人材の登用、逃亡商人ビクシャ
アバトが執務室に入ってきた。
「国王様、人間の商人が来ています。国王様に面会を求めています」
「よし、会おう。謁見の間に向かう」
いつかは来るだろうとは思っていたが、とうとうか。
「いえ、捕えていますので地下牢へお越しください」
「地下牢? なぜだ。我が国は別に人間世界との接触を禁止しているわけではない。隊商の護衛には警戒するようにと言ってあるが、それは悪意を持った盗賊や山賊に限る。客人ならば正式に出迎えねばなるまい。相手がたとえば大きな商会であったりしたら当然、謁見の間で迎えたほうがいいだろう」
「なんと言いますか……どうやら隊商に泣きついて無理矢理ついてきたようなのですよ。そして道中食料を勝手に盗んで食べたとか。でも本人は盗人ではなく商人だと言い張っているらしいのです。隊商の者たちは国王様の判断を仰ぎたいと」
なにやらおかしな事情がありそうだ。
まあそれならば俺が確認してやらねばなるまい。
「分かった。行こう」
俺は地下牢へと向かった。
じめじめした石階段を下りてゆくと、すぐに大きな泣き声が聞こえてきた。
「うええええぇぇぇぇーーーーん! ごめんなさあああぁぁぁーーい! お腹が減ってたんだよぉぉーーっ! 干し肉一つでぶち込むなんてあんまりだあああぁぁーーー! 助けてえええぇぇーーっ! お腹減ったよぉぉーーっ!」
「お前が干し肉泥棒か?」
少女は一瞬泣き止んで真顔になり、俺を見た。
小柄ですばしっこそうな少女だ。ロングの茶髪を二つ結いにしている。
盗賊にしては荒んだ雰囲気はない。
そしてすぐにまた騒ぎ出した。
「おおおっ! だずげでぐだざい!! ここから出して!!」
ガシャガシャガシャ!!
牢の鉄枠を揺すって暴れている。
まずは落ち着いてもらわねば話もできそうにない。
「腹が減っていると言っていたな。ほら」
【調理】スキルで出したリンゴを渡した。
ムシャムシャムシャムシャ! バリバリバリバリ!!
あっという間に食べ終わる。
「ありがとう、心優しきお方。こんなおいしいリンゴ、生まれて初めて食べました。あなた様は何もないところからリンゴを出したように見えましたが、それはもしや神の御業? であるならあなた様は神だ。そんな神のようなお方であれば、きっともうひとつのリンゴを恵んでくださるに違いない。この哀れな商人めに」
にっこり笑うその顔は明るく元気で、少しの陰もない。
とても可愛らしい笑顔だった。
別に困りはしないので3つほどリンゴを与えてから自己紹介をした。
「俺はエドワード・クレイル・スターレイモンド。この国、スターレイモンド王国の初代国王である」
「おおお、なんとぉぉっ! あなたがこのお城の王様でしたか! これは失礼を。私はビクシャ。商人をしております」
身振りや態度、しゃべり方等とにかく騒がしい少女だ。
騒がしいといえばドワーフ族もそうだったが、彼らとはまた別方向の陽気さを感じる。
なんというか、口が上手いのだ。
商人という自称は信じてもよさそうだ。
「商人がなぜ盗人として牢にぶち込まれたのだ」
「よくぞ聞いてくださいました。それは話せば長い話になるのですが。えっと、どこから話せばいいか……。そうだ! 『お前は今日をもって我が商会を追放する!』 って言われたところからにしましょう。あいつは太ったポイズントードみたいなやつで」
ビクシャが語った内容はこうだ。
彼女はとある大商会に所属していた商人だったが、仲間にハメられて莫大な借金を負わされ、鉱山の強制労働施設に送られるところだったらしい。
そして隙を見て逃げ出し、魔の森へ。そこで交易帰りの隊商たちを見つけたそうだ。
泣き落としで無理矢理くっついての道中、腹が空きすぎて干し肉を一個食べてしまったらしい。
「言えば分けてくれたと思うが」
「え!? そうなんですか!? いやこれは参った。腹が空きすぎて判断力が鈍ってしまったみたいです。つい目の前の肉にフラフラと手が伸びて……。本当に申し訳ございませんでした」
べたーっと這いつくばって謝罪するビクシャ。
まあそういうことならこの少女を責めるつもりはない。
肉一つで牢に放り込まれたんだ。反省は十分しただろう。
俺は彼女を解放することにした。
しかしビクシャは出ようとしない。
「どうした、なぜ牢から出ない?」
「国王エドワード様。私、決めました。不退転の決意でございます」
「急に改まってどうした?」
ビクシャは真剣な顔で床に這いつくばり、顔だけを上げて言った。
「この国はまだ出来て間もないとお見受けしますが」
「そうだが」
「私の他に外の商人は来ていない。どうですか?」
「それもその通りだ」
「どうぞこのビクシャを、召し抱えてはいただけませんでしょうかぁぁーーっ!! この願い叶わぬならば、牢から出していただかなくて結構! 一生をここで過ごし、朽ち果てる覚悟でございます!!」
外の商人を取り込めたのなら、それは大きな力となる。
俺は元々商売の世界とは縁がない人間だ。
これから人間世界と外交をして渡り合っていくならば、ぜひ御用商人などを召し抱えたいとは思っていた。
しかし目の前にいるのは大商会から莫大な借金を負い、干し肉一つを盗んで牢に入れられたような少女だ。
登用するだけの価値があるのだろうか。
いや、ここは賭けてみるべきだ。
石橋を叩いて国の運営が上手く行くならいいが、人に賭け人を信頼することも必要だ。
一人で国は造れない。それはみなと国を開拓してきた俺が一番よく分かっている。
ビクシャはじっと俺を見上げて目をそらさない。
強い意思を感じさせる目だった。
「分かった」
「本当ですか!」
パッと表情を明るくする少女。
「その前にまずお前の商人としての力を見せてもらいたい」
「お任せください!」
ビクシャはにっこりと笑って即答したのだった。
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