城内のモンスターを全員人間へ
「俺の名はエドワード・クレイル。お前たちをモンスターから人間へ変えようと思う。ただし、スキルは失われる。それでもいいという者だけ並べ」
モンスターたちは誰も去ろうとしなかった。
エナやアバトの様子を見ていて分かった。彼らは人間になりたいのだ。
俺は【吸魔】で彼らを人間に変えていった。
「さあ、次の者」
俺の前にやってきたのは全身甲冑のモンスター。
「【吸魔】!」
たった今まで目の前にいた全身甲冑は消え、メイド少女が現れる。
「わあっ! 私人間に!? やったあっ! ありがとうございますっ!」
鎧まで消えるというのはおかしな話だが、そもそも鎧を着た状態でモンスターが発生するほうが何倍もおかしい。
つまりこのモンスターの鎧は魔力によって形成された物だったということだ。
そして人間となってメイド服を着た状態というのも、魔力で服が自動形成されたのだろう。【縫製】スキルのように服は魔力で作れるのだ。
「次の者……リザードマンか」
槍を持った二足歩行のトカゲのモンスターだ。
それが二体。
「【吸魔】!」
現れたのは城の門でも守っていそうな衛兵二人だ。
彼らもお互いの体を見て喜ぶ。
「おお、お前なかなかいい筋肉してるじゃないか。鍛えてるな」
「バーカ、お前だってそうだろ」
アバトが俺に説明する。
「彼らは元々城門を守っていた衛兵です。西門を守っていたので今回は助かったようですね」
「なるほど。じゃあまた門番をやってもらうか。どうだお前たち、また門番をやりたいか?」
兵士二人はビシっと姿勢を正して敬礼した。
「もちろんです! スキルはありませんが門を守るのは我々の誇りです!」
「俺もです! 人間にしていただいたご恩は一生忘れません。忠誠を誓う所存であります!」
次だ。
ゴブリンが三体。
最下級のモンスターだ。
「彼らはゴブリンです。人間にしても戦力にはならないかと思いますが」
「それを言うならさっきのメイドもそうだろう? 俺は強い弱いで【吸魔】を使う対象を選ばない」
「おおぉ……なんというお心。このアバト、感服いたしました。あなた様はまるで――」
「そういうのはいいから。じゃあお前たち、並べ」
ゴブリンは俺の前に整列する。
「【吸魔】!」
「はわぁぁぁぁぁ、わたし、にんげん?」
「にんげんだぁっ! わたち、にんげんになった!」
「あはははは! すごいすごーい!」
五歳くらいの少女三人。
手を繋いでぴょんぴょん飛び跳ねている。
次はローブを着て杖を持ったモンスター。
アークメイジだ。
魔術師系のモンスターには嫌な思い出があるが……。
いや、今アバトに言ったばかりだ。
俺は【吸魔】の対象を選ばない。
「【吸魔】!」
現れたのは老婆。
「おおぉぉ……これはいったいどんな奇跡じゃ。よもやこのワシが人間になろうとは……。ありがたや」
スキル欄に見たことのないスキルがあった。
【調理】だ。
まさかこれは、食べ物を出せたりするのだろうか?
使ってみた。
「【調理】」
俺の手のひらの上に、クッキーが出現した。
「エナ、いるか?」
エナは俺の手からクッキーを取って、かじる。
「甘い……おいしい」
にこっと笑うエナ。
どうやら本当に食べ物が出せるらしい。
元ゴブリンの少女三人にも同じ物を与えてやって、俺は【吸魔】を続けた。
集まったモンスターたちを次々と人間に変えてゆく。
いつしか大広間には大勢の人間がひしめいていた。
詳しく数えてはいないが、200人くらいいそうだ。
次で最後だ。
ハンマーを持った小人だ。
「【吸魔】!」
現れたのは頑固な職人風の男。
「む、このスキル……」
【建築】を吸収していた。
見たことも聞いたこともない。
これも間違いなくユニークスキルだ。
モンスターにはこの【建築】や【縫製】や【調理】のように、ユニークスキル持ちが多いのだろうか?
