狩人の美人姉妹リジナ、リライザ
巨大狼に連れて行かれた先。
そこは洞窟の入り口だった。
「む、この洞窟。……ダンジョンか?」
【吸魔】を得た今なら分かる。ここには濃密な魔力の気配が漂っている。
「ポチのダンジョン」
エナがつぶやいた。
「ポチのダンジョン?」
「昔、飼っていたペット。すっかり、忘れてた」
「ということはこの狼がポチ……ではなくその知り合い、ということか」
「違う。このグレイトウルフ、私の知らない子。たぶん、若い。ポチは、もっと昔の子」
元魔王の時間感覚だと、ひょっとしたら100年200年単位のことかもしれない。
「どのくらい昔の話だ?」
「勇者に4回、討伐されたから……たぶん1000年、くらい」
魔王は約200年単位で復活し、勇者に討伐されている。有名な話だ。
ポチ君がとても長生きだということは分かった。
次はこの狼だ。
エナと言えども、人間の体になってからはモンスターと会話することはできなくなっている。
この狼の通訳などはできないのだ。
【魔物統率】を持つ俺が話す必要がある。
どれ。
「グレイトウルフよ。そろそろ人間になってもいいのではないか? ここへ案内したかったのなら、目的は達したはずだ。これ以上の事情を説明するなら、人間の体のほうがいいだろう」
「グルルル……」
狼はのどを鳴らして俺の前に頭を垂れた。
今度こそよろしくということだ。
「【吸魔】」
フサフサ銀髪の美少女が現れた。
背中に弓矢を背負っている。
「人間にしていただきありがとうございます。私の名はリジナ。狩人です」
「うむ。お前が俺をここへ連れてきたのは、どんな理由があったからなんだ?」
「はい。実はこのダンジョンに、妹が迷い込んで、帰らなくなってしまいました。ですので、エドワード様に助けていただけないかと。エドワード様のことは、この前森で見かけていました」
つまりその妹もモンスターなのだろう。もちろん同じグレイトウルフだ。
ならば【吸魔】すれば彼女も仲間に加わってくれる可能性がある。
今は一人でも多くの人手が欲しい。俺は住民の勧誘に労は惜しまない。
「分かった。探してみよう」
リジナはパッと笑顔になった。鋭い顔つきだが、笑うとなかなか愛嬌がある。
「ありがとうございます!!」
薄暗かったダンジョン内は、俺が使った【光源】のスキルで照らされている。
【光源】は指定した対象に明かりを灯す冒険者の基本スキルだが、俺は【吸魔】を得るまでこんな簡単なスキルすら持っていなかった。
俺の使う【光源】はどんな冒険者が使う【光源】よりも周囲を明るく照らした。
【使い魔】のスキルで呼び出した一つ目のコウモリに、この【光源】を設置して前を照らさせている。
「エドワード様。迷いなく進んでおられますが、道が分かるのですか?」
「【追跡】のスキルを使っている。狼の足跡が奥へと続いている」
「なんと……」
リジナは口を開けて驚いていた。
ダンジョンは大抵、複雑な構造をしている。
道は無数に枝分かれし、部屋は不規則な大きさ、形で侵入者を惑わす。
このダンジョンもその例にもれないようだ。
「罠だ、気をつけろ。俺の後ろから離れないように」
「は、はい……」
【罠察知】のスキルが、視界の中の床を色分けして見せてくれる。
「こっちだ……いたぞ」
「グルルルル……」
部屋の壁際で体を伏せたグレイトウルフを発見した。
「リライザ!」
リジナは駆け寄ってその前足に抱き着くが、グレイトウルフは反応を示さない。
やはり、人間化したことで元のモンスターとすらコミュニケーションが取れなくなっているのだ。
巨大狼は背中に大きなケガをしていた。
血がべっとりと付いてにじんでいた。
なるほど、このケガでは動くことはできなかっただろう。
とりあえず俺はケガを治してやった。
「【究極回復】」
そして【吸魔】を使う。
人間となったリライザは、姉と感動の再開を果たした。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん! お姉ちゃああああぁぁぁん!」
「ああ、リライザ! よかった! 無事で! 本当によかった」
抱き合って泣く二人の姉妹。
リジナのほうはいかにも女狩人といった鋭さのある美人だが、妹のリライザは小さくて可愛い少女だった。髪をふたつお下げにしている。
あまり似ていない姉妹だが、髪の色だけがモンスターの頃と同じ銀髪だ。
「私を助けてくれてありがとうございます。私とお姉ちゃんを人間にしてくれて……えと、お名前は?」
「エドワードだ」
「エドワード様。本当にありがとうございます。こんな夢みたいなことがあるなんて。うぅぅ……」
涙ぐむリライザ。
女の子に泣かれるのは苦手だ。
こういう時は、意識を他のことへ誘導するのが効果的だ。
俺は気になっていたことを聞いてみた。
「質問がある。お前はなぜこんなダンジョンの奥まで迷い込んだんだ? それに背中のケガは? だいぶ深手だったようだが」
「それは……」
少し恥ずかしそうなリライザ。言いにくいことなのだろうか?
「リライザは前からこのダンジョンのことが気になっていたんです。私は注意していたんですけどね。モンスターのいないダンジョンは怪しい。きっとトラップが強烈なんだろうって」
なるほど。だいたい分かった。
「つまり、トラップにかかったんだな?」
「ううう、入ってすぐに迷っちゃって。あうう……まさか天井が落ちてくるとは思わなかったよぉ」
「狼型のモンスターだったんだから鼻が利くだろう?」
「最初にひっかかったトラップが鼻潰しだったの」
鼻潰し。ようするに強烈な臭いを発する、鼻を利かなくさせる類のトラップだ。
「ポチが出れないよう、そういうトラップもある」
エナ作のトラップだったか。
鼻潰しはいいとして吊り天井か。エナは結構容赦のない飼い主だったらしい。
「私も探しに入ろうかと思ったのですが。焦る気持ちをなんとかこらえて、エドワード様に望みを託すことにしました」
その判断は正解だろう。
同種のモンスターが帰って来れないダンジョンに、同じモンスターが探しに入っても、出て来れる可能性は低い。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
その時、ダンジョンが揺れた。
地震のようだった。
「ポチが暴れてる」
エナが俺を見て言った。心配そうな顔だった。
「よし、行くぞ」
俺たちはダンジョンの奥へと進んだ。
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