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短短編  作者: 林 広正
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ブラックホール


 なんか変なのが取れたよ。

 おヘソをいじっていた娘がそう言った。

 そんなことしているとお腹壊しちゃうよ。

 僕の言葉に娘は無反応で、なんかこれいつもと違うんだよね。そう言いながらおヘソから取り出したそれを目の前に持ってきて見つめ始めた。

 汚いから捨てちゃいなよと言う僕の言葉も聞こえていないようだった。夢中になってジッと見つめ続けている。ひょっとして? 僕はまさかと思いながらも、そっと娘に顔を近づけてそれを見つめた。

 子供の頃、父親から聞かされた話を思い出した。僕はその話を、僕が小学生になってから生まれた妹のおヘソを見た時、どうしてこんなに真っ暗なの? そう聞いたことから創作した物語だと思っていた。

 この子のおヘソは特別なんだ。底が見えないだろ? なんてことを言われた僕は、シャツをめくって自分のおヘソを覗き込んだ。僕のおヘソは、真っ暗じゃないけれど、真っ黒なヘソのゴマならくっついていた。

 真っ暗なおヘソの真実を知りたいかい? 父親にそう言われると、とても興味を感じる。早く教えて! 前のめりにそう叫んだ記憶がある。

 このおヘソはね、ブラックホールなんだ。ここから宇宙に繋がっているんだよ。

 本当に! 当時の僕は素直に驚いた。

 宇宙にあるブラックホールは、全て真っ暗なおヘソに繋がっているんだよ。ブラックホールに飲み込まれると、おヘソから出てくるんだ。よく観察してご覧。ブラックホールに飲み込まれた宇宙船や星などがここから飛び出してくる瞬間が見られるかも知れないよ。

 その言葉を聞いてから数日間、僕は何度も妹の下着をめくっては真っ暗なおヘソを眺めていた。

 バカな真似しないの! 最初は笑顔で見守ってくれていた母親も、何日経っても飽きもせず妹のおヘソを眺める僕に呆れてそう言った。

 お父さんの話を信じちゃダメよ。あの人は物語を作るのが好きなのよ。母親にそう言われて、僕はその言葉を信じるようになってしまった。父親に直接問い正すと、父さんはたまにしか嘘をつかないよ。そう言われた。おヘソの話も嘘なの? そう聞くと、それはどうかな? 首を傾げてそう言い、父さんは一日に十回くらいしか嘘はつかないからねと付け加えた。

 なにか見えるでしょ? これって、ロケットみたい!

 娘の言葉を聞いた僕は、眉間にしわを寄せて集中する。確かにその形は、ロケットにも見えた。けれど、あまりにも小さすぎる。本当に、ヘソのゴマほどだった。

 ちょっと静かにして!

 特別騒いでいたわけでもないのに、娘が突然そう叫ぶように囁いた。そしてそのゴマを耳に近づける。僕の目には、耳の中に入れようとしているように見えるけれど。

 なにか聞こえるよ! きっとロケットの中に人がいるんだよ!

 僕は妻を呼び、虫眼鏡を持ってきてと頼んだ。妻は裁縫が得意で、虫眼鏡を使用して細かい刺繍を施す。

 あらどうしたのよ。ニコニコしながら近づく妻に、ちょっとこれを見てと娘が言う。

 はいはい、分かりましたよ。どれどれ、なにが見えるのかな?

 虫眼鏡でそのゴマを覗き込んだ妻の表情が固まった。

 両脇から、僕と娘もそのゴマを覗き込んだ。

 まさか! の表情で妻に顔を向ける僕。

 ほら! 娘は得意気な表情で、虫眼鏡越しに僕と妻に顔を向けていた。そのゴマを人差し指に乗せたまま。

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