第108話 「やる気満々エルフ」
なんで戦争前からこんなに疲弊しなきゃなんねーんだ!
しかも戦いの要である、英雄のこの俺が!?
それをどこ吹く風とチューベローズが邪魔くさそうに、ルッコラをここではないところに送り付けろと俺に指図してくる。
そして偶に俺のケツを揉みしだきながら、レイシスト丸出しの減らず口をたたく。
『おい。そんないつ裏切るかもわからん、負け犬最劣等種族を傍に置くなど、頭が悪すぎて理解が及ばんぞ。カス人間ごときに服従する畜生の中の畜生何ぞ、糞の役にも立たんわ。獣臭いその雌をとっととどっかにやれ。臭くてかなわん』
「……………」
『おい。この私のありがたい言葉にとっとと答えろ劣等』
『いいか?ルッコラたんは俺の護衛なんだ。どっか行ったら意味をなさないだろうが?』
口汚いスラングを並べ立て、隣を歩くルッコラたんを侮辱する最低の女。
仮にも俺の奴隷であるのに、度し難い傲慢である。
俺は心底苛つくこのエルフの戯言を聞き流し、従順に媚び諂う姿を妄想し、なんとか耐える事が出来た。
だがしつこく食い下がるこいつに、仕方なくも否定するために口を開いてやる。
言葉が汚すぎて、ネコミミロリ奴隷メイドのルッコラたんのキャワイイお耳に聞かせられないよ。
お下品に育ってしまう。
彼女がエルフ語がわからなくて不幸中の幸いだよ。
『ハッ!この私を誰だと思っている?貴様ら全員皆殺しにするのなんぞ訳ないんだよ雑魚が』
『あのなぁ……俺は今何者かもわからない敵と戦って、それ以前に何もわからないから探してんの?どう考えても人手があった方が対策しやすいだろうが?』
『むしろまだ推測できていないことが驚きだ。頭が悪い生物は大変だな。至高存在エルフ様とは能力の次元が違い過ぎて、哀れみすら覚える。一つだけ助言してやるとするなら、ここですぐさま死んだ方が、苦しみが少ないんじゃないのか?』
こいつは余裕綽々といった様子で、いつもの差別主義者としての言葉を出して鼻で笑う。
確かにこいつはエルフの例に違わず魔法の名手だが、とてもこの事態をこいつ一人に任せることなんぞできるわけがない。
その口ぶりから、敵の予想もついているのか?
しかし聞いても教えてくれないだろうしと、せめてもの反論をした。
『なんか上から目線でいろいろ言ってるけど、でもお前奴隷の首輪外せてないじゃん』
『……………………』
エルフはその瞬間、壮絶な表情で歯ぎしりをすると、充血した目を見開いて屈辱に肩を震わせている。
なんか怒っちゃったみたい(笑)ざまぁねぇぜ。
しかし猛烈な殺気が俺を襲い、思わず立ちすくんでしまう。
それを浴びせかけられたことから、全身が総毛だつ。
禍々しいオーラを立ち昇らせたエルフは俺の両頬を鷲掴みすると、猛烈な勢いで引き伸ばしたり圧縮したりを繰り返して狂気を振り撒く。
しなやかで流麗な肢体。それも薄い生地のエロ衣装で着飾った極上の雌肉が間近に迫るが、それに手を伸ばす心の余裕などない。
『言わせておけば随分と調子に乗ってるね♡二度と舐めた口きけないように、隷属の印を矮小な体に刻んであげるね♡』
『ひぃぃ………さっきの完全に追い詰められてるセリフじゃん……それにすぐ手が出るやつは知能が低い証だぞぉ……暴力反対ぃ…………』
そう言った瞬間、握りしめた手を震わせながらひっこめた。
こいつの顔を見上げると、その頬がヒクついている。
先ほど小バカにした時の、知能が低いというワードに反応したようだ。
これはこいつの弱みなのだろう。
目ざとく弱点を見つけた俺は、それを利用して意趣返ししてやろうと内心ほくそ笑む。
『ほんとに面白れぇぞぉ……おまえぇ……つまらん挑発をたたけなくなるように、ゴミとしての自覚をもたせないといけないなぁ?」
『その時死ぬのはお前ですぅ~~~驚異的馬鹿がぁ~~~スカスカの頭捻って気づいてくれよ。自らを過剰に特別視する辺りが、人間にそっくりだってことをよ』
『euiwcwのtwcうwpwいpex!?!?!?!?!?」
俺の煽りを聞いたチューベローズは発狂した。
情緒不安定となり、意味をなさない絶叫をがなり立てる。
意図せずして、こいつの度肝を抜いてしまったようだ。
日頃の自分を高く置いた言動が悪いから、そうなる。
自業自得とはこのことだ。
『恨み言より前に言うべきことがあるだろ?オラ!ご主人様に参りましたはどうした?勘弁してくれよな。奴隷は賢い方が都合が悪いが、その浅はかさは驚愕の一言。品性もサルなら、性欲もサルで、知性もサル。まぁエルフの里では、サル山の大将だったみたいだったようだが。すごいすごい。三冠王だ。おまえの勝ちでいいよ』
『ハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!』
極悪人染みた笑い声。
