第103話 「不気味な道途」
「『terra』『terra』『terra』『terra』『terra』――――――――――」
「うん。そのまま続けてくれ。ありがとうアルタイル。疲れはないかい?」
「全然平気です!」
「すごい魔力だ。流石!!!!!偉い!!!!!凄い!!!!!」
「アハ!!!!!!!!!!!」
俺が今何をしているのかというと、父上の指示の下で移動しながらの塹壕の建設だ。
乗っている荷車の両側から数mほどの土が抉り取られ、どんどんその手前へと堆積していく。
無尽蔵ともいえるこの魔力量を、有効活用しない手はない。
移動中こそが最も奇襲されやすく、損害を受けやすいタイミングであるのだ。
俺たちがいる軍隊首脳部付近しか魔法は適用できないが、それでもあるとないとの差では雲泥の差だろう。
それにこれは後々の戦術の布石でもある。
「この子も魔力切れを起こしているのを見たことがないな……どんな魔力をしているのやら」
「頼もしいことですぞ!!!この方こそアルコル家の希望そのものよ!!!」
父上は俺の回復魔法、それも再生魔法を何十何百と使ううちに、甘ったるく崩れた笑顔から次第に引き攣った笑みに変わっていったのは記憶に新しいことだ。
叔父上も俺の魔力量に感服しており、ダーヴィトも声を張り上げて俺の力を喧伝している。
それはある意図が潜んでいるからだろう。
「くそっ…………気味が悪い……」
「魔物なら、切り殺してやるってのに……なんなんだよ」
「亡霊の仕業だって話だぜ……」
「狼狽えるな。為すべきことを為すまでのこと」
「…………」
鬱蒼と生い茂る森の中にある道を黙々と行進をするも、小声だが騒然としている兵士たち。
この不気味な森林も、彼らの心理を圧迫しているのだろう。
もう既に敵地であるし、ストレスも嵩んでいるに違いない。
当初それらの声は俺の魔法を称えるものだったが、いつしか途絶え変質していた。
彼らもある程度の噂は聞き及んでいるようで、思わしくない情態だ。
大多数の兵士は黙っているが、作戦に悲観的かつ懐疑的な空気が色濃く醸し出されている。
指揮官の落ち着いた一喝により、愚痴っていた一部が全員黙りこくった。
しかしそれは嵐の前の静けさを暗喩しているようで、澱んだ空気が改善されているようには見えない。
それぞれが無言のままに考え込んだことで、悪い予想を助長しているようにも見える。
怪しい雲行き。
アルコル軍特有の烈火のごとき戦意にも陰りが見える。
彼らの最大の特徴ともいえる戦場での勢いが、衰えてしまっては本作戦の成功の望みはないかもしれない。
ダーヴィトが先ほど大声で俺の頼もしさを示したことは、このいやな徴候を払うためだったのだろう。
「兵たちの動揺が激しいな」
「あんな死にざまです。無理もない」
件の騎士たちの無残な死は、ここに影を落とす
目ざとくそれを見定めた、この軍の責任者アルフェッカ。
ダーヴィトの静かな返答に、俺の父は馬に揺られながら対策を練っているのだろう。
悲観的な見方を払底せねば、戦闘時に差し障りかねない。
作戦目的の成立を疑問視する声がここまで大きいとなると、厭戦気運が伝搬しかねないのだ。
まずいな。ここで負ければ、次のチャンスはないかもしれない。
俺だったら、負け戦なんぞに行きたくないもん。
魔将の時もそうだった。
父上はあのトロルを魔将だと規定しなければ、王国全体の戦意が揺らぎかねない。
そう言及したことについての真意を、今この時まじまじと実感した。
ここまでくれば後に引けないのだと、危険が身近に迫ってから身に染みて思う。
戦場は甘くない。楽観は許されない。
「こう浮足立っていては、指揮に差し障る。余裕を見せつける必要があるな」
部下たちの心を引き締める弁論のため、父上は少しばかり声色を高くした。
咳ばらいを一つすると顎を上げて背筋を正し、声の通りをよくしてから改まって発声する
行軍の中で暇を持て余した兵士たちは、耳を傾ける。
この軍隊を統率するその男は注目が集まっているにもかかわらず、一切動じずに思わせぶりな態度で手の内を明かす。
「今以てしても確かに敵は見えない。しかし、そう分の悪いことにはならないだろう」
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