ポチのダンジョン
「それにしても魔力の濃いダンジョンだな」
「そうですね。なんだか背中の辺りがむずむずします」
「はうぅ。毛先がパチパチするよぉ」
「なつかしい、感じ」
リジナ、リライザ、エナ。
三人それぞれの感想だ。
三人は元はモンスター。
魔力の濃い空間でまたモンスター化、なんてことになる可能性もないではなかったが、どうやら大丈夫そうだ。
一応確認してみる。
「エナ、この魔力の濃さだ。体に問題が出たりはしないのか?」
「へいき。モンスターがモンスターとして生まれたとき、魔力の影響で成長の方向性が、きまる。でも、一度生まれてしまえば、追加の魔力を浴びても、別のモンスターに変わることは、ない」
つまり人間化したみんなも、二度とモンスターには変わらないということだ。
「でも……」
とエナは続けた。
「体に変化はないけど、力は強くなる、かも。ポチが暴れてるのも、きっとそのせい」
エナのペットのポチ君に悪い影響があるというなら、いっそ【吸魔】でダンジョンごと無力化してしまおうか?
いや、それはまずいか。
ダンジョン内は本来のスペースに入らないほどの広大な空間を持っている。トラップの数々は言うに及ばず、壁や天井も魔力で支えられているようなところがある。
そんな自然法則を無視したダンジョンを【吸魔】してしまったら、どうなるか分からない。
エナやリジナやリライザは防御系のスキルで守ってやることは可能だが、ダンジョンの奥にいるであろうポチはただでは済むまい。
エナはペットのポチを気にかけていたようだしな。
「モンスターが出ないな」
普通、これだけダンジョンの魔力が濃ければ、モンスターが生息しているものだが。
まあ中にはトラップだけのダンジョンというのもあるが、かなり珍しい。
このダンジョンにはトラップはあってもモンスターはいないのだ。
「ポチのダンジョン、モンスター出ない。そういう風に、作った」
なるほど。
魔王はダンジョンを作り出すことができる。それは俺のスキル欄に【ダンジョン生成】があるので分かる。
元々エナがペットを飼うための場所だ。
他のモンスターが居座るのをよしとしなかったのだろう。
そしてその弊害が、ダンジョン内に満ちるこの異常な魔力量というわけか。
モンスターを生み出さないダンジョンの、行き場を失った魔力。それが1000年間の間に溜まりに溜まり、充満しているのだ。
こんな魔力に長期間さらされ続けて、ポチとやらは大丈夫なのだろうか?
「ふむ」
ある可能性が脳裏をよぎる。
【ダンジョン生成】は、こんなにも魔力の集まる場所を作り出すことができる。
エナはモンスターが出ないように作ったとのことだが、逆にモンスターが出現するように作ることも可能なのではないだろうか。
となればだ。
作ったダンジョンに現れたモンスターを順次、【吸魔】で人間にしていく。
そうすれば、開拓地の人口を簡単に増やすことができるのではないだろうか?
いや、ダメだ。それだけは絶対にしない。
なぜなら俺は、神になどなるつもりはないからだ。
モンスターを【吸魔】するのは、あくまで彼らが人間になりたいという願いを持っているからだ。
モンスターとして生まれること自体は、彼らの本意ではないのだ。
「さて、そろそろか」
ダンジョンもだいぶ奥へと進んできた。
そろそろ最奥かもしれない。
「む、いるな」
【気配察知】スキルが俺に警告する。
この先に俺たち侵入者を待ち構える存在がいるのだ。
「くっ……」
「はわわわわわ」
リジナとリライザは殺気にあてられて、さっそくビビっている。
「ポチ……」
エナのつぶやきに反応したのかは分からない。
「ガオオオオオオオオッ!!」
モンスターの咆哮がダンジョンを震わせた。
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