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勇者サイド10、運命の交わる場所へ

 いつもの隠れ家の廃倉庫。

 俺、勇者ルシエンはゲールが現れるのを待っていた。


「私たち、これでやっと自由になれるのよね?」


 しかし、そう言うサナヤの表情は暗い。

 ラースも沈んだ顔だ。

 俺たちは最後の仕事を終え、ようやく自由の身になれる。


 犯罪者として国に追われる身ではあるが、まだ再起は可能なはずだ。

 だが二人の表情が暗い理由は分かる。


 俺だって感じている。

 言い知れぬ不安を。


 あのゲールとかいう男は底が知れない。


「そうだ。魔王だ。魔王を討伐しに行こう」


「えっ?」


「まさか……」


 サナヤとルシエンの目に希望の光が差す。

 どうしてそのことに今まで気づかなかったのだろう。

 王の命令など知ったことか。


 そもそももう俺たちは国から追われている身だ。

 なら国の方針など無視して勝手に魔王を倒してしまえばいい。


 俺たちは一度魔王を倒したと思った。確実に殺ったはずだった。

 しかし水晶球が示した結果は違っていた。


 本来ならば俺が魔王を斬った瞬間の光景が、水晶球に映し出されるはずだった。

 しかしそれは映らず、魔王の魔力を感知した水晶球は白く濁り続けていたのだ。


「魔王を倒す。今度こそ確実にだ。そうすれば王も俺たちを無視できないはずだ。小さな犯罪の一つや二つ、消し飛ぶだろう」


 俺たちが権力者の暗殺に加担していた事実は、まだバレてはいない……はずだ。

 なんとかなるに違いない。


「そうか! 魔王の生死を判定する水晶球は半年に一度しか使えない! だから俺たちはあのクソ王の命令でクソみたいな戦場に駆り出された。でももうその半年は過ぎている! いけるぞルシエン!」


 ラースが叫んだ。

 酒浸りだったラースが久々に見せたまともな顔だ。


「そうね! 魔王を倒した事実さえあれば、私たちは聖騎士になれる。太古から続く国の伝統を、国王だって曲げられないもの!」


「そういうことだ。なに、魔術師の大軍を相手にする人間同士の戦争とは違うんだ。肉壁(エドワード)がいなくたって簡単にやれるさ。俺には聖剣と、最強の【光身剣】がある」


 一対一の戦いにおいて俺様は最強だ。

 どんな相手だって簡単に倒せる。

 だからこそ、暗殺などというヤバい仕事を今までこなせてきたんだ。


 前回魔王と戦ったときは、俺のいつもの慎重癖で【光身剣】をギリギリまで温存した。エドワードを盾にして魔王の隙を作り、1秒2秒の時間を稼いだ。だが今度は最初から全力だ。


 魔王が魔法を使う前に一気に【光身剣】でカタをつける。

 そして魔王の首を胴から切り離し、持ち帰る。


 これでもう二度と水晶球はふざけた判断を下さないだろう。

 俺は聖騎士になれる。

 バラ色の未来が、待っている。


 ギィィィィ……。


 倉庫の扉が開いた。


「ヒッヒッヒッヒ。おやおや、今日はみな様、いいお顔をしておられる。何か良いことでもありましたかな?」


 ゲールだ。

 いつもと同じニヤニヤ笑いを浮かべている。


 何をとぼけたことを。

 お前から解放されるから喜んでいるに決まっているだろうが。


「ごたくはいい。最後の仕事は終わった。さあ、報酬を渡して消えろ。俺たちの前に二度と顔を見せないと誓え」


「その件は本当にお疲れ様でございました。今までつらい任務の数々、勇者様方の心境を思えばこのゲール、感涙が止まりませぬ」


「ごたくはいいと言ったはずだ」


 俺は聖剣のつばを鳴らす。

 しかしゲールは少しも臆した態度を見せない。

 今なら分かる。


 この男は俺たちの前に現れた最初からずっと、忠実な家臣のような態度を取りながら、俺たちのことをバカにしていたのだ。


「報酬はもちろんお渡しします。ですがその前に、最後の仕事のご依頼に参りました」


「は? 何を言っている? 仕事はもう終わったはずだ」


「そうよ! リングラッド司教ならきちんと殺してきたわ。ろくな護衛も連れていない、なんてことない仕事だったわ」


「ゲール、てめえ、ナメたこと抜かしてるとタダじゃおかねえぞ!」


 ラースも大斧の切っ先をゲールへと向けた。

 ゲールは少しも表情を変えなかった。


「ええ。ええ。お気持ちは分かります。ですが今度こそ本当に本当の最後のお仕事です。難易度もさらに下がります。リングラッド司教よりももっと、ずっと簡単に殺せる相手ですよ」


