部屋の修復、そして王になる
「ふむ、こんなものか」
俺は崩壊しかけているボロボロの城を【建築】で修復していた。
今直したのはエナの寝室だ。
ここは城で最も広く立派な寝室だった。
エナのような少女をいつまでもボロボロの部屋の中で寝かせるわけにはいかない。
それに今はこんな姿をしているが元は魔王だ。それなりの広さの部屋でなければいけない。
俺は一般用の小さな部屋で十分だ。
「すごく、いいお部屋」
俺と並んで部屋の入り口に立つエナもご満悦の様子。
「気に入ったか?」
「うん。エドワードの部屋なら、やっぱりこの部屋じゃないといけないと思っていたから」
「うん? 俺の部屋?」
「違うの?」
きょとんと、首を傾げるエナ。
「お前用に直したんだが」
エナはにっこり笑った。
「なら、いっしょに使えばいい」
「いや、しかしそれはだな……」
エナはじっと俺を見て言った。
「……ダメなの?」
不思議そうな顔をされてしまう。
「そういうことならそれでもいいが。でもいいのか?」
「そのほうがいい。だって私、エドワードのこと大好き、だから」
エナの望みなら仕方ないか。
俺はこの城に来たばかり。元魔王の考えは、ちゃんと立てておくべきだろう。
エナはこの美しさだが、俺が鉄の自制心を働かせれば特に問題は起きないはずだ。
我慢には……慣れている。
さて、まだMPには余裕があるな。
次はどこの部屋を修復しようか。
「あっ! 王様!」
恐ろしいほどの巨乳の、妖艶な雰囲気を持つ女性がやってきた。メイドの姿である。
元鎧甲冑姿のモンスターだったメイドとは別だ。
「王様? エナのことか?」
「何言ってるんですか、エドワード様のことです」
俺はエナを見た。
「エドワード、王様」
「この城の主人は魔王、つまりお前のことだろうエナ」
エナはぶんぶんと首を振る。
「私はもう魔王じゃ、ない。エドワード、王様。とっても似合ってる」
さて困った。
俺は王になるつもりなど、一切思ったことがなかった。
が、責任はある。
モンスターたちを人間にした、責任だ。
彼らは非力だ。スキルを奪ったのは俺だ。
ならば俺はその責任から逃れるつもりはない。
エナが魔王として背負っていた重い責務のいくらかを、王になることで肩代わりしてやることができるなら、それも必要な事なのかもしれないな。
なにより、エナ自身がそう望んでいる。
「分かった。俺は王になろう」
だがもちろん俺はエナを尊重することを忘れない。
エナの意見を無視するようなことは、極力避けようと思う。
エナは俺のことを恩人だと言うが、それなら俺にとってもエナは恩人なのだから。
エナのステータスを【吸魔】出来ていなかったら、俺は致死ダメージを受けて死んでいたのだ。
「んふー。エドワード、王様。かっこいい。ステキ」
エナは満足そうに、俺を見て笑った。
「ところで、俺に用があるのか?」
「そうです。お部屋のことです」
「部屋?」
「とにかく来てください」
俺はメイドに腕を引っ張られて、連れていかれることになった。
その部屋は、使用人部屋が集まる区画にあった。
このメイドの部屋もたしか、昨日修復したはずだ。
「お前の部屋なら、昨日直したはずだが」
「それです、私の部屋です」
「何か問題があるのか?」
「ええ、問題です。見てください、このベッド」
見れば彼女の部屋には、天蓋付きのベッドが置いてあった。
【建築】のイメージは自由なので、少々豪華にしてしまったことは認めるが。
たしかに巨大なベッドだが、部屋の広さは十分だ。特にスペースを圧迫しているというわけではない。
「それにこの床。壁も天井も、白すぎます」
大陸でも屈指とされる高級石材を使った内装をイメージしたのだが、まずかっただろうか。
「分かった。住人のお前の意見はできるかぎり聞き、検討しよう。ではどんな内装が望みなんだ?」
「まず床も、壁も、天井も、ピンクにしてください」
「ピンク?」
「それからベッドです。もっとこう、ピンクで丸く……ハート形がいいです。ハート形のベッドにしてください」
このメイドの言っている意味は理解できる。
つまり、娼館の寝室のような内装にしろということだ。
だが、あまりセンスがいいとは思えないし、他の部屋との整合性もとれないような気がする。
「ひとつ聞くが」
「なんですか?」
「お前は元はどんなモンスターだったんだ?」
「サキュバスです」
なるほど。
そういえば、いたような気がする。
「エナ、どう思う」
「部屋は、今のままで」
「というわけだ。我慢してくれ」
「そんなぁー……」
俺は城の修復を続けた。
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