いや大罪人なので当然だが、汚物のような醜悪な笑みでそれを発した。
凄まじい怨念が噴出し、身の毛もよだつ剣幕で狂乱するエルフ。
俺はそれにため息をついて、呆れかえる。
そしてこいつの欠点を自覚させるため、具体的事例を挙げてやる。
「……ったく生き恥晒して、俺のおかげで生を繋げたくせに図に乗る奴は言うことが違う。俺はそこまでの厚顔無恥にはなれないぜ。とどのつまりは過去の積み重ねが、何よりの愚かさの証拠ってことか。傑作だな」
『ギリギリギリギリギリィ…………!』
額から湯気が出て、歯軋りをしながら壮絶な表情で固まってしまった。
額の血管が破裂して、若草色の髪を紅に染め上げる。
全存在にとっての悲劇だが、類稀なる美貌をこのようなキチガイクリーチャーが持ってしまったのだ。
せめてそんな精神をマシなものへと改めさせるために、今後の方針を指示してやった。
「聞くところによるとお前、敵に負けて捕まったみたいだな?それで服従の首輪をつけるというクソ無様晒した後に、これ以上の体たらくを重ねて笑わせてくれるなよ?今度こそはきちんと最低限の仕事をこなしてほしいね。それすらできないとなると、情けない役立たずという証明になるから?エルフの面汚しとして、長い余生を過ごすこと確定だから。そんな憐憫を誘うチューベローズにも、汚名返上の機会を与えてやってもいいんだぞ?俺の役に立つという至上の栄誉を、慈悲深くもくれてやろう」
「やってやろうじゃねぇかよクソがーーーーーー!!!!!!!!!!」
神秘的な美貌を汚い罵倒で台無しにする、この生物学上エルフ。
美の妖精とも称されるその怜悧な造形も、鬼の姿が幻視されるほどに歪ませている。
こいつを都合のいいように仕向けるのも、プライドをくすぐってやれば余裕だな。
うまく焚き付けて、やる気出してくれて何よりだ。
ホンマ涙なしには語れん話だわぁ。
「それじゃ今回の任務に全力で協力してね♡別に失敗してもいいけど、同じような失敗を二回くらうとかそれは馬鹿の頂点でしょ。チューベローズちゃんはそうじゃないことを願っているからね♪」
チューベローズは無表情となり、ぴたりと静止した。
壊れたオルゴールのようにぶつぶつと独り言を呟く彼女を尻目に、前方へと向き直る。
不愉快の象徴ともいえる女をやり込めて清々とするが、奴隷の管理というものもなかなか大変だ。
こんな反抗的で、過大評価を己に行うどうしようもない存在は手のつけようもない。
そんな奴も何とか使おうとしてしまうのが慈しみ深くもあり、俺の唯一の悪いところってところかな(笑)
これに懲りたら、こいつも知性ある存在として進むべき道へと軌道修正してくれるかもしれない。
やれやれ。奴隷の人格まで矯正してやるなんて、慈悲深い主だよアルタイル・アルコルという男は。やれやれ。
そんな救われない存在であるこの女も、巡り会わせがよかったのか俺という救世主に会えてよかったんじゃないか。
天の配剤というやつは、何とも奇妙な縁を繋いでくれるものだな。
まぁ俺くらいの神話的英雄にしか、こいつを救済できないだろうからな。
初めてこの耳長を丸め込んでやったので、喜び勇んで進行方向を眺める。
先刻、俺が作成した塹壕が見えてきた。
ようやく到着か。
父上の言っていた指示を行い、計画なんかも立てなくちゃな。
「――――――――――!」
その瞬間、隣にいるチューベローズが、俯いていた頭を勢いよく上げた。
再起動したその切れ長の目は、前方のある一点を見つめている。
ルッコラもその耳と尻尾を揺らめかせて、警戒態勢をとった。
身構えたという事は、変事があったということか?
俺は訝し気にそれを見て、その視線の先を辿ると、ある変化を発見した。
視覚でも影を認められた。気配察知スキルでも確証を得た。
魔法騎兵。
数騎だけ猛烈な速度でこちらへと向かってくる。
そして俺たちの部隊の最前方にたどり着いて停止すると、その鬼気迫る表情が見えた。
「なんだ…………?」
前方で騎乗する叔父上もそれに気づいたのか、怪訝な表情でそれを見ている。
そして部下へと指示を出そうとしたが、その必要はなかった。
耳を覆うような大声。
魔法の影響で、俺たちの後方までにその報告が響き渡った。
漠然とした、いやな予感が心の大部分を占める。
なぜならば普段はそのようなことはありえない。
まずその舞台の前方を任された騎士へと連絡し、部隊長へと取り次いでもらう。
そうでなければ敵に発見される危険性が高まるし、部隊長への不敬でもある。
すなわち、緊急報告という事――――――――――
『――――――――――伝令!!!!!ただ今、偵察に向かった魔法騎兵部隊が交戦中!!!武官長が重傷を負い、部隊崩壊の危機にあり!!!!!』
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