いや、と思考を巡らせる。
彼らは元々人間のように器用な手足をしていない。
そんなモンスターが魔王城のような建築をするためには、人間の身体か、スキルが必要となる。
つまりその必要があるから、そういうユニークスキルを持ったモンスターが誕生したのだろう。
「ありがとよ。俺は見ての通り大工さ。この城を作ったのも俺みたいなやつらよ。人間にしてもらえた恩は一生忘れねえ。スキルがなくなった今、元のようにスキルで仕事をすることはかなわねえが、道具さえあれば物理でなんとかしてやる。なんでも命令してくれや」
こいつがこの城を作ったのか。
いや、過去にいた同じような姿をしていたモンスターか。
俺は【建築】を試してみることにする。
「まずこの玉座の間を直してみるか」
「ちょっとお待ちくだせえ」
「なんだ?」
「【建築】は内装イメージと魔力だけで部屋を作れはしやすが、寝室一つ作るのにも7日はかかる重いスキルですぜ」
「ふむ」
俺は元いた国、アストラールの王宮をイメージして魔力を解放する。
魔王討伐に向かうと、王の前で頭を下げた時のことだ。
カアアアアアァァァッ!
大広間が光で満たされる。
「おおおおおっ!?」
その場の全員からどよめきが起こる。
白いきらびやかな玉座の間が再現されていた。
「なああああっ!? まさか……信じられねえ。【建築】を一瞬で!?」
大工は大口を開けて目を見開いていた。
「すごいっ! こんなきれいなところ、見たことないわ。夢みたい!」
「ステキ……これが人間のお城……」
「今思うと前は雰囲気悪かったからなあ。俺は断然こっちのほうがいいね」
どうやら好評のようだ。
「見て見てこの絨毯、冒険者の血みたいに真っ赤だよぉー」
一部、モンスターの頃の感覚が抜けきってないやつがいるみたいだな。
そして今度は、広間の内装に向いていた目が、俺へと集まった。
「ありがとうございますエドワード様! こんなきれいな城にしていただいて!」
「前の、その前の魔王の頃からのボロ城を、よくぞ修復してくださいました! なんとお礼を言っていいのか」
「あんな穴だらけの玉座の間が……うううぅぅ。ありがとうございますうぅぅっ!」
泣いてるやつらまでいる。
たしかに【建築】前はボロボロだったが、あくまで俺がそうしたいから直しただけなのだが。
「お、おおぉぉ……あのボロ城がこのような……。このアバト、感動に涙が止まりませぬ。エドワード様。あなた様の頭上には必ずや神の……いえ、魔王様の祝福があるでしょう」
いや、魔王は俺の横にいるのだが。決して天から俺を見守るような存在ではない。
それに顔を近づけないでほしい。アバトの顔は暑苦しい。
「分かったからそんなに顔を近づけるな。今にも崩れそうなボロ城に住みたくないだけだ」
「おおおっ! ここに住んでいただけると!? このアバト、エドワード様にお仕えし、必ずや――」
また始まってしまうが、俺は最後まで聞いていなかった。
そう、俺はこの城に住むつもりでいる。
アストラール王国には戻れない。
今目の前にいる彼らのことだ。
スキルを奪ってモンスターから人間へと変えて、はい、さようなら、というわけにはいかない。
そんなことをすれば、俺を使い捨てにしたルシエンたちと同じではないか。
俺はあいつらのようにはならない。
「ん?」
今の【建築】でMPが空になっていることに気付いた。
さすがにこれほどの大広間の【建築】。魔王のステータスを持っていてもギリギリだったということか。
崩れかけた魔王城の修復は急務だが、他の部屋は明日以降か。
「エドワード……」
エナが俺を見つめている。
「なんだ?」
「私からも……ありがとう」
微笑むエナの頭に手を乗せる。
エナは満足そうに笑った。
「んふー」
俺はしばらくエナの頭をなで続けていた。
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