勇者サイド3、敗北と撤退
「はぁ、はぁ、はぁ……」
あの地獄のような戦場を逃げ出した俺たちは、味方の死体を踏み分けて王都を目指している。
体は疲労の極みにあった。
鉛のように重い足。
なかなか前へ進めない。
「どうしてこうなったんだ? なぜこうも魔法が当たる?」
前回はたしかに楽勝だったはずだ。
俺が敵の大将を【光身剣】でぶった斬った。
まさに戦況を決定づける英雄的戦功だった。
その後アストラールで行われた凱旋パレードでは、先頭の将軍よりも俺様が主役だった。
沿道に並ぶ人々の羨望と歓声は、俺だけに注がれていたのだ。
それが、どうして。
俺のつぶやきに答えたのはサナヤだ。
「知らないわよ、そんなの。強力な魔術師でも雇い入れたんじゃない?」
「くそっ、こんな時に伝説の盾でもありゃあな」
ラースが突然、突拍子もないこと言い出した。
伝説の盾? なんだそりゃ。
「おとぎ話の話か? こんな時に」
「聞いたことないか? 昔、とある王国を襲った邪悪な魔法使いがいた。倒すために王はドワーフたちに命じて最強の盾を作らせたんだ。その盾はありとあらゆる魔法を弾き、魔法使いは盾を装備した英雄の手によって倒されたって話だ」
やれやれ。本当におとぎ話か。
まあでもたしかに。
そんな物がありゃこのビシャール国のクソムシどもに後れを取ったりはしない。
いやむしろ俺がその盾を持てばまさに最強じゃないか。
だが……所詮はおとぎ話だ。
「そんな都合のいい物があってたまるか。せいぜいあの無能兵どもを使って肉壁にでもできりゃ……あぁっ!?」
まさか、そんな……。
「どうしたのよルシエン。……あ」
サナヤも俺と同じことを思ったらしい。
「肉壁……か」
ラースのつぶやき。
思い出したくもない無能の顔。
それを思い出してしまった。
「おい、ルシエン。まさかとは思うがよ。エドワードのやつは、俺たちにとって……」
「黙れ! あいつは無能だ!! 役立たずだ!」
俺は無意識に叫んでいた。
「そうよね、あの変態なんて。のんきに転がってる寝てる、この兵士どもと変わらないわ」
死体の頭を踏みつけながらサナヤが同意する。
「あ、ああ。そうだな。すまねえ、忘れてくれ」
ラースはそう言って頭を振った。
そうだ、あいつはただの無能。
肉壁なら誰にだってできる。
死んだ無能のことを考えても意味がない。
現実的なことを考えなければ。
「状況を整理しよう」
「ハッ! そうだな。ちゃんと整理しないと分からないような、複雑な状況だよな」
ズガッ!
俺はラースをぶん殴った。
「ちょっとルシエン! 何してるのよ!」
「くだらない皮肉を口走って話の腰を折ったバカを殴ったまでだ」
倒れたラースは、口の端から血を流して立ち上がる。
生意気な目で俺をにらみつけている。
「なんだ? 何か言いたげな目だな」
「……」
ラースはしゃべらない。
ふん、臆病者が。俺が今日の分の【光身剣】を残していることを知っているのだ。
でかいのは図体だけで、いつもビクついている小心者。
「見ての通り、状況は最悪だ。今回の戦は大敗。アストラールの領土は大きく後退することになるだろう。そして俺たちは国王陛下にそのことを報告しなければならない」
「……」
「……」
重い空気が流れる。
ラースもサナヤも下を向いている。
「二度目の失敗だ。残念ながら国王は気の長いタイプじゃない」
「ルシエン、俺たちゃどうすれば……」
「俺たちに足りないものはなんだ?」
「そりゃ……」
「ねえ……」
ラースとサナヤは顔を見合わせている。
どうやら二人は同じことを思い浮かべているらしい。
あの肉壁しかできないクソ無能の顔を。
「陛下にそのことを説明する」
「なっ――」
「でもそれじゃ――」
そうだ。エドワードのことまで正直に申告するわけにはいかない。あいつがほんのわずかでも認められるようなことがあってはならない。たとえ今は魔王城の冷たいガレキの下で、白骨をさらしていたとしても。
「エドワードの名前は伏せる。名前は伏せて、王に説明するしかないだろう」
「そうね。ずっと私たちのパーティーに寄生してただけの、役立たず。死んだ後も墓すら立ててもらえないのがお似合いだわ」
「その上で、新たな肉壁を探すんだ。肉壁さえあれば俺たちは勝てる。勝算があることをきちんと納得してもらえれば、陛下もチャンスを与えてくださる」
俺は拳を突き出した。
その上にラースが手を乗せる。
サナヤも手を乗せた。
「新たな肉壁を求めて」
「「新たな肉壁を求めて」」
俺の言葉を二人も繰り返した。
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