二名様ご招待
エミーリンから聞いた話だと、彼女が大聖女の地位を失うきっかけになった連続暗殺事件の首謀者として、最も怪しい男は大神官マグダスだという。
連続暗殺事件で最も利益を享受した者が犯人である可能性は高いというわけだ。
エミーリンが王都を去る時点でも、大神官が首謀者だというのは公然の秘密だったらしい。
ルシエンたちを刺客として送り込んだ結果エミーリンが死んだか生きているかはまだ不明なはずだが、将来的には大神官と事を構える可能性も考慮しておかなければならない。
なにしろエミーリンは生きているのだから。
まずは王都への転移門を開通させる。
我が城から普通に歩けば王都までは約1ヶ月の距離だから、一足飛びにというわけにはいかない。
俺には国の通常業務もある。移動に割ける時間は限られているのだ。
ということで一回で一つの町を進み、転移門を繋げる。
各町へのアクセスを確保しつつ、いずれは王都への転移門を確保しようと思う。
そうして地道に町から町へ転移門を設置して数日。
この日も俺は次の町へ向けて進んでいる途中だった。
「ん?」
俺の目の前を全身黒ずくめの男たちが10人、横切って行った。
その動きはよく訓練されていてほとんど音を立てない。
プロの暗殺者のような身のこなしだった。
草原の先は下りになっているのだろう。男たちはすぐに見えなくなった。
俺は胸騒ぎがして男たちの後を追った。
そしてなだらかな坂に出る。
その視界の先。
遠くに旅人の姿が見える。
女の子の二人組だ。
片方は黒髪短髪の16歳程度の少女だ。
線が細く、気弱な感じの見た目だ。
一見すると冒険者風。もしくは鎧を外した兵士か。
可愛い見た目に似合わない地味な服装である。
もう一人は14歳くらいの薄紫色の長い髪の少女。
白のゆったりとした服を着ている。
耳がとがっている。
エルフ種だ。
二人は男たちに気付いたのか、走り出した。
まさか、男たちはあの二人を追っていたか?
エルフの少女が転ぶ。起き上がろうとしない。気を失っているらしい。
黒髪少女はエルフ少女を背負って逃げようとしている。無茶だ。
俺はすぐに駆け出した。
少女は男たちに取り囲まれると、背負っていたエルフ少女を降ろした。
剣と盾を構えて声を張り上げる。
「誰! 私たちに何の用?」
男たちは黙って剣を抜いた。やる気だ。
俺は男たちの後ろから声をかけた。
「お前たち、少女を寄ってたかって囲んでそんな物騒な物を構えてどうするつもりだ?」
男たちが一斉に俺を振り向く。
「見たところ暗殺者のようだな。殺すつもりなのか?」
「目撃者だ! 殺せ!」
暗殺者の一人が叫ぶ。
ズバアアアァッ!
俺に襲いかかった暗殺者は首を斬り飛ばされて絶命。
ただの手刀だ。
「こ、こいつ……ただ者じゃないぞ」
「構わん、やれ!」
ズバアアアァァッ!
ドバアアアァァッ!
バシュゥゥゥッ!
襲いかかってきた全員を手刀で始末。
「くそっ! せめて大賢者だけでも――ぐはあっ!?」
最後の一人は倒れる少女に向かって飛び込んだが、当然逃がさない。
暗殺者たちはあっという間に沈黙した。
「あっ、あのっ!!」
黒髪少女が必死な表情で俺にすがりつく。
「助けてくれてありがとうございました! でもっ! ティリアちゃんが突然気を失って! 私、どうしていいのか分からなくて!」
「旅の疲労によるものだろうが、大丈夫だ。すぐに目を覚ますだろう」
疲労による気絶の類だろうが、エミーリンの時よりは症状が軽い。たぶん立ちくらみの延長線上のようなものだろう。
念のために【回復】はかけたがほとんど必要のない措置だろう。
「よかった……」
少女はほっと息を吐いて、それから言葉を続けた。
「私たち追われていて、それで町を避けて進んでいたんです。だからあまり休息も取れていなくて」
なるほど。
命を狙われているとなれば人目に付く町は危険だろう。
だから街道を離れて旅をしていたのか。
それでも暗殺者には気付かれたようだが。【追跡】か何かのスキルで足跡を辿られたのかもしれないな。
「む、その剣……聖剣か?」
「え? よくご存じですね。そうです。これは聖剣で、私は元上級騎士のルミナっていいます」
「俺はエドワード・クレイル・スターレイモンドだ。何やら事情がありそうだな。話を聞かせてくれるか?」
「はい、実は……」
俺はルミナから事情を詳しく聞いた。
「なるほど。聖剣泥棒として追放、か。じゃあこっちの少女は……」
その時、エルフ少女が目を覚ました。
「む、むう? ワシは気を失っておったのか。追手は!? ルミナは!?」
「大丈夫だよティリアちゃん。この人が助けてくれたの」
ルミナに言われてエルフ少女は周囲を見回す。暗殺者たちの死体が転がっていた。
「なるほどの。ということはお主はワシらの命の恩人じゃな。ワシはティリア・キエルリナと申す者」
エルフ族は美しく長命な亜人種族の代表格。
この年寄りっぽいしゃべり方も、ティリアが見た目通りの歳ではないからなのだろう。
「そういえば暗殺者たちは大賢者がどうとか言っていた気がするが、まさか……」
「うむ。ワシはそう呼ばれることもある」
俺もどこかで聞いたことがある。
アストラール王国に古くから仕え、国王に力を貸していた大賢者がいたと。
おとぎ話の類かと思っていたが、実在したのか。
「なぜ大賢者ともあろう者が、こんなところを少女二人で逃げ、暗殺者に命を狙われていたのだ」
今度はティリアから詳しい話を聞いた。
「そうか。お前も国を追放されたと。ということはルミナとティリアは、二人とも国から追われる身ということだな」
「そういうことじゃ。この場所ですら暗殺者はこの通り襲ってくる。国境付近はもっと多くの連中に固められておるじゃろうな。しかしまさかこの短期間で2度も刺客を送り込まれるとは。大神官め、面と向かって批判されたことがよほど腹に据えかねたと見える。それで、ワシらは魔の森の奥に出来たという国を目指しておる途中だったのじゃ。秘境の魔の森、それも新しくできた新興の国となれば身を隠すのにちょうどいいじゃろう?」
その新興の国というのは俺の国のことだ。
「分かった。ではその魔の森の国、スターレイモンド王国へお前たちを案内するとしよう」
ぽかんとした顔で俺を見る少女二人。
「俺はスターレイモンド王国の――初代国王だ」
「えっ、えええええええええっ!?」
「なあああああああああああっ!?」
二人の絶叫が重なった。
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