデバランを見ると、お婆様の膝の上ですやすやと寝ていた。
カレンデュラも眠そうにしているが、しっかりとお婆様と談笑していた。
だが父上の一声で、ギーゼラ御義母上と退出するようだ。
俺も眠いし寝るか~
もう俺にとって特になりそうなことはなさそうだし、巻き込まれたら敵わない。
父上は酒瓶とグラスをダーヴィトに手渡し、俺を部屋の外に連れていった。
アルコル家当主の彼は周囲に声をかけ、女性陣なども退室した。
男性陣はこれから飲み直すとのことだ。
俺は飲めないし失礼させていただこうか。
叔父上とダーヴィトに挨拶して席を辞した――――
「ん……? 何だこの書き置きは……?」
何時の間にかアルフェッカに酒と共に手渡されていた紙に書いてある内容を、ダーヴィトは見た。
彼に向かって酒瓶を片手にした赤ら顔のアルビレオが、ぶつぶつと呟きながら近づいていくが気づいていない。
『だーう゛ぃとへ
わたしもこどもだったきがします。あるびれおのぐちをきくの、がんばってね
あるふぇっかより 』
「アルフェッカ様――――――!!!!!!!!!!」
ダーヴィトの号哭は天を衝く。
上司に逆らえない部下の悲哀がそこにはあった。
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