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勇者サイド1、魔王討伐失敗

 アストラール王国、王都エインラールの王宮。

 魔王を始末した俺、勇者ルシエンは一ヶ月の旅の末、王都へと戻ってきた。

 聖騎士になるためだ。


「勇者ルシエン、ただいま戻りました!」


「同じく戦士ラース、戻りました!」


「魔術師サナヤ、戻りました!」


 謁見の間には国王ハイデリンの他にも、特に地位の高い貴族たちが居並んでいる。

 国王は玉座から立ち上がった。


「よくぞ戻った。勇者たちよ。お前たちの働きは未来永劫語り継がれようぞ」


「ありがたきお言葉にございます!」


 俺はにやける顔を隠すため、深く頭を下げる。

 これからのバラ色の未来を考えると、どうしても笑みが浮かんでしまうのだ。


 広大な領地と貴族の地位。さらには莫大な報奨金。

 どれも冒険者をやっていたら一生かけても手に入らないものだ。


 そして聖騎士の称号。

 約200年単位で復活する魔王を討伐できるのは、選ばれし実力者だけ。

 しかも魔王の存命中という、時代に選ばれた幸運の持ち主でなくてはならない。


 2000年以上続くこのアストラールの歴史でわずか37名だ。

 生きた伝説になれる。


 その肩書だけで女はいくらでも寄ってくるし、偉人伝を書かせてくれと名のある作家たちが押し寄せる。


 そうだな、まずはハーレムを作るか。

 集めた女の中から100人を選んで屋敷に住まわせよう。


 それから酒と料理。専属料理人を雇い入れて毎日フルコースを作らせよう。

 酒も世界中から美酒を集めさせる。

 ククク。妄想が止まらないぜ。


「ルシエンよ。そういえばお前たちの仲間はもう一人いなかったか? ああほら、名前はなんと言ったか……」


 ちっ。楽しい未来計画に水を差すようなことを言いやがって。

 思い出したくもない。


「エドワードです、国王様」


 国王の横に立つ少女が控え目な声で言う。

 大聖女エミーリン・ルナスティーク。


 アストラール王国で最も一般的な宗教であるルナスティーク教における、最高位。

 実質的な権力は教皇に劣るが、権威の面では彼女が象徴的な役割を果たしている。


 男なら大神官、女なら大聖女。ユニークスキルを持って生まれた才能ある聖職者の中から、司教会議によってどちらか一人だけ選出される。


 今年で16歳になる美少女だ。

 くそっ、彼女が大聖女なんていう地位にいなければ、俺の未来ハーレムの一員にしてやったものを。


 さすがに大聖女が相手では、聖騎士となった俺でも自分の物にすることはできない。

 それにしてもさすがは大聖女だ。


 美しいだけでなく心のやさしさまで完璧らしい。

 あんな役立たずのクソカスの名前まで、ちゃんと覚えていたのだから。


「おお、そう言えばそうじゃった。して、あの者は?」


「彼は死にました」


 俺は短くそれだけを言った。


「っ……!」


 一瞬大聖女が立ちくらみを起こしたようにふらついた。


「大丈夫か? 大聖女よ」


「はい……」


 大聖女は若干顔色が悪いように見えた。


「そうか死んだか。それは残念じゃ」


 国王はそう言って目を閉じた。

 残念なものか。俺らのパーティーに寄生していた寄生虫なのだ。


「ではこれより、確認の儀を行う。水晶球をここへ」


 王の前に豪華な台座が運ばれる。

 その書見台のような台の上には、一抱えほどもある大きな水晶球が乗っていた。


 限られた聖職者だけが魔王の存在を、その水晶球で確認することができる。

 大聖女が水晶球に手をかざし、呪文を唱え始めた。


 あの水晶球には特別な魔法がほどこされていて、半年に一回しか使えない。


 つまりここでもし魔王の死亡が確認されなければ、再び魔王討伐に向かったとしても、最低半年は聖騎士になることはできない。


 ま、そんなことはありえないんだがな。


「あっ……これはっ……」


「どうした大聖女よ」


 大聖女の顔が強張り、国王も不安そうな声をかける。

 周囲の貴族たちもざわめきはじめた。

 まさか……。


「魔王の反応です。魔王はまだ……生きています」


「なっ――」


 俺は思わず顔を上げる。

 ラースとサナヤも青ざめた顔をしていた。

 国王が俺たちを見た。


「これはどういうことじゃ?」


「いや、これは……なにかの間違いで……」


 ラースが弁明する。


「おろか者め!!」


 雷のような怒声が響き渡る。


「このアストラール王国建国以来、水晶球が間違った結果を示したことはなぁぁぁい!! 水晶球を疑うということは、この国そのものを愚弄する行為なのじゃぞ!」


「そんなっ! そんなもう一度! もう一度調べてください!」


 サナヤも哀れっぽい声で懇願している。

 バカが。水晶球は半年に一度しか使えないんだ。お前もよく知っているだろうが。


 二人とも完全にパニック状態。

 これ以上ヘタなことを口走って王のさらなる怒りを買うのはまずい。


 俺の輝かしい未来が閉ざされてはいけないのだ。

 俺は口を開いた。


「国王様。もう一度、魔王の討伐へ向かわせてください!」


 誠意のこもった声を、必死に作る。

 国王は周囲の貴族たちと顔を見合わせている。

 貴族の一人が進み出てきた。


「この者たちの能力には疑問が残りますな」


 別の貴族も続く。


「今一度魔王を倒せる器か、調べるのがよろしいかと」


 聖騎士はこの貴族たちよりも権威がある。

 つまり、俺たちを聖騎士にさせたくないのだ。


「どう調べればよい?」


 国王が貴族にたずねる。


「ちょうど隣国ビシャールが我が国の国境に兵を進めております。近く、戦端が開かれるでしょう。そこへ向かわせ、実力を試すのがよろしいかと」


「またあの国か。そのことは聞いておる。魔術師部隊が少々強力なだけの小国が。まったく、こりないやつらじゃ。ルシエンよ。やれるか?」


「ハッ! もちろんでございます! 我らの敵ではありません。余裕の勝利を国王様に捧げましょう!」


 アストラールとビシャールは仇敵同士の関係だ。

 幾度となく戦争が繰り返され、領土は一進一退を繰り返している。


 一年前の前回は俺たちのパーティーが参加し、ビシャール国の領土を大きく切り取ることに成功していた。


 あれは気分のいい勝利だった。

 今回も楽勝だ。


「よく言った。では出撃せよ。もし功を上げたならば、今一度魔王討伐に向かうチャンスをやろう!」


「ハハッ!」


 俺たちは大急ぎで再び旅支度を整えるのだった。

ここまで読んでくれてありがとうございます

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