竜人の姫の嫁入り
国に戻って数日後。
俺は竜人族の大使を迎えるために、謁見の間の玉座に座っていた。
竜人族の一行は、20人。
彼らは豪華な装飾の施されたタンスほどの大きさの箱を、3つも運んできていた。
彼らを従え、俺の前にひざをつくのは一人の少女。
それは俺のよく知る人物だった。
「竜人族より友好の証として。リムネ・エルフラン、参りました。どうか末永くお願いいたします」
何か、違和感を感じる。
リムネは竜人族の姫だったはずだ。
なぜそのリムネ本人が大使として来ているんだ?
それにこの仰々しい荷物の数々はなんだ?
これではまるで、貴族や王族の嫁入りのようではないか。
「……なぜこんな仰々しい荷物を?」
「持参金としての贈り物にございます」
持参金……やはりか。
「リムネよ、我が国に大使を置くという話ではなかったのか?」
「大使? いえ、最初から私はエドワード様の下へ嫁入りするつもりで参りました」
「なるほど。つまりリムネよ。俺はお前にいっぱい食わされた、ということか」
リムネは降参するように笑った。
「申し訳ありません。どうしてもエドワード様と、結ばれたかったのです。このような手段を取ったこと、申し訳ないと思っています。ですが、好きなのです。お慕いしております。この気持ちは、もうどうしようもないのです。自分でも止められないのです」
ふむ。さすがは竜人の姫といったところか。
とても見た目通りの少女ではない。知恵が回る。
まさか俺がいっぱい食わされることになるとはな。
「エドワード、これはどういう、こと」
エナがきょとんとして首をひねっていた。
理解が追い付いていないらしい。
「こいつはな、俺と結婚したくてこのように押しかけて来たのだ」
「あの、この方は?」
リムネが聞く。
「元、魔王だ」
「エドワード様。魔王様と……ご結婚なされていたのですか!?」
リムネは明らかに動揺していた。
「いや、まだ正式にはしていないが」
エナが俺を見て言った。
「エドワード、結婚……竜人の姫と?」
「いいや。断るつもりだ。竜人の里と友好を結びたいとは思っていたが、これはダメだ」
「なぜ、ダメ?」
「お前のためだ」
俺は常にエナを一番に考えている。エナは俺の命の恩人だし、エナが俺に好意を寄せてくれていることも知っている。その気持ちを裏切るつもりはない。
「私のため? なら結婚、いいこと」
「は?」
「私は、エドワードが、好き。世界で一番、愛している。エドワードのこと、愛してる。それがエドワードにとっても幸せなら、うれしい」
突然何を言い出すのか。だがもちろん俺の返事は決まっている。
「もちろんだ」
エナは満足そうに笑う。
「愛されるということ。それは幸せなこと。エドワードが愛されること、それは私の幸せ。エドワードは、もっと多くの愛を、受けていい」
「いや、それじゃお前はどうするんだ? いいか、俺はお前を悲しませるつもりはない。他の勢力との友好関係なんて、お前と比べたらどうでもいいことなんだ」
エナはただ不思議そうな顔をするだけだ。
「言っている意味、分からない。なぜ私が悲しむの? 私の悲しみは、エドワードが悲しむこと、ただそれだけ。エドワードは、竜人族の姫から愛されて悲しいの?」
「そんなことは……」
見れば、リムネが泣いていた。
ぽろぽろと涙を流して。それでも目をそらさずこちらを見つめている。
「エドワードの幸せが、私の幸せ。それは、絶対」
エナはまっすぐリムネを見ながら言った。
普段あまり話さないエナにしては、今日は珍しく多弁だ。
エナとしても、なにか思うところがあるということだろうか。
リムネもじっとエナを見つめている。
エナは彼女をしっかりと見て、にっこり笑った。
「これからよろしく、竜人族の、姫。共にエドワードに、幸せを」
「うっ、うぅっ……。寛大なお言葉っ……、ありがとうございます。では、私は、側室として、エドワード様のおそばに……」
勝手に話が進んでいる気がするが。
なんというか、もう一度断るとは言えない状況になっている。
もちろんエナがそう言うならば、俺も今さらどうこう言うつもりはない。
リムネはとてつもない美少女だし、俺もそんな彼女にここまで一途な好意を向けられて、好ましく思わないわけがない。
「リムネ、よろしくな」
「はい!」
今度こそ、リムネは笑った。
竜人族の姫にふさわしい、晴れやかな笑顔だった。
リムネが城に住むことになった。
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