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勇者サイド8、二度と取り返しのつかない夜

「よし、お前ら準備はいいか?」


「ええ、もちろん」


「ヒュー、でかい家だな。あくどい方法で集めた金を貯め込んでいそうだぜ」


 アストラール王国王都エインラールの郊外。

 比較的裕福な人間の住む緑豊かな場所である。


 俺、勇者ルシエンはゲールの指示の下、夜になってこの場所へとやってきた。

 俺たちは三人とも、顔に包帯のように布を巻きつけ、その上からフードを被っている。


「見張りがいるわね」


 サナヤは緊張した声。

 だが勇者である俺様は当然、落ち着いている。


「門の前に一人。聞いていた通りだ。裏から入れる」


 俺たちは屋敷の裏手へと回り、かぎ縄を使って壁をよじ登った。


 ガシャン!


 手近な窓をブチ破って建物の中へと侵入。


「暗殺対象はどこにいるのかしら?」


「それは聞いていない。だが偉そうなやつが居座るのは大抵上の階だ。だろ?」


 俺の言葉にラースも同意した。


「違いない」


 そのとき、廊下の向こうから人が現れた。

 使用人か。


「お、お前らっ! 何者だっ!」


「ちぃっ!」


 ラースの舌打ち。

 サナヤが魔法を放った。


「【火炎弾(ブレイズショット)】!」


 ゴバアアアアッ!


「ぎゃあああああっ!!」


 使用人は火だるまになって倒れた。


「まずいな。急ぐぞ!」


 俺たちは階段を駆け上がる。

 2階を無視して3階へ。


 広い屋敷だ。

 適当に部屋のドアをぶち破って探す。


 ドゴッ!


 ただの空き部屋だ。


 ドガッ!


 寝室。誰もいない。


「なんだ貴様らっ!!」


 廊下の奥の部屋から現れたのは戦士風の男。用心棒か。


「【火炎弾】!」


 サナヤの魔法が飛ぶ。

 が、用心棒は剣を振って炎を斬り裂いた。


「【裂空断】!」


 バシュウゥ!


「こいつ、炎を斬ったわ」


「やり手だ。気をつけろよ」


 俺がラースに前に出るよう促し、しかしラースは俺にこんなことを言ってきた。


「いや、ここはお前のスキルを……」


「ちっ」


 バカが、俺の言葉の意味が分からなかったのか?

 気をつけろ、というのはつまり、戦えという命令なのだ。


 俺は極力【光身剣】を温存したい。

 これは俺の切り札だ。

 1秒使うのだって貴重なんだ。


 が、仕方ない。

 ぐずぐずしていたら下の階からも増援が来るだろう。


 俺は【光身剣】を使った。

 世界が、止まる。


 その場の全員が人形のように固まって動かなくなる。

 俺は用心棒に飛び込み聖剣を振るった。


 ズバアアアアアッ!


 この間、2秒。

 用心棒は血しぶきを上げて死んだ。


「この部屋だ」


 用心棒が出てきた部屋だ。間違いあるまい。


 ドガッ!


 部屋を蹴破る。


「ひっ、ひいいいぃぃぃぃぃっ!! なんだお前らは!?」


 痩せた体の貴族の男。

 間違いない、こいつだ。


「お前がパラザクスだな。死んでもらう」


「ひいいいぃぃぃっ! 誰か! 誰かああああぁぁっ!! 助けてくれええええ! 私は死ねない! まだ死ぬわけにはいかぬ!! いったい何が目的なんだ? 金か?」


「黙れ悪党が!」


「悪党? 何を言っている? 私が何をしたというのだ! 物盗りではないのか? はっ、まさか――」


 ブシュウウウゥゥッ!!


 腰を抜かして醜く命乞いをする男に剣を突き刺し、殺した。

 その時だ。


 バタン!


 扉が開く。


「お父様! あああっ! なんてことっ! どうしてっ!?」


「チッ、娘か」


 貴族の娘は父親の死体にしがみついて泣きじゃくった。


「お父様お父様お父様ああぁぁぁぁーーーーっ! いやああぁぁーーーーっ!」


「どうするの?」


 サナヤが聞いてくる。


「俺たちは義賊だ。こいつは殺せない」


 死体にしがみついていた娘が顔を上げた。

 涙でぐしゃぐしゃになった顔で俺たちをにらむ。


「義賊ですって!? これは人殺しですわ! 凶悪犯罪者たちよ! この非道な行いには必ずや神の罰が下ります! 地獄に落ちなさい!!」


「縛れ」


「了解」


 ラースは手にした荒縄で娘を縛り上げる。


「ならず者! なぜお父様を! お父様は立派な――むぐぐ」


 娘にさるぐつわを噛ませて口をふさぐ。


「よし、任務完了だ」


 部屋の外から大勢の足音が聞こえてきた。


「お嬢様! どうされました! 今の悲鳴は!!」


「パラザクス卿! ご無事ですか!!」


 声が近づいてくる。


「部屋に入ってくるな! 娘の命が惜しければな!!」


 俺は大声を張り上げた。

 同時にドアの前に机を移動させ、開かないようにする。


「ロープを伝って脱出だ」


 こくりとうなずくサナヤとラース。

 俺たちは窓の外にロープを垂らして脱出した。


 外には誰もいなかった。

 急いで逃げた。


 帰りの道中、俺たちの間の空気は重かった。


「ねえ、ルシエン。本当にこれでよかったのかしら?」


「何がだ?」


「なんだか私たち、取り返しのつかないことをしてるような気がして……」


「ハッ! 今さらだろ。なあラース、ビシャール敗戦は覚えてるよな?」


「あ、ああ……」


 防御結界に近寄る味方兵たちを斬りまくったときのことだ。


「あれはあなたたちが殺しただけ! 私はやってない!」


 サナヤの言い訳。

 ラースが吠えた。


「なっ!? サナヤだってパーティーメンバーの応募者を殺しただろうが!」


「あれは事故よ!」


「ならさっきの屋敷で殺した使用人はどうなんだ!」


「あれは……」


 うつむくサナヤ。


「なあ、ルシエン」


 ラースが疲れ果てた目で俺を見た。


「なんだ?」


「俺たちは、勇者のパーティー……で、いいんだよな?」


「…………」


 俺は答えられなかった。

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[一言] お前らみたいな勇者が居てたまるか
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