元魔王の女の子
「う……生きてるのか、俺」
なぜ生きてるんだ?
ルシエンに斬られた傷は、致命傷だったはずだ。
ステータスを確認。
LV 2254
HP 49425/50022
MP 20304/20304
攻撃力 4210
防御力 4040
素早さ 3881
魔法力 9504
は?
なんだこれ?
ステータスが高すぎる。
LV2254? ウソだろ?
次はスキルだ。
【灼熱地獄】【氷雪地獄】【流星群】【雷撃嵐】【究極回復】【魔物統率】【ダンジョン生成】【吸魔】etc...
そうだ。
さっき【魔法耐性】から進化した【吸魔】だ。
俺はスキル説明を確認する。
【吸魔】――効果1:魔法を魔力に分解して吸収。効果2:対象の魔力とスキルを全吸収。自身の現在値を超えるステータスを吸収。
つまり吸い取ったステータスがダメージを上回っていたから、俺は死なずに済んだということか。
HPは49425/50022とある。つまり俺は597のダメージを受けていたということ。
元のステータスだったら当然死んでいる。
レベルもステータスの上昇に合わせて適した数値になっているのだ。
だが俺は魔力を吸収した覚えはない。
いったい誰から……。
体を起こした俺の下に、女の子がいた。
俺が覆いかぶさっていたような状態だ。
14、15歳程度の、銀髪の少女だ。
「なんでこんなところに人間が?」
うつぶせで倒れる少女は裸だ。
透き通るような肌の少女だ。
背中を触ってみる。
冷たい。死んでいるのか?
スキルリストを確認。
【究極回復】――死亡後10分以内の対象を蘇生。HP全回復。
「【究極回復】」
俺は【究極回復】を使った。
効果説明は目を疑うような凄まじいものだが、はたして本当なのか。
「……ん、う、私……?」
少女は目を覚ました。
俺は一応自分のダメージも回復させてから聞いた。
「お前は誰だ? なぜこんなところで裸で倒れている?」
「私、魔王」
体を起こした少女は、目をこすりながら言う。
青い瞳で、寝ぼけているようなぽやっとした表情だ。
とてつもない美少女だ。
「魔王? 魔王は死んだはずだ」
「うん、死んだ。でも今、生き返らせてもらった」
そうだ。
魔王は手下を蘇生させる能力がある。それが【究極回復】か。
つまり俺は【吸魔】で魔王から魔力とスキルとステータスを吸収したということらしい。
「でもおかしくないか? なぜお前は普通の人間の見た目なんだ?」
「……?」
少女は自分の体を確認。
「魔力が消えたせい」
「つまり今までの姿は魔力の影響だったってわけか」
少女はうなずく。
「それはMPってことか」
「そうじゃない……」
よく分からないな。
「どういうことなんだ?」
「たましいが、魔力を帯びると、モンスターとして、生まれる可能性が、ある。MPとは別に、体の半分は魔力で出来ている」
「元は人間、ということか?」
これに少女は首を振る。
「私たちは、モンスターとして、生まれる。そして、体を形作る魔力がなくなれば……体のありようが変化する」
ふむ。まだ少しよく分からないが。
「簡単に言うと、たましいという粘土に、魔力を加えて練れば、モンスターに、魔力を加えずに練れば、人間になる」
いきなり凄い簡単な説明になった。
元は人間というわけでもなく、生まれた時からモンスターだが、【吸魔】すれば人間になる。
そういうことか。
「お前、名前なんて言うんだ?」
「エナ」
「そうか。俺はエドワードだ」
「えどわーど……」
エナはぼんやりと俺の言葉を繰り返した。
そしてにっこり笑った。
「エドワード、生き返らせてくれて、ありがとう。でも、もう、殺してもいいよ?」
「え?」
「私、あなたにひどいことした。いっぱい魔法撃った。だから生き返らせてくれたの、やりすぎ。恩が返せない。もうこの姿にしてもらえて、満足。だから、殺していいよ」
あっさりと、そんなことを言われる。
「お前を殺すつもりはない」
「……?」
エナは首を傾げる。なんで殺さないの? そんな顔だ。
たしかに魔王は俺に魔法を撃った。
でもそれは当たり前だ。
誰だって襲われれば反撃する。
人間たちが突然住処に押し入ってきたんだ。
こいつを責めるのはお門違い。
それより今重要なのは別のことだ。
「それよりエナ、服、ないか?」
「服?」
「ああ。俺もお前も裸だ。さすがにこれはまずい」
「それなら、アバトを呼べばいい」
「アバト?」
「呼べばいい」
同じことを繰り返すエナ。
俺は呼んでみた。
「アバトー!」
ズン、ズン、ズン、ズン。
崩れかけてボロボロになった魔王の間に、誰かが入ってくる。
それは牛の頭のモンスター、ミノタウロスだった。
アバトに【吸魔】を使う。
パリッとした正装の老紳士が現れた。
「お、おおお……私の体が。おおっ、これはっ!」
アバトは自分の体を確認してしきりに感動している。
「あなた様が私を人間にしてくれたのですか? おおお、なんと感謝申し上げてよいか……」
「感謝はいい。それより服だ。エナが言うにはなんとかできるって話だが」
「もちろんでございます。【縫製】のスキルが……おや?」
「どうした?」
「申し訳ございません。服を作るスキルが消えております」
俺はスキルを確認。
あった。
今アバトから【吸魔】で吸い取ったらしい。
【縫製】か。そんなスキル、聞いたことがない。
俺の【魔法耐性】のようなユニークスキルだろう。もしくはモンスターの専用スキルの可能性もある。
服をイメージして【縫製】を使う。
「こんなもんか」
首から下を見て、こざっぱりとした普通の中流階級の服装なのを確認。
そしてエナだ。
「わぁ……」
エナは自分の体を見て驚いている様子。
俺が出したのは白のひらひらドレス。
まあなんとなく、そんな服が似合うんじゃないかと思っただけだ。
「気に入ったか?」
「うん。ありがとう、エドワード。好き」
ぎゅっ!
抱き着かれてしまう。
「エドワード、好き。大好き」
「服を出すくらいならアバトでもできてただろう?」
「違う。エドワード、私の命の恩人。でもそれだけじゃ、ない。きっとエドワード、私がどれだけあなたを好きか分かって、いない。エドワードは私を、無限の時の牢獄から救って、くれた。エドワードは、私のすべて。私のたましいより、世界より、大事。好き。大好き」
エナの言うことはところどころ分からない。
けど好意を寄せてくれていることだけは理解できた。
「エドワードは、私の光、そのもの。だから、好き」
俺は元魔王の少女の頭をなでてやった。
「んふー……」
幸せそうな顔でエナはそれを受け入れる。
「さて、他の連中も呼ぶか」
俺は息を吸った。
「魔王城に残るモンスターたちよ! 玉座の間に集まれ!!」
ぞろぞろと、モンスターたちが集まってきた。
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