勇者サイド2、地獄のビシャール戦線
バカな。どうして。何がいけなかった? なんで俺がこんな目に。
あてのない思考だけがぐるぐると頭の中で渦巻く。
俺、勇者ルシエンはビシャール戦線の地獄の中にいた。
「魔法砲撃だ! 総員警戒――ぎゃああああっ!!」
ドゴオオオオオオオオオオン!!
俺のすぐ横で、部隊を指揮していた小隊長が吹っ飛んだ。
ズガアアアアアアアアアアアン!!
ドバアアアアアアアアアアアン!!
魔法砲撃の音が鳴りやまない。
「ルシエン! こっちよ!」
サナヤの声だ。
俺は慌てて駆け寄る。
「ふう、一息ついたぜ」
サナヤはこの俺のパーティーに入れるだけの実力を持った魔術師だ。結界魔法もお手の物。
ひとまずは彼女の張る防御結界の中にいれば安全だろう。
「こりゃ地獄だぜ」
戦士のラースが戦場を眺めながら言った。
そこら中死体だらけ。
空を見上げれば魔法砲撃の数々が織りなす虹が、あちこちに降り注いでいる。
「チッ、臆病な野郎どもだ。近づいてくりゃ俺の【光身剣】でどうにでもなるってのによ」
俺が聖剣で使う【光身剣】はまさに勇者である選ばれし俺様のための、最強のスキルである。
時間を止めることが可能なのだ。さらに防御無視効果に、ダメージ1000倍。
俺の【光身剣】の前ではどんな達人もただのデク人形にすぎない。
ただし、制約もある。
【光身剣】中の時間にして、20秒。
1日に20秒間【光身剣】を使えば、それでその日の【光身剣】は打ち止めだ。
大抵の場合はそれで十分だ。
相手を視界に捉えてしまえば、だいたいそれでカタが付く。
マヌケ面を晒して止まったままの相手に正面から近づいて、斬ればいいのだ。
だがやつらは。
このビシャール国の臆病者のクソウジ虫どもは、視界にすら入らない。
超遠距離から、多人数で同時に使う魔法。それを束ねた砲撃を撃ち込んで来るだけだ。
あいつらの魔法はたいしたことがない。
命中精度だって悪い。
しかし数が多いのだ。
大勢の魔術師が、連携していっせいに魔法を放つ。
一匹一匹ではたいしたことのない羽虫たちの考えそうな卑怯な戦法だ。
「た、助けてくれ! 助けてくれえええっ!」
味方の兵士が一人、サナヤの結界を目ざとく見つけて近づいてきた。
「バカが! ここは満員だ!」
ドバアアアッ!!
ラースが、手にした大斧で兵士の胴をぶった斬った。
「結界だ! 入れてくれ! 助けてくれえええっ!」
「俺は死にたくない! 死にたくないんだああああっ!」
「帰りを待ってる妻が! 息子がいるんだ!」
兵士たちが助けを求めてこっちに群がってくる。
ドバアアアアッ!
斧を振るいながらラースが叫んだ。
「おいルシエン! ボケっとしてんじゃねえ! この味方どもを追い払うのを手伝え!」
「なんだと? てめえ……誰に向かって口聞いてんだ?」
ラース。
パワーと耐久力だけが自慢の、筋肉バカ。
この勇者の俺様に命令できる立場だと思ってやがるのか?
「そんなことを言ってる場合じゃ……くそっ! 数が多い!」
アリのようにこの結界に群がる兵士たちは、全員味方――アストラール国の兵士たちだが、今はただの邪魔者だ。
「ちっ!」
ズバアアアッ!
サナヤが結界の維持に手一杯な今、俺も剣を振るうしかなかった。
ラースの言う通りにするのはしゃくだが、仕方ない。
ドバアアアアッ!
「なんで俺たちを……ぎゃああああああああっ!」
ズバアアアアッ!
「気でも狂ったのか! がはあああああああああっ!」
バシュウゥゥッ!
「俺は味方だ! 鎧を見れば分かるだろ! ぎゃああああああっ!」
くだらない。実にくだらない。
兵士なら兵士らしく、敵に向かって突撃でもして死んでみたらどうだ。
あさましくも命を惜しみ、仲間に助けを求める恥知らずの兵士ども。
もっとも俺は、雑兵たちを仲間と思ったことなどないが。
敵でないだけの障害物。
それがこいつらに対する俺の評価だ。
それに国も国だ。
なぜ前回と同じ数しか魔術師を用意しなかったんだ。
前回あれだけ手ひどく負けたビシャール王国が、今回も同量の戦力だけで攻めてくるわけは無いだろうに。
当然、魔術師を増員して来る。
そんなことも分からなかったのだろうか、あのクソ王は。
たしかに俺は余裕で勝てると大見得を切ったが、それは戦力を惜しんでもいいという意味ではなかったのだ。
結界魔術師が足りないせいで、俺たちの防御結界に味方どもが群がってきやがる。
俺とラースは味方の兵士たちを斬りまくった。
「魔法砲撃よ! こっちに来る!」
俺は慌てて身をかがめた。頭を抱えてかばう。
情けない格好だと、自分でも思う。
ズガアアアアアアアアン!
「きゃああああっ!」
サナヤの悲鳴。
「ダメ! もうもたない! ルシエン、撤退よ!」
「ダメだ! 撤退したらこの戦は大敗だ! そうなれば俺たちは国に居場所がなくなる!」
「次の攻撃には耐えられないのよ!!」
「無能がっ!! クズ魔術師が!!」
どいつもこいつも使えないやつばっかりだ。
俺の【光身剣】さえあれば一発逆転できるというのに。なぜそれが分からない。
「なっ……なんてこと言うのよ! 私は必死にっ!!」
「おいラース! 筋肉バカ! 突撃して道を切り開け! 大将の顔が見えたら俺が【光身剣】を決めてやる!」
前回はその方法で圧勝した。
「無理に決まってんだろ!!」
ラースは泣き言しか言わない。
新たな味方が湧いた。
「助けてくれえええぇぇぇ!」
「結界に入れてくれえええぇぇぇ!」
「お願いだあぁぁぁぁぁあぁ!」
味方の無能兵士の数が多すぎる。全員この結界を目指して押し寄せてくる。
くそっ!
俺は叫んだ。
「撤退だ!!」
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