帰らない
「あのさ、姿を消している時に見える事ってあるのかな?」
「どうしたんですにゃ?」
勘違いではないと思う。彼の前では見える様にした記憶はない。
「いや、あるのかなと思って……」
「猫や子供、あとは神様とか、普通の大人でも見える人なら見えると思いますにゃ」
「霊感が強いって事?」
「まあ、そんな感じですにゃね」
確かに、見える人は神様になる前から聞いたことがある。となると彼はその類の人なのかもしれない。胸の中のもやもやが少し晴れた様な気がした。
「それより……それ、どうしたんですかにゃ?」
「なにが?」
そういうと、ミイコは俺の背後に視線をやる。
振り向くとそこには、都が立っていた。
「うおっ……都さん?」
少し驚くと、都は俺のそでをそっとつまんだ。
「神様、なつかれてますにゃ」
「えっと、何してるんですか?」
俺がそういうと、都は顔をこする。こすり終えると、彼女は少し距離を取ったままこちらをじっと見た。
「猫かよ! いや、猫だわ……」
「なんや、えらい仲ええやんけ!」
久しぶりに商売人のおっさんの様な声が響く。振り向いた先には案の定サブローが立っていた。
「サブローさん、久しぶり!」
「神さん、いつの間に都となかよなったんや?」
「なんでですかね……?」
久しぶりのサブローに、少し照れる。
「仲ええのはええことやけど、それにしても仲良すぎへんか?」
「そんなにですか? 懐いているとは思いますけど……」
「都は元々人見知りやからなぁ、そもそも懐く事自体が不思議なくらいやで」
悪いことでは無いので、良かったと思うことにした。
「そういえばミイコ、明日やな……」
「はいにゃ」
「何がだよ?」
「それは秘密ですにゃ……」
相変わらず教えてくれない二人に疎外感を感じる。ダメ元で都にも聞いてみたが彼女はそもそも知らない様子で不思議そうに微笑んだ。
その晩、ミイコとサブローは二人で何処かに行く。どこかというより、境内のベンチで話している様だった。
「なにをはなしてるの」
「それが気になっているんだけど、その前に都さん帰らなくていいの?」
都は質問には答えなかった。
夜の神社は、夜の匂いと深々と静けさに包まれ、灯籠の暖かい光がぼんやりと光っている。そんな中二匹の猫の声は俺たちまで届く事は無かった。
しばらく、見ていたが話し声すら届いてこない状況に部屋に戻ることにした。都もそれに従い部屋に付いてくる。パソコンを開きキーボードに触れた手は、考え事をしてるせいか何も作業が進まなかった。
「都さん、そろそろ帰った方がいいんじゃないですか?」
「なぜ?」
「なぜって……家、大丈夫なんですか?」
「元々一人だから」
そうか、元々一人だったなってそんな話ではない。
「今日はここに泊まるんですか?」
「うん」
少し照れたような表情の彼女が、少し暗いこの部屋でもはっきりと見えた。泊まるって……もしかしてこの部屋に泊まる気なのか?
気晴らしにパソコンでニュースや記事を見ていると、気付けは日付が変わりそうな時間になる。二人はまだ戻ってくる気配はなく、都は畳の上で赤ちゃんの様に指をくわえて眠りについた。
「都さん……」
俺はそれを見て、電気を消してブランケットを掛けた。
すやすやと眠る姿が月明かりでぼんやりと見える。元々美人な彼女が余計に神秘的な雰囲気を出す。そっと撫でてやると、優しく微笑んだ。
「なにやってるにゃ?」
「み、ミイコ? しー!」
現れたミイコに俺は人差し指を口に当て、音を立てない様に促した。彼女は声のトーンを落とし問いかける。
「都さん寝たのかにゃ?」
「うん、疲れていたのかもしれないね」
「今日も頑張っていたからにゃあ。神様は都さんの事どうおもっているにゃ?」
「どうって……ミイコ達と同じだよ」
そういうと、ミイコはゆっくりと隣に座る。
「にゃるほどね、都さん神様の事が大好きにゃよ?」
「大好きって、懐いているだけだろ?」
「どうだかにゃ~」
俺はパソコンをそっと閉じ。後ろに手をついた。
「もしかしたら都は、対等に気を遣わず話せる存在が欲しかったのかもしれない」
「ここまで強力な力を持つ猫又だからにゃ~」
「サブローさんより強そうだよね……」
「そうにゃ。だから、ちゃんと自然体に接してくれる神様に惹かれているのにゃ」
ちゃんと自然体って変な言葉だなと思いながらも、ミイコは都の事も良く見ていると思った。
「ミイコも、自然体だろ?」
「私は意識しているのにゃ。なんだかんだで怖いにゃ」
「そうなのか?」
「でも、神様の思っている怖いとは少し違うかもしれないにゃ」
都の肩を、あやすようにポンポンと手を乗せる。暖かい体温を手に感じる。
「神様も、ほっとけない見たいにゃね?」
「なんか、心配になるんだよ」
「今日は都さんと一緒にねたらいいにゃ!」
「いやいやまずいだろ……」
「あれ? なんでにゃ、ミイコはよく一緒に布団にはいっているにゃ?」
「いや、猫の姿とこれとは話が違いすぎるだろ……」
ミイコはニヤニヤとして目を細める。
「やっぱり、意識してるにゃね?」
「ミイコも人の姿なら断るさ」
目線を都にやると、猫耳はあるもののやはり恐ろしく美人。柔らかそうな唇から、少し緩くなった和服の胸元がちらりと見える。
「多分抱き着いても都さんは怒らないにゃよ? 折角だから寝てあげるにゃ」
細い腕に、白い肌。部屋も狭いので隣に布団を引いて寝るくらいなら構わないかと思った。少し距離を取り布団を敷くと、ミイコはスタスタとどこかに行った。
本日も最後までありがとうございます。
誤字報告いつもありがとうございます、助かります&気を付けます(-_-;)