 聞くな。聞いてはダメだ。

 聞かずに斬って、逃げるんだ。


 悪魔のささやきから身を守る方法は、斬ってしまうか、目を閉じ耳をふさいで神に祈るしかないのだから。


 だが、俺たちは動けない。

 それほどまでに深く、このゲールに対する恐怖が体に刻み込まれてしまっていたのだ。


「ご安心ください。本当にたいしたお仕事ではないのです。これは言わば今まで私めにご協力いただいた勇者様方への慰労、餞別のようなもの。単純に私から勇者様へ贈る、感謝の証なのです」


 ゲールはニヤニヤ笑いながら話を続ける。

 俺たちは全員、この男の言葉に飲まれてしまっていた。


「最後のお仕事は国外です。報酬は前金で支払いましょう。あなた方はその金を持って、そのままどこぞへでも逃れるがよろしい。人目に付く心配もございません。なぜならそこは、魔の森だからでございます」


「ルシエン、聞いてた!?」


「おおっ!! ルシエン!!」


 二人が笑顔で俺を見る。

 分かってる。

 魔の森に向かう予定だった俺たちにとっては、まさに渡りに船。


 これ以上都合のいい話はない。

 こいつらがこんなに喜んでいるのは、そういうことだ。


 だが、ここで二つ返事でうなずいてしまうのはダメだ。

 このゲールという男は悪魔だ。


 詳しい条件を聞いて、本当に安全な内容なのかを確認する。

 喜ぶのはそれからでも遅くはない。


「ターゲットは、誰だ?」


「大聖女でございます」


 その瞬間、サナヤとラースの喜びは落胆に変わった。


「ああっ……」


「バカなっ……」


 俺だって同じだ。


「大聖女は殺せない。大聖女は数百数千の教会騎士たちに守られた重要人物だ。無理に決まってる」


「いえいえ。先ほどの私の言葉をお忘れですか? 簡単に殺せるのですよ。リングラッド司教よりもさらに少ない手勢、わずか数人で大聖女は魔の森を目指しているのです」


「そんなバカな話があるか」


「事実です。大聖女の一番の信奉者である女司祭が、護衛を集めていることから発覚いたしました。これは実に都合のいい話です。魔の森でならば、どんな犯罪も闇から闇。人目に触れることはございませんからね」


 ゲールは指を一本立てた。


「もう一つ重大な事実をお伝えするならば、先日、大聖女はその地位を退位しました。近々、正式な発表があるでしょう。今の彼女はもうルナスティーク教の大聖女ではございません。ただの人。単なる一般人なのですよ」


「大聖女が一般人……本当なの?」


「ウソだろ……」


「大聖女が魔の森に到着するのはおよそ1ヶ月後。追いついても決して町中で狙ってはいけません。魔の森まで追い、誰の目にも付かずに始末するのです。死体は確実に処理してください。痕跡は一切残してはいけません」


 サナヤとラースは驚きに目を見開く。

 俺は大きな思い違いをしていたことに気付く。


 俺はゲールをビシャール国の手先だと思っていた。

 だがこいつはウソつきだ。


 最初から何一つ本当のことなんて話しちゃいなかったんだ。


「ルナスティーク教会内部の事情をそこまで詳しく知っているとは。暗殺対象は貴族もいたが聖職者も多かった。つまりお前はビシャール国の手先ではなかったんだな」


「ヒッヒッヒッヒ。ご想像にお任せいたします。あなた方は今まで大変よく働いてくださりました。そのおかげで大聖女は地位を失い、国を離れることに。しかし我が主は慎重なお方。それだけではご安心なされません。むしろ、退位と同時に迅速に行動を起こした大聖女に警戒感を持っておられます。大聖女には何か策があるのかも。そう思っておられるのですよ」


 ゲールは両手を広げた。


「ですから逃げる大聖女を追い、魔の森にて確実に殺し、すべての心配事をきれいに片付けたいと思っておられるのです。これは簡単なお仕事ですが、大事なお仕事でもございます。さあ勇者様方、大聖女の息の根を止め、自由を手にされるがよい!!」


 ドチャッ。


 ゲールは革袋を放った。

 その口からあふれたのは大量の金貨。

 俺は革袋を乱暴に掴み取った。


「やるぞ、お前ら! 大聖女を殺し、魔王もぶっ殺す!」


「おおっ! 自由を我が手に!」


「ええ、やりましょう!」


 俺たちの栄光は目の前だ。

ここまで読んでくれてありがとうございます

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