女司祭メルダ
城内の一室。
エミーリンと同じくやってきたもう一人の女性を寝かせていた部屋である。
「エドワード。こちらはメルダ。元はアストラールで司祭をしていた者です」
彼女はシスターではなく司祭だったか。
エミーリンもメルダも旅の目的が目的だ。目立たない格好にしていたのだろう。
「メルダです、国王様。大聖女様を助けていただき、ありがとうございました。本当になんとお礼を申し上げてよいのか。あの時はまるで、空より舞い降りた救いの天使を見た気持ちでした」
ぺこりと頭を下げるメルダ。
「メルダ、私はもう大聖女ではありませんよ。エドワードの妻になったのですから。でもあの時のエドワードは本当にそんな感じでした。いえ、もっと……神そのものといった様子でした。神々しすぎて気絶してしまいそうでしたもの」
「エミーリン、大聖女だった者がそんなことを言ってしまっていいのか?」
一個人を神などと言うのは、ルナスティーク教の教義に反する行為だろうに。
「私はもう一般人。幼い頃から大聖女候補だった私は、司祭の資格すらもっていませんから。だからただの一般人です。ルナスティーク教の教義は……多少なら神様もお目こぼししてくれると思います」
可愛らしく笑うエミーリンは、本当にただの少女のようだ。
今まで背負ってきた重すぎる肩書やら責任やらをすべて脱ぎ捨てた、これが彼女のありのままの姿なのだろう。
「これでエドワード、もっともっと幸せになる」
にこーっと笑うエナ。
エミーリンは慌てて口元を抑えた。
「エナ様!? いつの間に。ええと、私は3番目ですので、やっぱりエドワードを呼び捨てではまずいでしょうか?」
「なんだ、そんなことを気にしているのか。俺は妻たちには好きに呼ばせている。エミーリンもそうしたらいい」
「うんうん」
エナも笑顔でうなずく。
「エナ様……ありがとうございます。こんなあつかましい私に、そのような笑顔を向けていただいて」
やはりエナが最初の妻と聞いた後はこうなるか。
リムネもエナには頭が上がらないからな。
「では私も、エドワードと呼んでもいいですか?」
リムネだ。
「お前が呼びたいのならそうしたらいい」
しかしリムネは照れたように笑う。
「冗談です。私は今のままで。それにしても、まさかエドワード様のことをそんなに昔から愛していた人がいたとは」
「妬くか?」
「ええ、妬きます。私ももっと昔から、エドワード様を見ていたかったですもの」
言葉とは裏腹にリムネの笑顔はすっきりしている。
これなら大丈夫そうだ。
あとはエナだが、意外にもエナもエミーリンも、魔王と大聖女と知った後も、お互いわだかまりのようなものはなかった。
大聖女は魔王の生死を水晶球で占ったりと、魔王討伐の重要な役割を担っている。
だが本人としては、あくまで形式的なものだったので、魔王に対して恨みはないのだとか。
ルナスティーク教聖典の原典には、魔王は倒されてから200年で復活し、生死は水晶球で調べる、ということしか載っていないらしい。
実際に行われていることとは違って、魔王討伐すべしみたいな記述は実はないらしいのだ。
じゃあなぜ今魔王は討伐するべき存在とされているのかは、きちんと調べてみないと分からないだろう。
俺は当たり前だと思って、今まで深く考えてこなかったことだった。
「エミーリン、いい人。私は好き」
エナは本当に澄んだ笑顔で笑う。
エミーリンも何かを感じたのか、それ以上へりくだることなく笑った。
「はい。では、呼び方は今まで通りということで。……そしてエドワード、次はこのメルダのことです」
「ああ。ルナスティーク教の司祭だったか。王都で暮らしていたのだろう? メルダよ、やはり戻るのか?」
メルダは穏やかに微笑む。
「いえ、私はもう王都を捨てました。あの国の教会は……腐っています」
「お、おいメルダまで……」
教会批判は重罪だ。それが王都の司祭の口から飛び出すとは。
「それで、聞けばこの国の教会には、まだ正式な聖職者がいないとか。そこで大変厚かましいお願いなのですが、私をそこで働かせていただけないかと」
「それは構わないが……いいのか?」
まさに願ってもない申し出だ。
これで国民のみんなも、俺がニセ神父をせずともきちんとした神事を受けられるということだ。
「ええ。私はエミーリン様と同じく、ここに骨を埋める覚悟です」
「そうか……ありがとう、メルダよ。俺からもよろしく頼むぞ」
「なんとおやさしいお言葉。ああっ」
メルダの瞳からつつっと涙がこぼれ落ちる。
「私もエドワードの妻としての仕事のかたわらでよければ、手伝います」
「エミーリン様……」
「じゃあ最初のお仕事、頼んでいい?」
エナが聞いた。
「はい、何でございましょうエナ様?」
「結婚式。エドワードと、エミーリンの」
「もちろん。引き受けさせていただきます。よかったですねエミーリン様。念願かなって」
「ええ。ええ、メルダ。そしてありがとうございますエナ様。私、うれしいです。幸せです。私にこんな日が訪れるなんて……ああっ!」
俺はエナとリムネとも結婚式を挙げている。
ならもちろんエミーリンともそうしたい。
俺はエミーリンとも結婚式を挙げたのだった。
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