対決ガダック
竜人族の里からほど近い山。
竜神山の頂上は、直径50メートルほどの、開けた場所だった。
そしてそこには小さな小屋が一つだけ。
あの小屋にガダックがいるのだろう。
扉が開いた。
出てきたのは髪をオールバックにした竜人。
「誰かと思えばテムじゃないか。ようやく姫を俺に差し出す決心がついたということか。リムネもリムネだ。この竜神の妻になれるということのありがたさが、分かっていないらしい」
テムが激昂した。
「貴様っ! ついに竜神を詐称するかっ!」
「詐称? おいおい人聞きが悪いな。正真正銘、竜の神の力を持つ俺の、どこが詐称だと言うのだ? 【暗黒次元】!」
ズオオオオッ!
人の頭ほどの大きさの、真っ黒い球体が空中に出現した。
「そらっ」
ガダックがひょいと指を振ると、その黒い球は近くにあった岩に当たる。
いや、当たらなかった。
球体は周囲の岩石を巻き込んで飲み込み、そのまま突き進み続けた。
球体がえぐった穴が山を貫いてどこまでも続いていた。
なるほど、今のスキルは物質を飲み込んで消滅させる効果があるらしい。
「ところでリムネはどこだ? そろそろくたばってもおかしくない頃合いだ。早く引き渡した方がいいぞ? うん?」
テムは顔を怒りに染めながらも口を開かない。
いや、開けないのだろう。
見ればテムの足はガクガクと震えていた。
今のスキルを見て完全に委縮してしまったらしい。
ガダックが今度は俺に言った。
「お前は誰だ? 竜人じゃないな。何者だ?」
「名乗るつもりはないが……まあ人間だ。竜人たちに乞われてここにいる」
「その人間がいったい何の用だ? つまらん内容だったら後悔することになるぞ」
「その前に確認させてもらいたい。お前がガダックで間違いないのだな。竜人族の姫リムネに無理な求婚を迫り、断られて逆上。竜人たちを殺した上にリムネに呪いをかけたと。合っているか?」
ガダックは額に手を当てて笑い始めた。
「くっくくくくく。いきなり何を言い出すかと思えば。そうだ。俺がガダックだが? まさか俺に歯向かうつもりなのか? ただの人間が?」
「お前、最初は竜人の姫とその両親に紳士的に接していたらしいな。それがどうしてこうなったのだ?」
「どうしてもこうしてもあるか! あいつの両親は約束したんだ。娘と結婚してもいいと! ところがどうだ? リムネ本人は断るどころか、最初から嫌だったんだとよ! 俺の人を見下した態度が、竜人族の長としてふさわしくないなどとぬかしやがった!」
ガダックは拳を握って怒りをあらわにした。
「俺は焦ったよ。姫などと言われて周囲からちやほやされて育ったガキに、まさか見抜かれるとは思っていなかったからな。誰もこの竜神である俺の心を見透かすなど、あってはならないことだというのに!」
「愚かな男だ。なぜリムネ姫がお前の心を見抜いたか、教えてやろう。それはな、彼女もまた姫として、周囲にかしずかれて育ったからだ。お前が何を考えているかなど、手に取るようにお見通しだったというわけだ」
違うのは、リムネはそれを自分への戒めの再確認としていたことだろうか。
竜人たちから慕われているリムネを見ていれば、それが分かる。
ガダックのようにはなるまいと。
そう思っていたからこそ今のリムネがあるのだろう。
「バカな! ありえない! 俺の心は俺だけのものだ! あんな小娘に見透かされるなど、そんなこと、あってはならないんだあああああっ!」
プライドに凝り固まったガダックは、取り返しがつかないところまで自意識が肥大化している。
自分しか見えなくなった者に、人の上に立つ資格はない。
ズオオオオオ……。
ガダックの手のひらの上に、さっきの倍はある球体が出現。
「竜人ガダック。リムネの呪いを解く気はないか?」
「つまらん冗談だ。このおふざけの代償は高くつくぞ。まずは竜人の里の半数に呪いをかけてやる。そして苦しむ竜人たちの姿を、リムネに見せつけてやる! 泣いて後悔するリムネの前でさらに残りの半数に呪いをかける。俺にナメた態度を取ったことを、後悔させてやるのだ!!! ぐふはははははははーーっ!」
ガダックの顔に狂気が宿る。
「俺以外の竜人はどいつもこいつも無能のクズだ! だからこんな魔の森の奥地に隠れてコソコソ暮らしている! 臆病者の集まりなのさ! 殺してやる! 皆殺しだ! その前にまずはお前だ、人間!」
ドオオオォッッ!
ガダックは【暗黒次元】の球体を俺へと飛ばした。
攻撃魔法なら避けるまでもない。
球体は俺に当たる前に消滅。【吸魔】によって自動で分解、吸収された。
「え……」
今度はぽかんと口を開けて呆けているガダックに向けて【吸魔】を使った。
「【吸魔】」
ガダックの持つスキルが全て吸収された。
【暗黒次元】【竜神の加護】【竜神剣】【竜骸悪疫】【門転移】。
「ま、まだだっ! 俺にはまだ【竜神剣】がっ……な、なんだ? おかしい」
手を前に突き出したまま固まるガダック。
「ス、スキルが……出せない!?」
俺は試しに【暗黒次元】を使ってみた。
「なるほど。こういうスキルか」
俺の頭上に直径100メートルほどの巨大な球体が出現。
今俺たちが立っているこの山頂より大きい。
「なっ……えっ……あああああっ!?」
おかしな声で叫ぶガダック。
そのまま地面に尻もちをついてしまう。
「あ、なあああああっ!? これは、どういう……いったい!? あ、ああああああっ!?」
ドオオオオオッ!
そのまま【暗黒次元】をガダックに叩きつけて消滅させた。
「むっ……いかん」
俺はすぐにスキルを制御し、【暗黒次元】を消した。
しかし竜神山はパックリとえぐり取られて形が大きく変わってしまっていた。
「すまん、山の形が変わった」
テムのほうを振り向いて謝る。
「!?!?!?!?」
テムは目を大きく見開き、口をパクパクさせるだけだった。
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