竜人族からの頼み事
開拓はさらに進む。
正門前から広がる領地に立つ家々の数も、どんどん増えている。開拓地は村を形成するのに十分なほどの広さを持つようになっていた。
正門だけではない。城の周辺も徐々に伐採が進み、森は切り開かれている。
城下町、と言える建物群が形成されるのも、夢ではないかもしれない。
だがその光景を夢想するのは早い。
今は地道にひとつひとつ仕事をこなしていくことこそが、国民たちの幸せな未来にとって必要なことなのである。
などと考えながらいつものように執務室で仕事をしていると、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「国王様!」
アバトだ。
だいぶ焦った声だが、何か事件でも起こったのだろうか?
「なんだ?」
部屋に駆け込んできたアバトは、姿勢を正して報告した。
「客人でございます」
「客人……とな?」
ふむ。
この元魔王城に国が作られたことを知る者はまだ誰もいないはずだ。
つまり人間ではない。
ならモンスターか?
しかし客というからにはモンスターではないだろう。
モンスターは【魔物統率】を持つ俺でなければコミュニケーションを取ることができない。自ら城へやってくる可能性は低い。
となると……。
「竜人族でございます」
竜人族。彼らはモンスターではない。獣人、エルフ、ドワーフのような亜人種族の一種だ。
きわめて高い戦闘能力を持っているが、人間種族との関りは薄い。
魔の森に住むという話は聞いたことがなかったが、いてもおかしくはない。
となると俺ではなくエナの客だろうか?
「エナ、お前竜人族に知り合いでもいるのか?」
「昔、会ったことは、ある。でも、知り合いじゃないと思う」
「親しい付き合いをしたことがないということか」
「うん。会ったことある、だけ」
「では国王様、いかがなされますか?」
まあ客なら応対に出るべきだろう。
「分かった、会おう」
「お会いになられますならば、玉座の間がよろしいかと思います」
「よし、すぐに向かう」
「ハッ!」
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「お初にお目にかかります魔王様。私は竜人族の戦士、テム・パラフィスです」
俺は玉座に座って客人を迎えた。
以前の俺ならば、王は玉座にえらそうに座っているだけの楽な仕事、と思っていたかもしれない。
しかし実際に王の立場となると、現実はだいぶ違っていた。
なんというか、普段は領地の見回りや執務室での書き物、各種生産系スキルを使用しての雑務が主なので、こうして普通の王のように玉座に座っていると、落ち着かないものだ。
まあ他の、人間世界の王たちのことを詳しく知っているわけではないが。
玉座に座って誰かを迎えるなど、実は初めてのことだった。
「あまりかしこまらなくていい。ほんの村程度の新興国ではあるが、一応この国の国王だ。名前はエドワード・クレイル・スターレイモンド。それと、魔王ではなく人間だ」
竜人族の戦士テムは、見た目は人間の青年とほとんど変わらない。
肌がやや浅黒く、髪色が緑。そして額に青い宝石が付いているだけだ。
昔どこかで聞いた話では、あの宝石は生まれた時から付いている体の一部だという話だが、本当だろうか?
テムは驚きの表情。
「人間の……しかも国王とは。しかし魔王城の玉座に座られているということは……」
俺はテムに【吸魔】について説明した。
「なるほど、そのような力が……。それで納得しました。魔王の城なのに、やけに人間の姿が多いと思っていましたが。周囲の森を切り開き、まるで開拓のようなことをしているのを、不思議に思っておりました」
「つまりこの城を監視していたと?」
「この竜眼を使えば、遠くからこの場所を見ることが可能ですので。そして監視の件については謝罪を」
あの額の宝石は便利な代物らしい。
そしてそんな手の内をあっさり明かすとなれば、これが友好的な訪問であることは明白だ。
最初からテムは敵意のようなものは向けてきていない。
「ああ、それはいい。長年静かだった魔の森で、突然モンスターの人間化や領地の開拓などを始めれば、警戒されて当然だ。だがこの領地拡大は悪意あってのものではない。あくまで住民の希望と願い、そして彼らが平和に暮らせる土地を作ろうというもの」
「あまりの驚きにまだ理解が追い付いていませんが、分かりました」
「で、今日はどんな用で来たんだ?」
「本来は魔王様に、というお話なのですが、事情は分かりました。なのでこの国の国王であるエドワード様に折り入って頼みを」
「頼みとは?」
「それは――」
テムは話し始めた。
その内容をまとめるとこうだ。
竜人族は森の奥でひっそり暮らしていたが、ある日自分たちの姫が呪われてしまった。呪いをかけたのは姫の元婚約者。
自分たちではどうにもできないから助けてほしい。
なんとかしてくれたら今後、我が国への協力を惜しまない。
そんな感じだ。
なぜ婚約者が自分たちの姫に呪いをかけたのか、気になるところではあったが、手を貸すとなれば城を開けることになる。
彼らにもし悪意があれば、俺を遠くへ誘い出している間に城を……なんてことも考えられる。
今この城にいる俺以外の住民は、エナも含めて人間になっている。スキルを持たない彼らは無力なのだ。
そもそも竜人族に手を貸す義理はないのだが。
さてどうしたものか……。
俺は、玉座の横に立つエナを見る。
エナは俺の手の上に自分の手を重ねて、言った。
「エドワードが決めるのが、一番いい」
「いいのか?」
「竜人族、真面目でいい人たち」
「そちらの方は?」
テムが聞いてくる。
「元、魔王だ」
「なるほど。これまでの魔王様はまるっきり外に興味を示されない方と聞いておりましたが、意外ですね」
「興味はあまり、ない。だからエドワード、決めて」
ふむ、それならば……。
彼らを助けたほうがいい、のかもしれないな。
竜人族は強大な力を持っている。頼みごとを断って敵対されるのはあまりよろしくない。
逆に今回の件をきっかけに友好関係を築くことができれば、きっとこの国と住民たちにとって助けとなるだろう。
「話は分かった。テム、俺はお前に協力しようと思う」
「ありがとうございます!」
テムは深く頭を下げたのだった。
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