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竜人ガダック

「おお、なるほど。では人間なのに魔王の力をお持ちと……」


「ではその力で姫を! どうか姫様をお救い下さい!」


 俺の服にすがりついて懇願する竜人たち。


「まあ一応やってみるが……【異常回復(キュアー)】」


 パアアアァァ!


「ダメだな。やはり【診断】通り、この呪いは同格以上のスキルでないと解呪できないようだ。これはスキルに込められた魔力強度の問題ではない。【異常回復】というスキルそのものの格が、竜神の呪いより下なのだ」


 これはすべての呪いに当てはまるものというわけではない。

 この竜神の呪いとやらが持つ特性だ。


「そんなっ……!」


「じゃあどうすればっ……!」


 竜人たちは泣きそうな顔になる。


「【吸魔】を使う」


「えっ?」


「呪いは魔力を必要とするれっきとした魔法の一種だ。【吸魔】で無効化することができる。ただし――」


「いけません!」


 リムネの父が反対した。


「我が娘の竜人としての力が失われるならば、それは竜人族の姫としての存在意義にかかわります!」


「自分の娘の命が惜しくはないのか?」


 まったく。この父親の言葉はばかげている。

 力や能力のほうが娘の命より大事だと言うのか?


「私も……反対です」


 テムも苦しそうな顔で言う。

 他の竜人たちも、目をそらしてうつむくだけ。

 なんという連中なのだろう。この場の全員が、姫としての価値を優先するというのだ。


 しかも親ですらだ。治せるものを治さないという彼らの考えは理解に苦しむのだが。

 リムネ姫の苦しそうな姿を見ていると、さすがに同情せざるを得ない。


「うっ……ああぁ……ぁ」


 パタリ。


 荒い息を吐いていたリムネの体から力が抜けた。

 ぐったりとして動かなくなる。


「えっ……まさか……」


「そんな……姫様!?」


「姫様あぁぁぁぁぁぁっ!」


「姫様っ!」


「ああああぁっ! そんなっ!」


 竜人たちがリムネの体を掴み、がくがくと揺する。


「待て待て」


 俺は彼らを押し退けて【究極回復】をかける。


「【究極回復】」


 呪いは解けないが、死者を蘇生し体力を回復させることはできる。

 これならば多少の時間稼ぎにはなるかもしれない。


 カアアァァッ!


 俺が【究極回復】を使うとリムネが目を開けた。


「う……あ……この人は?」


 【回復】もポーションも効果が1/10になってしまう呪いだが【究極回復】なら全快なので関係ない。

 対症療法でしかないが、彼らが【吸魔】を拒む以上仕方がない。


「おおっ! 姫様!」


「姫様っ!」


 泣き崩れていた竜人たちの間に喜びが広がる。

 彼らの喜びに水を差すことになるが、まあ一言言っておいたほうがいいだろう。


「お前たち。自分が何をしたか分かっているのか? 竜人族の誇りとやらのために【吸魔】を拒み、一人の少女の命を奪ったのだ。竜人としての存在意義? そんなもの、彼女が死んでしまったら【吸魔】をせずとも失われるではないか」


「それは……」


「エドワード様のおっしゃる通りです……」


「申し訳ありません……」


「私たちが間違っておりました」


 彼らは口々に謝り、涙を流して頭を下げた。


「姫様を助けていただいて、ありがとうございます」


「なんとお礼を申し上げてよいのか……」


「ありがとうございます、エドワード様」


 俺は首を振った。


「何を勘違いしている。俺はリムネ姫を生き返らせただけだ。まだ呪いは解けていない」


「そんなっ!!」


 再び絶望の表情になる竜人たち。

 口を開いたのはリムネ姫本人だった。


「ですが私は、こうして話せるまでに回復しました。話を聞いていただけますでしょうか? 命の恩人様」


 顔に死相を浮かべたまま、リムネは微笑んだ。


「いえ、まずは私から」


 話し始めたのは族長だった。


「我々竜人の血筋は、元を辿れば竜神に行きつくのです。そして時折、一族の者の中に、竜神の生まれ変わりのような強大な力を持った者が現れるのです」


「先祖返りのようなものか」


 俺が言うと族長はうなずいた。


「ええ、まさしく。ガダックもそうした先祖返りの竜人でしてな。竜神のスキルを使い、他の竜人など及びもつかないほどの力を振るいました。我々は一族をあげて彼を持てはやし、次期族長候補と期待をしていたのです」


「次期族長、つまり……」


 俺はリムネを見た。


「そうです。父は私になんの断りもなく、勝手にガダックと私の婚約を決めていたのです」


 リムネの口調には、はっきりと怒りの色があった。

 族長は頭を抱えた。


「すまぬ、リムネよ。私が愚かだった。まさかガダックの本性があのような男だったとは……」


「私はガダックの求婚を退けました。断ったのです。彼の力へのおごり、そして他者を平気で見下す心が分かったからです」


 リムネの瞳には深い知性が宿っている。

 なるほど、美しいだけでなく聡明な少女のようだ。


 俺にも話の行きつく先が見えてきた。

 族長は声を張り上げた。


「リムネに断られたガダックは激昂しました! 暴れ、取り押さえようとする竜人を全員殺害しました。その中にはリムネの母親もいたのです! ガダックの悪行はそれにとどまりません! リムネに呪いをかけ、竜神山へ消えたのです! リムネの命を助けたければ、妻として差し出せと!! こんな……こんなことを平気でしでかすとは! やつは悪魔です! もはや一族の風上にもおけません!」


「あいつはっ! 我々竜人の面汚しです!」


 ドン!


 テムも自分のひざを叩いて吐き捨てた。


「なるほどな。話は分かった」


 リムネは【究極回復】で一命を取り留めている。

 少なくともまだ時間が残されているということだ。


 話せるまでに回復した今なら、すぐにまた命を落とすということはあるまい。

 ならば【吸魔】する以外にも取れる選択肢がある。


「呪いは、かけた相手を殺せば解ける」


 その瞬間、リムネが首を振った。


「それは……無理です。ガダックは竜神の先祖返り。倒すのは不可能なのです」


 他の竜人たちもうつむいたまま口を挟もうとしない。

 それほど、ガダックを倒すのは絶望的だと思っているらしい。


「その竜神山とやらに案内してくれ」


 その瞬間、竜人たちは顔を上げた。


「えっ!? まさか……」


「無茶です!」


「姫様を生き返らせてくれた恩人をみすみす死なせるわけにはいきません!」


「いいから。とにかく案内してくれ。それとも、そのガダックとやらが恐ろしくて、道案内すらできないのか?」


 倒せば終わる話なのだから、これ以上の話し合いは時間の無駄だ。

 リムネの命がかかっている以上、ガダックの討伐は迅速に行わなければならない。


「分かりました」


 俺はテムといっしょに竜神山へと向かった。

ここまで読んでくれてありがとうございます

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