勇者サイド5、転落そして逃亡
発布された王命は瞬く間に国中に周知された。
俺、勇者ルシエンのパーティーのメンバー募集だ。
当然、大勢の人々が我こそはと集まり、列を作った。
本来ならここで大聖女のユニークスキル【鑑定】で才能を発掘するはずなのだが、大聖女は聖務を理由に聖堂に引っ込んでしまった。
まあこれだけの大人数、全員を【鑑定】するのはいかな大聖女と言えどもオーバーワークが過ぎる。
【鑑定】を要請するのはさすがに無茶だろう。
それに俺たちはもう二度も王の機嫌を損ねている。
今回はなんとか王命を出させることに成功したが、これ以上の願いは俺たちにとって致命傷になる可能性がある。王は気が短いのだ。
「諸君らは、栄えある勇者のパーティーの一員となるチャンスを得た、幸運な者たちである。だが、人員の空きは1名だ。この狭き門、通る気概のある者たちはいるか!」
ここはとある貴族から借りた屋敷の一室。貸し切りにしてある。
俺が聖騎士となった暁に色々と便宜を図ることを条件に、ある程言うことを聞かせられるようになった貴族だ。
ここには応募してきた者たちの第一陣を集めて並ばせている。
総勢200名。
「もちろんです!」
「俺は故郷を捨てるつもりで応募しました! どんなことでもします!」
「勇者様のパーティーに入るためならなんだってします!」
「ぜひ俺をパーティーに加えてください!」
「私のほうが役に立ちます!」
くくく、なかなか生きのいい連中が集まったじゃないか。
俺は声を張り上げた。
「ならば適性を調べるため、少しの不便を強いることになるが、構わないか!」
「構いません!」
「どうぞ調べてください!」
「俺こそパーティーの一員としてふさわしいです!」
「私のほうが適性があります!」
ラースとサナヤが手にロープを持って彼らの前に立つ。
「では今から君たちの手足を縛る。立ち去りたい者は去るがいい」
「……」
「……」
さすがに何かを感じ取ったのか、パラパラと部屋を出て行く者が現れる。
俺は彼らを引き止めるために言った。
「勇者のパーティーの一員となり、魔王を討伐した際には、そのメンバーは全員聖騎士として列聖される! そのことの意味、分からぬ者はおるまい!」
部屋から出て行こうとしていた者たちの足が止まる。
悩んでいるようだ。
彼らを入れれば残りはだいたい170人程度か。
十分だ。
「よし、ラース、サナヤ、縛れ!」
応募者たちの体が縛られてゆく。
全員の体を拘束し終えたのを確認して俺は言った。
「今から諸君らの魔法への抵抗力を調べる。少々苦痛を伴うが、安心したまえ。【回復】とポーションを用意してあるので安全だ!」
「えっ……」
「まさか……」
応募者たちがざわめき始める。
その顔に不安の色が浮かぶ。
「始めろ!」
「【火炎弾】!」
ゴオッ!
サナヤが魔法を放つ。
「ぎゃあああああああああああっ!!」
悲鳴。
「魔法の威力は抑えてある! 大げさに騒ぐんじゃない!」
俺の手元には国に発行させた『応募者適性確認許可証』がある。
まあその適性確認の内容自体は特に指定されてはいないが。
だからこそ拡大解釈が効くというものだ。
なあに、【回復】すりゃ傷は消せるんだ。問題はない。
「何言ってるんだ! 正気なのか!?」
「こんなの普通じゃない! 狂ってる!!」
「やめてくれ! 俺が悪かった! もうやめる! パーティーになんて入らなくていい!」
次々と泣き言を口にし始める応募者たち。
なんだなんだ? さっきまであんなに威勢がよかったというのに。
口先ばかりのウソつきしかいないのか?
エドワードならこの程度の魔法、そよ風のように耐えていたというのに。
当然やめない。
「次!」
「【火炎弾】!」
ゴオオッ!
「ぐあああああああっ!!」
絶叫。
応募者たちが暴れ始めた。
「こいつら狂ってやがる!!」
「やってられるか! くそっ! 拘束を解けえええっ!」
「出せええええっ! 部屋から出せえええええっ!!」
「ちっ、このことを国に報告する! 【風裂斬】!」
バシュッ!
一人の男が風の刃でロープを切断、逃げ出そうとする。
なんだと!?
俺が動くより早く、魔法が飛んだ。
「【火炎弾】!!」
ゴバアアアアァッ!!
サナヤの全力の【火炎弾】が男を包む。
ドオッ!
黒コゲになった男は床に倒れた。
「うわあああああっ!?」
「ひっ……」
「こいつ、やりやがった……」
「人殺しだっ!!」
「ひいいぃぃぃっ!」
「助けてくれえええええっ!!」
狂乱する応募者たち。
俺はサナヤに怒鳴った。
「バカがっ! なぜ殺した!」
「し、仕方ないじゃない! まさか【風裂斬】を使うなんて……」
「先に魔術スキルの有無は確認しておけと言っただろ!」
「確認したわよ! でもこいつが隠していたのよ! 分かるわけないじゃない! 普通、応募に有利になるスキルを、わざわざ隠しているやつがいるなんて!」
なんてバカなやつなんだ。
「俺たちには『応募者適性確認許可証』があるんだ! 同意の元の適性確認なら何の問題にもならない! こいつらは一度同意した! 放っておけばよかったんだ!」
「どうする、ルシエン?」
ラースが俺に聞いてくる。
この筋肉バカが!
たまには自分の頭で考えろ!
くそっ! どうすればいい?
俺が必死に頭を巡らせていた、その時だ。
「アストラール国治安兵である! 通報があった! 全員動くな!」
しまった!
最初に逃げ出した30人の中に、俺たちを怪しんで警備所へ走った者がいたのだ。
『応募者適性確認許可証』があるとはいえ、さすがに人殺しは言い逃れができないっ!
なんてツイてないんだ!
くそったれがっ!
「ルシエン! 逃げるぞ!」
ガシャン!
ラースが窓を割って外へと飛び出した。
サナヤも後に続いてしまう。
これだけの目撃者を残して逃亡してしまったら俺たちは……。
外にも人はいるだろう。【光身剣】で全員はやれない。
20秒でこの場の全員を片付けることは不可能だ。
「くそっ!」
俺も逃げるしかなかった。
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