勇者サイド4、敗戦報告
「ルシエンよ、報告はもう聞いた。よくもおめおめと余の前に姿を見せられたものじゃな」
アストラール王国謁見の間。
ひざをつき、床に擦りつけそうなくらい頭を下げているのは俺、勇者ルシエンとラース、サナヤの三人だ。
「これは歴史的な大敗じゃ。ビシャールなどという小国相手に、よもやこのような敗北を喫するとは。ええい、腹立たしい! どう責任を取るつもりなのじゃ!」
「あ、相手方の軍に編成された魔術師の数があまりにも多く……。我が軍はそれを防御する結界魔術師が足りていなかったのです」
俺は用意しておいた言い訳を口にした。
「何を申すか!! この愚か者がっ! お前は余裕で勝てると言っておったではないか! 魔術師の数は前回と同じ。それで不足とは言い訳にはならんぞ!!」
バシン!
「くっ!」
王が俺の背を杖で打った。
大した痛みはないが、屈辱的だ。
「も、申し訳ありません!!」
平伏して床に頭を付ける。
ダメだ。
今の王には何を言っても無駄だ。
とにかくまずは王の怒りを落ち着ける必要がある。
怒り狂った状態では何を言っても耳を貸してはくれないだろう。
「ですが! 我々が参加した前回の戦いで勝ち取った領土を、取り返されただけでございます! お忘れですか? 我々のあの時の功績を!」
サナヤが、言わなくていいことを言い出した。
バカが!
今の王にそんなことを言えば、火に油を注ぐようなものだ。
案の定、王は怒鳴った。
「なんじゃと!! 前回勝ったから次は負けてもいいなどと、よもやそのような心構えで戦に臨んでいようとは! 失われた兵たちの命をなんだと思っているのじゃ!! 死んだ彼らの前で同じことが言えるのか!! どうなんじゃ!! 言うてみるがよい。前回勝ったから今回は死なせてしまったけど許してくれと!」
クソがっ!
なぜ敗戦の責任を俺たちが被らなければならないんだ。
責任を問うならまずは将軍からだろう。
俺たちはあくまで一兵卒なんだ。
そうとも、俺たちに責任はない。
前回は俺が敵将の首を取りはしたが、将軍に取り立てようとはしなかったではないか!
結局のところ王は、俺たちのことを体のいい兵器としてしか見ていないのだ。
便利な道具でしかないということだ。
バシン!
「きゃあっ!」
王が杖を振るい、今度はサナヤが苦痛の声を上げた。
貴族の一人が王の前に進み出る。
「兵たちからの報告によると、彼らは味方であるはずの我がアストラール兵たちを殺害したとか。その数10や20ではきかず。まさに虐殺の様相であったと」
誰だ、密告しやがったクソ兵士は!
戦闘が始まったときは『勇者様に続け!』『勇者様の加護ぞある!』などと勇んで突撃していたというのに。
「本当か?」
王がぞっとするような低い声を出した。
ラースが叫んだ。
「していません! 神に誓って!! 戦況が苦しい状況下で、なぜそのようなことをする必要がありましょう! 兵の見間違いであります!!」
「ふん」
王はそれ以上追及はしなかった。
どうせ目撃情報だけだ。証拠はない。この件については助かったと見ていいだろう。
が、当然まだ俺たちのピンチは続いている。
ここからどうすれば王を説得することができる?
「国王様」
透き通るようなきれいな声。
すぐに誰だか分かった。
大聖女エミーリンだ。
「大聖女か。お主の力で何か分かることがあるのか?」
「いいえ、そうではありません。ですが、思い出してみてください。ほら、彼らのパーティーにいたもう一人のことです」
「ふむ、この前も言っておったの。エドワードじゃったか?」
「そうです。そのエドワードです。エドワードは彼らのパーティーの前衛を務めていました」
何を言い出すかと思えば。
聞きたくない名前だ。
「なるほど、ということは今回はパーティーメンバーが一人欠けていたから、実力が出し切れなかったと、そういうことか」
これは光明だった。
俺たちの失点はメンバー欠員によるものという流れになってきている。
いいぞ!
が、次の大聖女の一言で俺は歯噛みすることになる。
「その可能性があるということです。何しろエドワードは【魔法耐性】というユニークスキルを持っていましたから。今まで彼らのパーティーが活躍してこれたのは、エドワードのおかげだった、ということではないでしょうか? 彼らは死んだと言っていますが、まずはエドワードの捜索を――」
「ならん。今は魔王になど構っている暇はない。ビシャール国への対応が急務じゃ」
大聖女め。嫌なことを思い出させやがって。
【魔法耐性】はただの肉壁にしかならないゴミスキルだろうが。
俺たちの活躍がエドワードのおかげだと?
あいつはただの肉壁。
俺らのパーティーを構成する部品のひとつというだけだ。
あんなスキルのたった一つで俺のパーティーに入ることになった幸運野郎。
思い出すだけでも虫唾が走るぜ。
「そういえば、エドワードのパーティー参加は、大聖女であるお主直々の推薦であったな」
「そう……です」
大聖女は表情を曇らせた。
会話が途切れる。
ここだ!
話を切り出すなら今しかない!
「国王様!!」
「なんじゃ、ルシエンよ」
「我々のパーティーは、元々壁役を務める前衛がいて、完璧なバランスとなるのです。以前壁役を務めていた彼はその能力のあまりの低さゆえ、命を落とすこととなりましたが、やはりパーティーのバランスを保つ上では壁役は欠かせないのです」
そう、バランスだ。
エドワードは肉壁しかできない無能ではあったが、それでもパーティーのバランスとしては肉壁は必要。
どんなゴミにでも利用価値は存在するということだ。
「ふむ」
王はあごひげを撫でながらの思案顔。
いいぞ、話を聞いてくれそうだ。
「ですので、なにとぞ! なにとぞ今一度、【魔法耐性】を持つ人員を募集してください。さすれば我がパーティー、完璧なバランスを取り戻し、必ずや国王陛下のお役に立ちましょう!」
大聖女が首を振った。
「【魔法耐性】はユニークスキルです。所持者は見つかるはずありません」
「ならば! 魔法に少しでも抵抗力のある人員を! どうかお願いします! 王命として、募集してください!!」
王はしばらく考えている様子だったが、俺たちに向き直ると威厳ある声で宣言した。
「分かった。王命を発し、必要な人員を国内より探させよう」
「ありがたきお言葉にございます!!」
勝った!!
俺は土下座をしながらほくそ笑んだ。
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