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大聖女の悩み1

「なにいいいいぃぃぃっ!? パーティーメンバーの応募者を殺害して勇者たちが逃亡したじゃと!?」


 謁見の間。

 私、大聖女エミーリンは国王の横でその報告を聞いていました。

 貴族の一人が口を開きました。


「これは許されざる悪行です。すぐに治安兵に命じ、捕えさせるのがよろしいかと」


「無論じゃ。なんという愚かなやつらじゃ。あのようなろくでもない者が聖剣を持つ勇者じゃとは……むうぅ」


 国王は頭を抱えました。

 別の貴族が進み出ます。


「国王様。勇者ルシエンには聖剣と、【光身剣】がございます。いたずらに兵を割いても、返り討ちに遭うだけにございましょう」


「何が言いたい?」


「殺されたのは平民が一人。勇者の利用価値とは比べるべくもない、ということです」


 たしかこの貴族は、あの男ルシエンと繋がりのある者だった気がします。

 ルシエンが聖騎士となった際の見返りを期待しているから、こうして擁護をしているのでしょう。


 はあ……。

 醜い政治上の繋がりです。そして、そんなことが分かってしまう自分も、嫌で仕方ありません。

 大聖女などと言われる私の周りも、政治とは無縁でいられない世界です。


 こんな地位、捨ててしまいたい。

 私は大聖女になんて、なりたくなかった。


「しかし犯罪は犯罪じゃ。余は犯罪者を許しはせぬ。ルシエンとその一行を指名手配にかけろ」


「ハッ!」


 貴族はうやうやしくうなずいて下がりました。

 それから国王は、今度は私を見て言いました。


「大聖女よ、お前はどう思う?」


 正直、どうでもよかった。

 国王はよく私を呼び、意見を聞いてくるのです。

 他にご機嫌取りの貴族たちがいくらでもいるというのに。


 なぜ自分がここまで王に信頼されているかは分かりませんでしたが、迷惑でしかありません。

 今、私の心を悩ませているのは、まったく別のことでした。


 そう、エドワードのことです。

 私は昔、エドワードに救われました。

 子供の頃のことです。


 ですがそんな彼を私は、愚かにも勇者のパーティーへと推薦してしまったのです。

 恩返しのつもりでした。


 聖騎士になればエドワードには輝かしい未来が待っている。

 そしてエドワードには【魔法耐性】というユニークスキルがあった。


 彼には大いなる才能があったのです。

 私のユニークスキル【鑑定】は、それを見抜いていました。


 だからきっと、彼は活躍できると思っていたのです。

 でも彼の才能は、死という形で終わりを迎えました。


 信じられなかった。

 信じたくなかった。

 だから私は国王にエドワードの捜索を進言したのです。

 しかし、聞き入れられなかった。


「さあ」


「さあ、とはなんじゃ?」


 私の返事に、国王は呆れたような声を発しました。


「国王様。彼らの処遇を考える前に、今一度エドワードの功績を見直してみてはどうでしょうか」


「またその話か」


 国王はうんざりしたような目を向けてきます。

 ですが私はあきらめません。


 エドワードの捜索隊を出させる。

 それが今の私の唯一の行動原理なのです。


「一年前のビシャール戦争。なぜ勇者の一行が敵将を討ち取るという功を立てることができたのでしょうか」


「それはルシエンの【光身剣】があったからじゃろう」


 なにを当たり前な、と言いたげな国王。


「では今回そのルシエンたちが大敗し、エドワードの代わりの人材をと、あれほど必死に求めていたのはなぜでしょう」


「それは……」


「そうです。エドワードこそが、ビシャール王国の魔法部隊の攻撃をすべて無効化し、ルシエンはその隙に悠々と敵に近づくことができたのです。並みの人間では魔法部隊の、大人数で発射される魔法砲撃など耐えられません」


「では、まさかっ……!」


「エドワードこそが、一年前この国を勝利へと導いた、真の英雄なのですよ」


 本当のところは分かりません。

 私は一度も彼が戦っているところを見たことがないからです。


 でも事実が、そしてルシエンの言動や行動が物語っていました。

 本当はエドワードこそが英雄なのだと。


「なんということじゃ……それが本当なら余は……」


 国王は顔色を青くして額に手を当てています。

 私は何度目か分からない願い出をします。


「エドワードの捜索隊を出させてください」


 その時、貴族の一人が口をはさんできました。


「ルシエンの報告ではエドワードはすでに死亡したと。それほど有能な人材が本当は生きているのだとすれば、ルシエンはウソをつく必要はありますまい。むしろ捜索を願い出るのは彼らだったはずです。つまり死んでいます。確実に。捜索隊を出すのは無駄でございます」


 ああっ、もうっ!

 この貴族のハゲ頭を今すぐ叩いてやりたい!


 分かっています。そんなことは。

 でもたとえ死んでいたとしても、その亡骸だけでも回収したいのです。そして手厚く葬ってやりたいのです。


 いえ、私はあきらめきれないでいるのです。

 ほんのごくわずかな可能性でもいい。


 エドワードが生きている、というその可能性に賭けたい。

 彼ともう一度話がしたい。

 そして謝罪したい。


 私の愛する、ただ一人の男性。

 エドワードに。


「そうじゃな。ひとまずは現状維持じゃ。ビシャール国の動向を注視せよ」


「ハッ!」


 私の願いはまたしても却下されました。

ここまで読んでくれてありがとうございます

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