食事にて
その日の城の食堂のメニューはシチューだった。
俺はちょくちょくここに足を運んでは、よくみなといっしょに食事をしている。
「何も国王様自らこのような場所でお食事なさらずとも……」
アバトが苦言を言ってくる。アバトのこう言った小言はいつものことだ。
「いいのだ。俺はみなと食事をすることは嫌いではない。それにな」
食堂の長テーブルを囲む大勢を見回す。
みんな俺のほうを見ている。
何を言い出すのかと興味津々と言った様子だ。
「俺が一人でこそこそと食事をしていたら、【調理】で俺だけ豪華なものを出して食べていると思われかねんだろう?」
冗談めかして言った。
瞬間、周囲に笑いが起こる。
「あはは。国王様に限ってそんなことあるわけないですよ」
「そうそう、いつも自分より俺らのことを心配してくださるような心優しい国王様が」
「この間なんて、民家を【建築】するのに張り切りすぎて、ほとんどMPを切らしていたじゃないですか。みんなに【調理】で料理を出したあと、一人でクレアさんから硬いパンをもらっていたって聞きましたよ」
あれを知られていたのか。
クレアというのは元々の【調理】スキルの持ち主だった、元アークメイジのお婆さんだ。
今は城の調理場を任せている。
「クレアよ。俺はたしか口止めをしていたと記憶しているが」
「あい、すみませんで」
穏やかに笑ってクレアは頭を下げる。
やれやれ。クレアには困ったものだ。
「でも国王様、豪華な食事くらいしてもいいんですよ。そうでなければ私たちが心配です」
「国王様に倒れられたら大変ですしね。国王様がいい物を食べたって、私たちは誰一人、文句を言いません。それどころか、国王様くらいは、できるだけちゃんとした物を食べて欲しいんです」
そうだそうだと、みんなは口々に言う。
どうやら心配させてしまったようだ。
国民を心配するどころか、逆に心配されてしまうとは、俺もまだまだである。
「我らに光を与えてくださった、心優しき国王様に祝福を!」
「エドワード国王様と、スターレイモンド王国に栄光あれ!」
「エドワード国王様ばんざい!」
「国王様ばんざい!」
はじまってしまった。
「そういうのはいいから。ほら、せっかくのシチューが冷めてしまうぞ。このシチューは俺が【調理】で出したものではない。みなが汗水流して働いた、努力の結晶だ。特別な物なのだ」
そう。今日俺がどうしても食堂で食事をしたかったのはこれが理由だ。
まだ畜産が始まっていないので、ミルクやバターは俺が【調理】で用意したが、肉や、野菜は畑や森で取れたものが使われている。
国民の努力の成果なのだ。
「おいしい……」
エナも気に入っている様子。
それだけで、今日はみんなと食事をしてよかったと思う。
みんなもワイワイ話しながら食事を楽しんでいた。
「そういえば国王様」
リズが言った。
以前ピンクの部屋を求めてきた、あの元サキュバスのメイドだ。
「なんだ?」
「国王様はエナ様と同じ部屋に寝泊まりしているんですよね?」
「そうだが?」
嫌な予感がする。
こいつの出自を考えると、よからぬことを言い出しそうな雰囲気がある。
「やっぱりその、夜はエナ様から【吸魔】、されているんですか?」
「何を言い出すんだお前は」
「ただの世間話ですよ」
「サキュバスというのは度し難いモンスターだな」
「何言ってるんですか。もう人間ですよ、私は」
さらりと笑うリズからは悪意のかけらも感じられない。
本当に世間話のつもりで話しているのだ、こいつは。
エナが反応した。
「私、【吸魔】しない。逆。するのはエドワード」
「えっ!? じゃあまさか……」
驚くリズ。
「違う。エナが言ってるのは、【吸魔】は俺のユニークスキルであって、俺しか使えないという、当たり前の事だ」
「なーんだ」
「まったくお前は……」
また邪推されても面倒だ。一応はっきり言っておく必要があるな。
「俺はエナと、そういうことはしていない」
「じゃあエナ様のお子が見れるのはまだまだ先になりそうですね。残念」
がっかりしたように言って、食事を再開するリズ。
「……ん? どうした、エナ」
エナが食事の手を止めて、俺を見ていた。
「エドワード」
「なんだ?」
「人間は、子供どうやって作るの?」
「それは秘密だ」
人間と、元モンスターの人間……。
子供はできるのだろうか?
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