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結婚

 俺は城下の畑に来ていた。


「これは国王様!」


 農夫の男が俺に気付いて頭を下げる。


「うむ。がんばっているようだな。どうだ、作物のほうは」 


「順調です。竜人族の方に来ていただいて農法を教えていただきましたからね。次の収穫は期待していてください」


 竜人族と国交を結んだことで、国に竜人族の技術供与があった。

 竜人も我が国と同じく自給自足の暮らしではあるが、彼らの農業や畜産の知識には目を見張るものがあった。


 竜人の里から招かれた数名の技術者が、国民の指導に当たっている。

 家畜の提供もあった。

 これもすべてリムネの手回しだった。

 本当にありがたいことだ。


「国王様!」


 別の農夫が近づいてきた。女性を一人連れている。

 俺は彼女を見て驚いた。

 その女性の腹はなんと、ぽっこりと膨らんでいたのだ。妊婦だ。


「こんにちは、国王様」


 女性は幸せそうに微笑んでいる。


「お前たち、もしや」


「ええ、見てのとおりです。俺たち、結婚しようと思っているんです」


「そうか、それはめでたいな」


 俺は内心の驚きをなんとか抑えて言った。

 元モンスターの人間同士で子供ができる可能性は高いとは考えてはいたが、実際初めて目の当たりにするとまた別の話である。


「それでですね、折り入ってご相談が……」


「うむ。言ってみよ」


 国民の初の結婚。ケチなことを言うつもりはない。盛大に祝ってやろう。


「私たち、人間式の結婚式を挙げたいと思っているんですよ」


「人間式……」


 つまり教会で誓いのキスをするような、人間社会で一般的に行われている結婚式か。


「ですが我々には人間文化の知識があまりありません。ですから国王様に、人間式の結婚式を詳しく教えていただけたらと」


 ふむ。

 一からとなるとなかなか難しいものではあるな。

 が、せっかくのめでたい結婚式だ。できるだけ国民の願いをかなえてやりたい。


「分かった。任せるがよい」


「本当ですか! ありがとうございます国王様!」


「ありがとうございます!!」


 そして俺はしばらく領内を見て回り、手頃な空き地を見つけて、教会を【建築】した。


「おっ、おおおっ!? これは……」


「この建物はなんですか? 国王様」


「普通の家とは違うようですね……」


 何事かと集まってきた国民に説明する。


「これは教会だ。人間世界で一般的なルナスティーク教という宗教の建物だな。お互いを好き合う人間はここで神の名の下に祝福を受け、結ばれる。この場所で、我が国初の結婚式を執り行いたいと思う」


「おおおおーーーー!」


 人々の間にどよめきが起きた。

 そして結婚式の準備は整えられ、わずか三日で式の当日を迎えることになった。


 新郎新婦は俺が【縫製】で用意した正装に身を包み、お互いに誓いのキスをする。

 俺は即席の神父役だ。


 正直神父などやったことはないし、手順も分からないが、まあこの辺は雰囲気さえ出ればいいだろう。


「二人ともおめでとう!」


「おめでとう!」


「二人ともお幸せに!」


 集まった国民たちが二人に祝福の言葉を投げかけた。

 式が終わり、教会の別の部屋で俺は二人からこんなことを言われた。


「国王様」


「なんだ?」


「その、お腹の子のことなんですけど。よければその……名前を付けていただけませんか?」


「名前、とな……。それはお前たち二人で相談して決めるほうがいいのではないか?」


「いえ、二人で話し合いました。最初の子の名前はぜひ国王様に付けていただきたい、と」


「ふむ、そうだな……」


 俺は彼らに名前を告げた。

 二人とも、とても喜んでくれた。

 しかし、と俺はその時思ったのだった。


 まさか今後も国民が結婚する度に、子供の名付けを頼まれるのでは、と。

 そして俺はその日、寝室でエナとリムネに言った。


「俺たちも、結婚式を挙げよう」


 言った瞬間だ。


「おぉー……!」


「っ……!」


 エナは興奮したように感嘆の声を上げ、リムネは涙を浮かべて声を詰まらせた。


 ガバッ!


 そして二人に思い切り抱き着かれてしまった。

 俺は二人と結婚し、立て続けの挙式に国民たちは大いに盛り上がるのだった。

ここまで読んでくれてありがとうございます

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