運命が重なる瞬間
我がスターレイモンド王国はさらに発展してゆく。
交易もさらに活発化している。そろそろ、この国の存在が人間たちに知られる頃合いだろう。
これだけの規模だ。隠そうとしても隠せるものではない。
そうなれば次は外交が必要になってくるだろう。
魔の森に侵入してくる人間もいるかもしれない。
万が一のために魔の森と人間界の境界付近に転移門を設置する。
そのために俺はこの日、隊商に混じって森の中を進んでいた。
「だいぶ歩きやすくなっているな」
人間界へのルートは木々が伐採され、簡単な道が通っていた。
通そうと思えば馬車を運用できるほどの広さがある。すれ違うのはまだ厳しいか。
だが場所によってはかなり広い空間となっている。たとえばここ、今俺たちがいる辺りだ。
「国王様、何も国王様自らこんな森歩きに参加されなくても……」
「いや、何事も学びになる。毎日城内の執務室でイスに座っていては、実際に重労働に携わる国民たちの苦労は見えないだろう」
「国王様っ……!」
「おお、なんとおやさしい……」
「俺たち、スターレイモンド王国の国民で本当によかったです」
「国王様のためならこの命、惜しくはありませんっ!」
「おいおい、なんで命云々の話になるのだ。俺は国民が王のために命を投げ捨てるような真似を許すつもりはないぞ」
「いえ、もちろんです。俺には妻も子供もいますからね」
この荷運びの男も最近、結婚をした。
国では次々と結ばれる夫婦が増え、子供も生まれていた。
別の荷運びが言った。
「俺も結婚を考えているんですよ」
「ほう、それはめでたいな」
「できれば国王様に神父様をやってもらいたいんですが……」
「ふむ、アバトと相談してスケジュールを調整しておくか」
俺の結婚式の神父役はもう国では定番になっていた。
とはいえ俺も忙しい身。結婚する彼らの全員を祝福してやれるわけではない。
だからこうして直接頼んできているのだろう。
神父か。俺の、見様見真似ではないちゃんとした聖職者でもいればいいのだが。
「それで、できれば子供の名前も……」
「おい、図々しいぞ!」
別の荷運びが怒った。
俺は彼を振り返ってなだめる。
「いや、いい。名付けを頼まれるのにももう慣れてしまった。俺のセンスでいいのなら、考えておく。難儀するようであれば妻たちとも相談させてもらうが」
「ありがとうございます!!」
やれやれ。
「国王様が俺たち国民に親身になってくれるのはうれしいですが、何も全員に気を配らなくてもいいんですよ? 国王様がお倒れになられたら、俺たち全員が悲しみます」
「そうですよ。国王様はもっとご自愛されるべきです。もっと贅沢をして、もっと仕事を俺らに丸投げし、もっとお休みになられるべきです」
「なんだ? そう聞くと俺にダメな王になって欲しいと言っているように聞こえるな」
「あっ! 言われてみればそうですね……すみません」
「まったくお前は、言葉を選べ言葉を。国王様に失礼だろ」
「はははは! まったくだ!」
周囲から笑い声が上がる。
と、その時だ。
「国王様、前方に誰かいます」
護衛の竜人の一言に、全員の間に緊張が走る。
竜人の竜眼は遠くを見通すことができる。
「何人だ?」
「2人ですね。走ってきます。人間です。どうしますか?」
人間か。
魔の森の来訪者としては建国以来初か?
「会おう」
「待ってください! まだ来ます……こっちは3人。前の2人を追っているようです!」
竜眼に何が見えているのか分からないが、追われているというのは穏やかじゃないな。
山賊か盗賊に追われて魔の森に逃げ込んだ、というのがありそうな線か。
だとしたら隊商の彼らは隠しておいたほうがいいな。狙われる可能性がある。
「お前たち、とりあえず森に隠れるんだ。俺だけで対応する」
ちょうどこの辺りは広いスペースがある。
迎え撃つならば最適だ。
「国王様、私も」
竜人が言うが、俺は首を振った。
「いや、お前はみなを守るのだ」
「ハッ!」
竜人は素直に返事をして荷運びたちと共に森へと隠れた。
そしてほどなくして、道の向こうから人影が現れた。
少女だ。あの顔には見覚えがある。
大聖女。
俺をルシエンのパーティーへと推薦し、地獄に落とした少女。
もう一人も女性。やはり教会のシスターのような格好だ。
「ああっ! お願いです! どうか私たちをお助けください!! 殺されるんです!!」
「えっ!? あああっ! あ、あなたは……エドワード!」
シスターと大聖女は突然現れた俺に驚いている様子。
しかしまずは追手の確認が先だ。
来た。顔を隠した3人だ。
真ん中の1人が言った。
「エドワード!! 生きていたのかっっ!!」
その声。
一度たりとも忘れたことはなかった。
俺に地獄のような日々を強いた張本人。
ルシエン。
どうやら大聖女を狙っていたのはルシエンのようだな。
「大聖女よ。お前には聞きたいことがある。だが話をするのは後だ。逃げるのだ」
聞きたいのは、なぜ俺をルシエンのパーティーへと推薦したのか、その理由だ。
それを聞かずしてルシエンのやつに殺させるわけにはいかない。
そのためにはまず彼女たちを逃がすのが先決だ。
相手がルシエンである以上、彼女たちが【光身剣】の射程に入っているのはまずい。
「でも私は……」
「いいから行くのだ。お前は、見たところ大聖女の部下のシスターのようだが」
「はい」
「主の命が狙われているのだ。引きずってでも、連れていけ」
シスターは決意の表情でうなずき、大聖女の腕を引っ張って走り出す。
大聖女は去り際、大きな声で叫んだ。
「エドワード!!」
俺は無視してルシエンに向き直った。
「ルシエンよ、なぜ大聖女の命を狙うのだ?」
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