羨ましい
物心ついたころにはお父さんもお母さんもいなかった。
覚えているのは、
「あなたは私が育てます。任せてください、私は優秀ですから。」という言葉だった。
初めて顔を合わせたとき、無機質な声でそう言われ、幼いながらに少し恐怖感を覚えた。
「そう怖がらないで、私が今日から君のお母さんです。」
そう言いながら僕の頭を撫でた手の感触を僕は忘れはしないだろう。
言葉では何と言っていても心で考えていることはわからない。本当は僕のことなんて育てたくないのではないか、だから僕は勉強も運動も全力で頑張った。少しでもお母さんに迷惑をかけないように。
だけどいつもクラスではいつも一番ドベだった。テストの点数が一番悪かった時、徒競走で一番後ろを走った時、いつも僕は泣きながら家に帰った。
玄関のドアを開けるといつもお母さんは私を出迎えてくれた。赤い目を擦りながらお母さんに駆け寄ると、いつも抱きしめてくれた。
「気にしなくていいのよ、あなたはあなただから。替えの利かない世界で一人だけのあなたなのよ。」
そう言いながら僕の頭を撫でるお母さんの手が大好きだった。
僕はクラスのみんなが羨ましい。勉強だって運動だってなんでも出来るのだ。クラスで出来ないのは僕一人。
「みんなが羨ましいよ。」
僕がそう言うとクラスのみんなは言う。
「僕たちだって君が羨ましいよ。」
いつも思うのだ。なんで僕なんかのことが羨ましいのだろうか。
何もしなくてもあと数十年で死んでしまう僕のことが。
みんなはあと数百年生きることが出来るじゃないか。
ただ僕はみんなのなんでも出来るその身体が、お母さんと同じ固い手が、羨ましい。
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