酒宴
領地の開拓はさらに進んだ。
城の正門前は大きく開けて、道が通った。
道の両側には畑。
ちらほらと家も建ち始めた。
そう、住民たちは、ついに城の外にも住み始めたのだ。
これは大きな進歩だ。
住民たちの数も増えている。
この調子で建物が増えて行けば、村を形成するのはすぐだろう。
「王様、見てください」
狩人のリジナが言った。
城の正門前の広場だ。
「ほう、これは見事なイノシシだ」
人だかりができていたから、何事かと思って見に来てみれば、狩人のリジナ、リライザ姉妹がそれぞれ獲物を仕留めてきたらしい。
丸々太った立派なイノシシ。それが二頭も並べられていた。
「今日はたまたま、よい獲物に巡り合うことができました」
リジナは俺の前にうやうやしくひざを突いて頭を下げた。
彼女はたまたま、などと言っているが、狩人としての腕がいいことは知っている。
人間化に伴ってスキルを失ったというのに、たいした腕前だ。
「えへへ。私も今日は、ちゃーんと、獲れたんだよぉー」
リライザだ。
普段の狩りの成績が姉より悪いことを気にしていたのだろうか?
俺としては妹のがんばりも、姉に劣らないことを知っているのだが。
「二人とも、見事だ。よくがんばったな」
「そんな……私などにはもったいないお言葉です……」
「はわわ。国王様にそんなお言葉をかけてもらえるなんて、幸せですぅ……」
姉のほうは涙をにじませて声をつまらせ、妹はうっとりとした顔になった。
やれやれ、姉のリジナのほうはまだ硬いな。
真面目過ぎて仕事をしすぎて、過労で倒れたりしなければいいのだが。
俺は考えた。
住民たちはまだ俺に対して態度の硬い者も多い。
王への敬意と取れなくもないが、恐れられているのだとしたら不本意だ。
俺は民から恐れられる王になるつもりなどないのだから。
できればみんなから親しまれる王でありたいと思っている。
ふむ。
ここらで一つ、彼らと親睦を深めるための、催しを開いてみるか。
「みなの者!」
その場にいる全員がいっせいに俺に注目する。
「このように立派な獲物を、俺が【調理】で出した料理の中に放り込むのは味気ない。そこでだ。本日はこのイノシシを主菜として、酒宴を開こうと思う」
「「「「「おおおおおおおおおおーーーーっ!!」」」」」
全員の大歓声。
「エドワード、いいの?」
エナだ。
「ああ。俺の仕事はまだまだ多い。【建築】や【調理】の消費MPは莫大だ。無駄遣いするべきじゃないことも分かっている。しかし、今日くらいは【調理】を、酒を出すために使ってもいいだろう? 彼らは開拓という、つらい仕事を日々こなしてくれているのだ」
エナはにっこりと笑った。
「エドワード、いい王様」
「そうかな? 俺はまだまだだ、という気がしているんだが」
開拓はまだまだ続く。
今はほんの少し、前へ進んだという状態なのだ。
「エドワード、好き」
俺にぴったりと体を寄せて、頬を擦りつけてくる。
俺はエナの頭に手を置いて、いつものようになでてやる。
「んふー……」
エナのこの満足げな笑顔も、見飽きることはなさそうだな。
この日は二頭のイノシシの丸焼きを囲んで、外で盛大な酒宴が開かれた。
酒宴は実に盛り上がった。
きらびやかな城内で暮らしていると、たまにはこういった外での宴会が恋しくなる。
小さな村などでも祭りの日などによく行われている、楽しみの一つだ。
俺が用意した酒は大量。
少々出す量を間違えてしまったようだ。
どれだけ飲んでも一日ではなくならない。
住民たち同士で飲み比べが行われ、それを見て他の住民たちがはやし立てた。
リジナとリライザの姉妹もいつの間にか酒が入ったのか、俺にべったりとくっついてきた。
特に妹のリライザは飲むと甘え癖が出るのか、くっつきすぎて困ったものだった。
俺は酔い潰れるわけにはいかないので、舐める程度しか飲まなかったのだが、みんなこの日は大いに飲んで、楽しんでくれたのだった。
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