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猫神神社の過去①

 小さな郊外の街。その町は昔ながらの民家と新しいマンション、新築の家が入り組んでいる。大きくもなければ小さくもない、少し坂のあるありふれた街並みの街だった。


 大きな坂に沿うように石造りの階段が伸びた先に、小さな神社が立っていた。拝殿と、少しの生活スペース。沢山の木々に囲まれたちいさな丘の上に立つ神社だった。


「最近あまり参拝される方が居ませんね……」


 神社の縁側で、白い巫女姿の高校生くらいの少女が呟いた。目線の先には、整った顔の、綺麗なストレートで少し長めの髪をした着流しの男が座っている。


「そうだね、でも困っていないのならいい事じゃないか」

「そうなんですけど、あまり続くとご飯が食べられなくなってしまいます」


 そう言って、少し困った顔をする。彼女の頭を撫でると彼は優しく言った。


「その時は、どうにかするさ」

「神様なら、できますね!」


 そう言って、彼女は笑顔になると、境内を掃除し始めた。

 神社には、枯れ葉が落ち、冬が訪れようとしていた。





 少し肌寒くなってきた夜。この神社の主でもある神様は、頭を抱えていた。20年そこらで、今までとは全く違う生活スタイルになり、価値観が変わっていく様子に悩んでいる。その隣には白猫がちょこんと座っていた。


「ミイコ、人の幸せとは何だろうか?」

「どうしたんですかにゃ?」

「時代が変わり、願い事も変化している様に思う」

「願いの変化ですかにゃ?」


 神様は指先で軽く頭を支え首をひねる。


「そうんだんだ、以前は欲しいものを願ったり努力に対しての対価を求める願いが多かったんだ。だけど最近は、求めているものは目には見えない曖昧な物ばかり。実体のないものを求める傾向にある様に思える」

「少し難しいですにゃ……」


 神様は猫を膝に乗せると、優しく撫でた。


「"偽り"は消えないのに、願いがどんどん消えていく……その先で神は何をするのがいいのだろうか……」


 そう呟くと、お神酒と呼ばれるお酒を口に含み何かを考え始める。しばらくして、彼は白猫に言った。


「明日の仕事が終わったら、しばらく願いと向き合う事にしてみるよ」

「神様がそういうのでしたら、ミイコはついていきますにゃあ」

「うん……いつもありがとう……ミイコ」



 次の日、神様は朝早くから出かけていくと、ミイコは仕事を始める。境内や拝殿を含む生活スペースの掃除。壊れているものやお供え物などの取り換え等、神様が居ない時はほとんどを一人でやっている。だが、彼女は別にそのことを苦には思ってはいなかった。


 20年ほど前、彼女は猫又になった。恨みからなる猫又にはもちろん個人差がある。人間の世界でも、些細なことで傷つく人も入れば気にしない人もいる。兄弟と離れ離れになり、山の中に捨てられたミイコはその不安と自衛の強い気持ちから猫又になったと言われている。


 言われていると言うのは、猫又の時はあまり自覚が無いらしいのだ。


 今の神様の優しさに触れ、猫神様という事もあってか神様の側使えの様に、一緒に住み始めた。職歴20年の大ベテランの彼女にとっては、日常のルーティン等、慣れたものだった。


 一方、神様は簡単に言えば治安の維持。街の不安の種を取り除き人々が出来るだけ幸せに暮らせるようにすると言うのをずっと行ってきている。人の動きを見る事の出来る神様だから出来る仕事でもあった。


「ふむ、これで問題はおこらないだろう」

「神さん、わしが出るまでも無い内容でよかったわ」

「大丈夫だとは思っていたのだけど、念の為ね……」

「まぁ、事件が起こってからやと大変やからなぁ」


 関西弁の三毛猫と、民家の裏通りで、やり取りをする。トラブルが起こる前に、そっとフォローすると言うのが結果的に人の不安を無くすという事にもつながる。


 スムーズに対応を追えると、彼は大きな三毛猫に言った。


「サブロー、僕は神様を譲ろうと思っているのだけどどう思う?」

「いきなり何いい出すねん。ミイコは知っとるんかいな?」

「いや、彼女にはまだ伝えられていないよ……」


「わしは、ミイコにだけは早く伝えといた方がええ思うで?」

「そうなんだけどさ。彼女は僕に懐いているからなかなか言えなくてね……」

「まぁ、ある意味重症やわなぁ……」


 神様は少し歩きだすと、足を止め前を向いたままサブローに言った。


「もし、近いうちに交代したら申し訳ないんだけどサポートしてあげてほしいんだ。多分引き継いだ僕もそうだったように、最初は不安なのだと思う」

「引き継いだ僕もって、神さん引き継がん気かいな?」


「うん。今、時代は目まぐるしく変化して行っている。そんな中で、神社のあり方も新しくなるべきだと思うんだ」

「新しくって、伝統を守るのが基本やろ?」

「そうだね、守っていかないといけない伝統もあると思う。でも、時代に合わせて変わっていかないといけない部分も同じようにあると思う。だから、守っていく分はサポートしてもらえたら助かるのだけど……」


 サブローはある程度理解したように、頷いた。


「でもな、神さんがしたらええんちゃうんか?」

「前例を見せたくないんだよ。どうしてもイメージで引っ張ってしまうと思うから、それだと引き継いだ人の今ある神様のイメージが変わってしまうからね」


「そうやって、社会との相違を調整していく気なんか……ええよ、まかせとき」


 サブローがそう言うと、神様は少し遠い目で空を見上げていた。サブローはそれをただ見つめてまだ見ぬ次の世代の事を少しだけ考えている様だった。




続編というか0話ストーリ―です。もうしばらく続きます。

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