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第102話 「キララウス山脈にて」


 アルコル領の国境線に位置する連峰。

 人類世界と、魔王世界を二つに別つ巨大な山脈。キララウス山脈。


 この峻険かつ天高くそびえる山々は複数の国家にかけて横たわり、一度侵入すれば生命を阻む自然が立ち現れる。

 当然その先は未確認地帯であり、過去に捜索が度々試みられるも、そのほとんどが徒労に終わったとされる。




 しかしこの山脈付近でいくつか、生命体が往来を可能とする箇所がある。

 その一つが人類文明の最前線の一つを担う土地であるアルコル領。

 そこの最東端に、その谷は存在した。


 アルコル家は防衛拠点として、物資集積所をここまで伸ばしていた。

 人類を魔物から防衛するために、ここを無視することはできないからだ。


 最近これを達成できたのも魔将を倒した俺ことアルタイル・アルコルによる、快進撃の成果のためである。

 そこを後方拠点として、補給線を周辺部へと着々と広げていた。

 





 その谷を背にした、見開きのいい小高い丘。

 そこでアルコル軍は陣取る。

 万全の布陣ではあるが今回の軍事目的を達成するために、改めて父上はその意を周知させる。






「今回の作戦目標は、敵情視察である――――――――――」






 鎧姿の騎士たちが整列し、報告書と作戦資料を交互に眺める父上に向いている。

 完全武装で待機しているが、常に周辺を警戒しつつ戦闘へと移行できる体勢をとっている。


 その最前には武官長のダーヴィトが大剣を収めた鞘を地面に置き、その柄を両手で握りしめて静かに直立する。




 以下が今話した父上の指令だ。

 いつどのような襲撃をされるかが不明である。

 それ故に、まず常在戦場の心構えでいることが、参戦する俺たち全員に通達された。


 天気は晴天。優位地形は確保。

 敵戦力、編成、装備、戦法、戦闘経過、不明。

 それらの情報が伝わるにつれ、陣構えの中に暗雲が垂れ込めはじめる。

 不明という言葉が増えていくにつれ、不安が募る。


 俺の気配察知スキルで異常な気配は今のところは見受けられないが、この世界には魔法という存在がある。

 安易に攻撃がないなどと考え、油断などしていられない。

 そんなバカげたことをして、死んでたまるか。






 俺の傍らには戦装束に身を固めたルッコラが控え、父上を値踏みするように見つめている。

 その面持ちは固く、表情筋がいつもよりも少しばかり動いていない。


 これが彼女の初陣でもある。

 鉄火場に出たのは初めてなのかはわからないが、この見たこともないような大軍に気圧されないように努めている様子だ。

 普段より増して無言を貫いている。






「部隊を分ける」




 そんな中で一際異彩を放つのが、足を崩して片手に本を携えたチューベローズ。

 こいつは自信に突き刺さる視線を暖簾に腕押しとばかりに完全無視し、自分の世界に入り込んでいる。


 このクソエルフはペラリとページをめくり続け、数人の騎士がそれを睨みつけるが全く意に介していない。

 父上も彼女の扱いには困っている様子で、俺の護衛をするという事だけを俺自身に命じさせ、 彼女は痛烈な罵りを俺に浴びせながらも渋々ついてきたという経緯であった。


 本当にわがまま放題で困る。

 いったいどんな育ち方をすれば、こんな人格が生まれるのか。

 高潔な俺は呆れるばかりだ。




 それはともかく父上は筋道だてて、部隊配置についての段取りを述べる。

 このような難局にも関わらず、当意即妙な指示に舌を巻く。




「まず私とシュルーダーの部隊。次にダーヴィトとヤンの部隊。最後にアルタイルとアルビレオの部隊。どの部隊も風魔法通信を可能とする者を入れている。私が下す命に基づき、接敵時には各々の判断で対応をせよ」




 すでに父上の指示で俺たち魔法兵が、簡易陣地をこの丘を中心にして構えている。

 風魔法技能者たちがそれぞれの部隊に均等に配され、距離的にある程度限定されるが綿密な連携を可能としている。


 俺は風魔法の名手である叔父上と共に、後詰めとして控えることとなる。

 相手はどこから来るかわからないが、いちばん逃げやすい配置にしてくれたのだろう。




 見知った顔ぶれが命を受けた後、見たこともない峻厳たる顔つきで頷く。

 俺もこの一員だ。

 神経が昂り、自然と姿勢と表情が引き締まる。






「――――――――――これより敵地に入る。諸君らの武運を祈る」




「「「「「「「「「「「ハッ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」






 高らかなる一斉の返答で、空気が振るえる。

 これより被害者の騎士たちが発見された事件現場付近へと、行軍することになる。


 一糸乱れぬ隊列が展開され兵馬が地面を踏み鳴らす音が、地響きのように聞こえてくる。

 かつてないほどの盤石の体制で挑むこととなるが、結末はいずれか。




 全戦列が前進していき、ついに俺たちも歩を進めることとなる。

 途中で父上たちとは別れることとなるが、それまでは一緒だ。


 行進する軍勢を見据え、俺の馬。

 それの引いた馬車の上に乗りながら、進んでいった。


 俺の隣で足を組んで仰向けに寝そべるチューベローズ。

 少し揺れる荷台の上で、様々な意味で憂鬱となる。

 乗馬するのはまだ難しかった。










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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔物たちの動向を探るアル様達。 謎らだけのこんな状況でもアルコルパパの指揮は的確でカリスマを感じます(*'▽') でもあんな事件があった現場に行くのは嫌すぎますね……。騎士たちの緊張と…
[良い点] 何が出てくるか楽しみですね。
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